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寅の部屋
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寅はキレイ好きなのか、部屋の中は整頓されごみ1つ落ちていなかった。リビングには、書きかけの油絵がいくつか置いてあった。
「わぁ~!やっぱり美大生だけあって、絵が上手なのね!」
「いえ、美大生なだけで、絵は中の下ってとこです。それは課題で提出しなきゃいけないやつです。」
奈緒子には十分上手に見えるのだが、絵も奥が深いのだろう。
「奈緒子さん、お腹すきませんか?簡単で良ければ、僕何か作りますのでゆっくりしててください。」
奈緒子は、寅の気配りの凄さに感動してしまった。テーブルに出された、奈緒子の大好きなホットカフェオレを飲みながら待っていると、料理のいい匂いがしてきた。
テーブルには、サラダと白ご飯と、シチューが並べられていた。
「わぁ~美味しそう!シチュー寅くんが作ったの!?凄いじゃない!」
うちの旦那はシチューなんか作らないわよ、と口に出してしまいそうになるのをぐっとこらえた。
「いえ、全然すごくないです。」
寅は謙遜したが、シチューはすごく美味しくて、奈緒子は心も体も温かくなった。
「ご馳走さまでした!」
「お粗末様でした。」
お互いに何も話さず、シーンとした空気が流れた。
「····奈緒子さん、シャワー先にどうぞ····」
寅が言い終わらないうちに、奈緒子が話し出した。
「寅くんあのね、今日、鍵開かなくて良かったかも。」
「····え?どうしてですか?」
「今日、知らない部屋で、一人でコンビニ弁当食べるのはしんどかったなって。寅くんがいてくれて良かった!迷惑かけちゃったけど、すごく心強かったです。ありがとうね。」
「いえ、これくらい、いつでも····」
寅は照れているのか、奈緒子と目を合わせずごにょごにょと下を向いて何か言っていた。
それから、奈緒子は部屋の隅ではなくソファーを借りて寝た。
翌日、申し訳なく思った寅の親戚が、アパートまで新しい鍵を持ってきてくれた。
その際、奈緒子が寅の部屋から出てきたので、親戚の男性は、
「寅は女1人口説くこともできねぇ男だと思ってたよ!傷心の人妻落とすなんて、アイツもやるじゃねぇか!」
とかなり誤解している様子だったので、丁寧に誤解を解いておいた。
ともかくも、奈緒子の新しい部屋での生活がスタートした。
朝の出勤時に、部屋を出たタイミングで、寅と顔を合わせることもあった。そんなときは、行き先が近い為、職場の近くまで一緒に通勤することもよくあった。
職場の同僚に、たまたま寅と一緒にいるところを見られ、聞かれたことがある。
「ねぇねぇ!今朝の男の子誰?秋月さん、結婚してたよね····?もしかして、最近流行りのママ活とか?」
何てことを言ってくるんだと奈緒子は思ったが、笑って否定した。
「違いますよ。実は、今旦那と別居中でして。あの子は、お隣の学生さんなんです。変な関係じゃないですよ?」
変な関係といえば確かに変な関係だが、乱れた関係でないのは確かだ。
「あら~···別居中なのぉ。秋月さんの旦那さん、かっこいいから色々あるわよねぇ。でも、注意してね。相手の浮気だったら慰謝料とれるけど、こっちも浮気しちゃったら意味ないからね!恋愛するなら離婚したあとか、ばれないようにやりなさい~!」
そんな当たり前のことを、アドバイスかのように言われても困るのだが、とりあえず奈緒子は「気を付けます~」と言って笑っておいた。
お昼に、いつもの河川敷で昼食を食べていると、「奈緒子さん~」と寅が手を振って走ってきた。
寅といるのは、奈緒子にとってとても居心地が良かった。弘人のように、趣味がピタっと合うというわけではないが、寅のゆるりとした雰囲気に、奈緒子は癒されるのだ。
「寅くんって、癒し系だって言われない?」
「えぇ?いえ、言われないです。どちらかというと、めんどくさい奴だとか、変人だとか言われることが多かったです。」
奈緒子は笑ってしまった。
「ううん、マイナスイオン出てるよ。この辺から!」
奈緒子が寅の前髪辺りを何気なく触った瞬間、寅がバッと上体を反らし、奈緒子を見た。
「──あぁ、ごめんね!急に触って····」
嫌だったかと思い、奈緒子は謝った。
「いえ、驚いただけで····僕、授業があるので失礼します!」
寅は焦ったように、バタバタと走って行ってしまった。
他人から触られるのが、嫌な人もいることを意識していなかった。自分の軽率さに反省する奈緒子だった。
「わぁ~!やっぱり美大生だけあって、絵が上手なのね!」
「いえ、美大生なだけで、絵は中の下ってとこです。それは課題で提出しなきゃいけないやつです。」
奈緒子には十分上手に見えるのだが、絵も奥が深いのだろう。
「奈緒子さん、お腹すきませんか?簡単で良ければ、僕何か作りますのでゆっくりしててください。」
奈緒子は、寅の気配りの凄さに感動してしまった。テーブルに出された、奈緒子の大好きなホットカフェオレを飲みながら待っていると、料理のいい匂いがしてきた。
テーブルには、サラダと白ご飯と、シチューが並べられていた。
「わぁ~美味しそう!シチュー寅くんが作ったの!?凄いじゃない!」
うちの旦那はシチューなんか作らないわよ、と口に出してしまいそうになるのをぐっとこらえた。
「いえ、全然すごくないです。」
寅は謙遜したが、シチューはすごく美味しくて、奈緒子は心も体も温かくなった。
「ご馳走さまでした!」
「お粗末様でした。」
お互いに何も話さず、シーンとした空気が流れた。
「····奈緒子さん、シャワー先にどうぞ····」
寅が言い終わらないうちに、奈緒子が話し出した。
「寅くんあのね、今日、鍵開かなくて良かったかも。」
「····え?どうしてですか?」
「今日、知らない部屋で、一人でコンビニ弁当食べるのはしんどかったなって。寅くんがいてくれて良かった!迷惑かけちゃったけど、すごく心強かったです。ありがとうね。」
「いえ、これくらい、いつでも····」
寅は照れているのか、奈緒子と目を合わせずごにょごにょと下を向いて何か言っていた。
それから、奈緒子は部屋の隅ではなくソファーを借りて寝た。
翌日、申し訳なく思った寅の親戚が、アパートまで新しい鍵を持ってきてくれた。
その際、奈緒子が寅の部屋から出てきたので、親戚の男性は、
「寅は女1人口説くこともできねぇ男だと思ってたよ!傷心の人妻落とすなんて、アイツもやるじゃねぇか!」
とかなり誤解している様子だったので、丁寧に誤解を解いておいた。
ともかくも、奈緒子の新しい部屋での生活がスタートした。
朝の出勤時に、部屋を出たタイミングで、寅と顔を合わせることもあった。そんなときは、行き先が近い為、職場の近くまで一緒に通勤することもよくあった。
職場の同僚に、たまたま寅と一緒にいるところを見られ、聞かれたことがある。
「ねぇねぇ!今朝の男の子誰?秋月さん、結婚してたよね····?もしかして、最近流行りのママ活とか?」
何てことを言ってくるんだと奈緒子は思ったが、笑って否定した。
「違いますよ。実は、今旦那と別居中でして。あの子は、お隣の学生さんなんです。変な関係じゃないですよ?」
変な関係といえば確かに変な関係だが、乱れた関係でないのは確かだ。
「あら~···別居中なのぉ。秋月さんの旦那さん、かっこいいから色々あるわよねぇ。でも、注意してね。相手の浮気だったら慰謝料とれるけど、こっちも浮気しちゃったら意味ないからね!恋愛するなら離婚したあとか、ばれないようにやりなさい~!」
そんな当たり前のことを、アドバイスかのように言われても困るのだが、とりあえず奈緒子は「気を付けます~」と言って笑っておいた。
お昼に、いつもの河川敷で昼食を食べていると、「奈緒子さん~」と寅が手を振って走ってきた。
寅といるのは、奈緒子にとってとても居心地が良かった。弘人のように、趣味がピタっと合うというわけではないが、寅のゆるりとした雰囲気に、奈緒子は癒されるのだ。
「寅くんって、癒し系だって言われない?」
「えぇ?いえ、言われないです。どちらかというと、めんどくさい奴だとか、変人だとか言われることが多かったです。」
奈緒子は笑ってしまった。
「ううん、マイナスイオン出てるよ。この辺から!」
奈緒子が寅の前髪辺りを何気なく触った瞬間、寅がバッと上体を反らし、奈緒子を見た。
「──あぁ、ごめんね!急に触って····」
嫌だったかと思い、奈緒子は謝った。
「いえ、驚いただけで····僕、授業があるので失礼します!」
寅は焦ったように、バタバタと走って行ってしまった。
他人から触られるのが、嫌な人もいることを意識していなかった。自分の軽率さに反省する奈緒子だった。
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