友達夫婦~夫の浮気相手は私の親友でした~

きなこもち

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家出

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 奈緒子と寅は公園のベンチに座っていた。奈緒子は少し落ち着き、噴水をボーッと眺めていた。

「ごめんね、寅君。子どもみたいに泣いちゃって。連れ出してくれてありがとう。」

「····いえ、なんかすごいひとですね。はるかさんって。奈緒子さんと旦那さんに対する執着を感じました。」

「·········これから、どうしようか考えてるの。」

「浮気の証拠はあるから、離婚はいつでも切り出せますし、慰謝料も取れます。」

「うん。そうだよね。とりあえず、今は弘人の顔見たくない。ホテル暮らしもお金かかるから、早めに入居できるアパート探さなきゃね。」

「あのー···もし良ければなんですけど、僕、今親戚が持っている古いアパートに住まわせてもらってまして。偏屈な親戚なので、誰でもは貸したくないそうなんです。それで、僕の口利きであれば、空き部屋をご紹介できると思うんですが、どうでしょうか?ボロいので、ちゃんとした住まいが見つかるまででも。早ければ今日明日で住めると思います。」

 奈緒子からすれば、願ってもない話だった。すぐにでも家から出たかったので、寅に紹介してもらうことにした。

 寅がすぐに親戚に電話をかけ、事情を説明してくれた。

「急ぎであれば、今日の入居、大丈夫だそうです。夕方にでも鍵を取りに行くので、また駅で待ち合わせましょうか?」

「寅くん、何から何まで本当にありがとう····!!」

 浮気調査に、仮住まいの手配まで、寅には感謝しかなかった。一度家に戻り、必要なものを荷造りしてから、寅と落ち合うことになった。

 じゃあまた、と手を振り、奈緒子は重い足取りで自宅に向かった。弘人から何度か着信が入っていたが、奈緒子は無視をした。

 まだ弘人が自宅に帰っていませんようにと祈りながら、家の鍵を開けた。誰もいない。シーンと静まり返ったリビングに入ると、慣れ親しんだ家が、なんだか別人の家に感じた。

 弘人が戻ってくる前にと、急いで最低限の荷物をスーツケースに詰め、大きなものはダンボールに詰めて郵送することにした。

 いずれはきちんと話さなければいけないが、しばらくは弘人と連絡を取りたくはなかったので、置き手紙を残すことにした。

『弘人へ     
 しばらくはアパートで暮らします。
 必要な時期に、こちらから連絡しますので探さないでください。』

 簡単に手紙を書き、念のため用意しておいた離婚届をカバンに入れ、弘人と暮らした愛の巣を後にした。

 ◇

 その後、最寄りの駅で寅と合流し、寅が住んでいるアパートまでやってきた。2階建ての古いアパートで、寅は2階の角部屋、奈緒子は隣の部屋だった。既に日は暮れていた。

「はぁ····今日は本当に色々なことがあったわ····浮気が発覚して、親友と修羅場して、家を出て今は全く違うアパートに住もうとしてる。間違いなく、私の人生で最も濃い1日ね。」

 奈緒子が自虐的に言うと、寅は憐れむような目で奈緒子を見て、小声で「お疲れ様でした。」と言った。

「お疲れでしょうから、早く部屋でゆっくりしてください。必要なものがあれば、僕の家から持ってきますので、遠慮なく言ってくださいね!」

 寅は笑顔でそう言うと、親戚から借りてきた奈緒子の部屋の鍵をカバンから取り出し、ガチャガチャと鍵を開けようとした。

 しかし、何度開けようとしても、カギが開かない。

「····あれ?おかしいなぁ·····」

「あの、もしかして、前の人が出ていった時に鍵を変えたんじゃない?」

「···············」

 2人の間に沈黙が流れた。急いで寅が親戚へ電話で確認すると、確かに鍵を変え、その事を忘れた親戚のオーナーが、前の鍵を渡してしまったということだった。

「····もう!何してんだよ···今から取りに行ったら遅くなっちゃうし····」

 寅は困ったように頭を掻いていた。

「あの、寅くん大丈夫よ。今日は私どこかホテルに泊まるから!」

「いえ!悪いです。それに、今の時間から、今夜のホテルなんて空きがないです。」

「····それじゃあ、あの、すごく図々しいお願いなんだけど、1日だけ、私を寅くんの部屋に泊めてくれない?」

「····え?」

「あの!本当に部屋の隅っこで寝るので。良からぬことは考えてないので安心してください。ここから駅まで少し距離もあるし、回りには泊まるようなところもないし、それが一番助かるんだけど、ダメかな····?」

 奈緒子が申し訳なさそうにお願いすると、寅は逆に申し訳なくなってしまった。

「いえ、奈緒子さんがそれでいいのであれば、僕は全然·····!!ちょっと待ってもらっていいですか?部屋を片付けてきます。」

 寅は焦ったようにそう言うと、バタバタと部屋の中に消えていった。10分後、部屋に通された奈緒子は「お邪魔します」と言って寅の部屋へ入った。


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