侍女と愛しの魔法使い【旧題:幼馴染の最強魔法使いは、「運命の番」を見つけたようです。邪魔者の私は消え去るとしましょう。】

きなこもち

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私と最愛の魔法使い~王女様、私の夫に惚れられても困ります!~

アッシュの旅・ウィルの決意

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 アッシュはセントラルを出てから、数ヶ月は闇の魔法使い探しに明け暮れていた。おそらく、その男はアッシュとナタリーの父親、アルヴェイン・ウォレスだ。
 アルヴェインは、王宮に紛れ込み、王宮の人間に入れ知恵をしていることは突き止めた。あとはその男を殺すだけだが、その前にアッシュには、やらなくてはならないことがあった。

 彼は国の一番外れの町に来ていた。海辺に座り、遠くを見ていると、10歳くらいの少女に声をかけられた。
「お兄ちゃん、何見てるの?」
 どこか、幼い時のナタリーに似ている少女だった。
「海の向こうには何があると思う?」
「あのね、海のずーっと向こうには、獣人達が暮らす国があるんだよ。」
「獣人?」
「うん。猫や犬のお耳が生えている人達。でも、暮らしが発展してないから、貧しいんだって。いつもお腹を空かせて、飲めるお水もなくて、争いが耐えないって。前にこの町に、海を渡って逃げてきた獣人がいたの。その人が言ってた。」
「へぇ。その獣人は、今もいるのか?」
「ううん。すぐに病気になって、死んじゃった。」
 (獣人が暮らす、発展途上の国か····目的の為に、見てみる価値はありそうだ。)

 アッシュは少女を見て、ナタリーに想いを馳せた。元気にしているだろうか。きっとナタリーのことだから、どこででもやっていけるだろう。
 毎晩、眠りに着く前に思い出すのだ。最後の夜に繋いだナタリーの温かな手や寝顔、唇を。
 ナタリーと血が繋がっていたことはショックではあったが、同時に嬉しくもあった。ナタリーとアッシュは、他人は介入することのできない、唯一の家族だったのだ。
 だからこそ、大嫌いだったあのウィルとかいう男にナタリーを託した。もし、ナタリーが幸せではないのなら、準備ができ次第、アッシュが彼女を迎えに行くつもりだ。もしまた会えたら、姉弟だということを彼女に話す気はない。ナタリーが只の幼馴染としてアッシュを望むなら、それでも構わない。
 アッシュは少女に別れを告げ、その場を去っていった。

 ◇

 ウィルが王宮に連れてこられてから、1週間が経っていた。ウィルはこの醜悪な王女に甘い言葉を囁き、褒め称え、生活を共にしなければならないことに心が折れそうになった。

 (しっかりしろウィル。諸悪の根元であるコイツの懐に入れるのは今俺だけ。言いなりだと思わせて油断させるんだ。しくじれば、ナタリーの命も、他の魔法使いの命もない。)
 ジークリートとナタリーが独自に何か動いているのは気付いていた。また、ごく弱い魔法なら使っても王女達にバレないということも、既に実験済みだ。
 ただ、王女の御機嫌だけ取って過ごすつもりはない。魔法使いにこだわる王女にとって、ウィルは人質でもあるが、弱みでもある。上級魔法使いがいなければ、『王室から魔力を持つ子を誕生させる』という野望は果たせなくなるのだから、簡単には自分達を殺せないはずだ。

 ウィルは昔から、分厚い魔法本の隅から隅までを読み潰し、普通の魔法使いなら読み飛ばしてしまうような小さな魔法まで試すことが好きだった。
 (イースは馬鹿で乱雑だから魔法の種類はほとんど知らないだろう。こんな時に役立つと思わなかった。)
 ウィルは、洗面所の蛇口から少しだけ水を出し、目を閉じて指先を触れた。王宮も離宮も、『水』は元を辿れば出所は同じだ。水属性の魔法でウィルの意識を水に溶かし、王宮と離宮の各部屋で話されている会話を夜な夜な盗み聞きし、情報を得るのが日課となっていた。
 そこで、ジークリーととナタリー達が、『赤い塔』に囚われている魔法使いを逃がす算段をしていることが分かった。
 アッシュの居場所を探す?
 または他の方法を探す?
 いずれにせよ、ナタリーをこんな命を握られているような場所でずっと暮らさせるつもりはない。何かをやろうとしていることがバレれば、すぐにでも牢屋に入れられるか、処刑されるだろう。

「王女様、お呼びですか?」
「私たちの結婚式の日取りが決まったわ。大々的にお披露目しないとね。」
「そうですか····それは楽しみです。」
 王女はクスッと笑い、ウィルの頬を撫でた。
「ウィルったら、結婚するまではキスしかしてくれないのね。寂しいわ。」
「王女様を大事にしたいのです。分かってください。」
「あの女は、さぞかし悔しいでしょうね。ただの行き倒れだと思ってた私に夫を取られ、阿呆な王子の侍女までさせられている。結婚式が終わったら、さっさと消さないとね。目障りだわ。あの女を生かしているのは、あなたが逃げ出さないための単なる保険よ。」 王女がナタリーのことを話すたびに、ウィルは王女をこのまま絞め殺したい衝動に駆られた。
 ウィルが握りしめた拳には、血が滲んでいた。
     
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