友達夫婦~夫の浮気相手は私の親友でした~

きなこもち

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待ち伏せ

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 奈緒子が家を出てから1ヶ月が経った。
 そろそろ弘人に連絡をしなければならない。弘人とはるかを許す気になど到底なれないが、奈緒子の気持ちが落ち着いたことで、2人に面と向かって、話ができる気がしてきた。

 その日、奈緒子は仕事を終え帰ろうとしていた。その時、職場を出たところにある階段の下に、誰かが立っていた。

 弘人だ。

 奈緒子は、とっさに職場に戻ろうとしたが、ずっとあそこで待たれていても困る。弘人の顔を知っている同僚が数人いる為、夫婦でなにか揉めている、などと同僚に思われたくなかった。
 奈緒子は覚悟を決め、ゆっくりと弘人に近付いた。
「······弘人。久しぶり。何で来たの?」
 奈緒子は、できるだけ感情が出ないよう、ぶっきらぼうに言った。
「──奈緒子、電話もメールも見てないし、どこに住んでるか分からなかったから。話したいんだ。」
 弘人のただ事ではない雰囲気を感じ取ったのか、職場から出てきた職員がこちらをちらちら見ていた。
「·······とにかく、場所変えよう。ここじゃ目立つから。」

 2人は、近くのファミリーレストランに移動した。
 店内は、家族連れが多く、小さな子どもが幸せそうにお子さまランチを食べていた。両親も優しそうで、愛しそうな目で子どもを見ていた。仲睦まじい家族の光景が、自分とはあまりにかけ離れていて、奈緒子には眩しかった。

 席に着くなり、弘人が頭を深々と下げて謝ってきた。
「──奈緒子、本当に傷付けてごめんなさい!!俺がバカでした。」
「─────うん、謝罪は受け入れる。でも、謝ってもらってももうどうしようもない。私はもうあなたを信じられないし、はるかの顔なんか二度と見たくない。ひろ君とはるかが浮気してた事実が消せないように、私のひろ君への不信感も消せないの。」
 弘人はひどく悲しそうな顔をして、すがるような目で奈緒子を見た。
「俺のこと、今は信じてくれなくていい····!一生かけてでもなおちゃんに信頼してもらえるように、努力する!だから、家に帰ってきてください。俺はなおちゃんがいなきゃ生きていけない·····!」
 奈緒子は、もうどうしたらいいか分からなくなっていた。いっそのこと、弘人がはるかを選んで、奈緒子を捨ててくれたらどんなに楽だっただろうか。
 結婚した男が、妻以外の女に目もくれないとは奈緒子も思ってはいない。大半の男はそのチャンスがないだけで、妻よりも美しい女性が積極的に誘ってきて、断れる男はどれくらいいるだろうか。弘人も奈緒子より美人の女性に誘われ、魔が指したのだろう。
 しかし、それがはるかというのが、奈緒子にとってはどうしようもなく辛かった。しかも、親友であったと知った後も関係を続けていたことは、どう考えても理解できなかった。
「········楽しかった?」
「────え?」
 奈緒子は、嫌味でも何でもなく、ただずっと心の中で感じていた疑問を、弘人に吐露した。
「妻を傷付けるかもって思ってもやめられないくらい、楽しかったのかなって。私とはるかが親友だって知った後、それでもはるかと会ってたんだよね?····ドキドキした?いけないことしてるなって思うと、余計燃え上がった?はるかとのセックスが気持ちいいから、私なんか抱けないなって思ったの?」
 奈緒子は途中で泣いてしまい、言葉を続けることができなかった。

 弘人は、奈緒子に駆け寄り抱き締めたかったが、泣かせているのは弘人だ。自分にそんな資格はないと出しかけた手を握りしめた。
「なおちゃん······ごめんね。俺本当に馬鹿なんだけど、なおちゃんが隣にいるのに慣れすぎて、調子に乗ってたんだ。一緒に生きていきたいのはなおちゃんだけなのに、一時の刺激に流されてた。山内さんとはもう会ってないし、今後も2度と会わない。約束する。」

 奈緒子には、弘人を一度は許したい気持ちがあった。これまでの奈緒子と弘人の思い出全てが嘘だったわけではない。奈緒子は、今までは確かに弘人に愛されていると感じていた。
 ドラマのように、浮気した旦那をさっさと捨て、浮気相手の女にビンタし、新たに現れたどこかの御曹司がさらってくれたら痛快なのだが、現実はそう甘くはなかった。
「私だって、ひろ君のこと許したいよ。でも、すぐには無理。時間が必要なの。」
「なおちゃん····!考えてくれてありがとう。」
 弘人は心底嬉しそうに、奈緒子の手を握りお礼を言った。
「なおちゃん、早く家に帰ってきて。それからゆっくり、これからのこと考えよう。」
 弘人に説得されていた時だった。

 弘人の携帯が鳴った。

 弘人が相手を確認した。
「山内さんからだ····奈緒子、あれから、本当に連絡はとってない!たまたま今かかってきたんだ。」と焦って説明していた。
 奈緒子は、「電話かして。」と言い、はるかから弘人にかかってきた電話に出た。
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