友達夫婦~夫の浮気相手は私の親友でした~

きなこもち

文字の大きさ
13 / 21

最悪の告白

しおりを挟む
 はるかが到着するのを待っている間、奈緒子と弘人の間には緊張感のある沈黙が流れていた。
 はるかの言う、奈緒子も聞いた方がいい『大事な話』というのが、奈緒子にとって最悪の話にしか思えなかった。
「ねぇ、弘人。念の為聞くんだけど、避妊はしてたんだよね?」
「当たり前だよ!毎回ちゃんとしてた。」
「本当に?1回もしなかったことない?」
 最初は言い切った弘人だったが、少し考えるような間があったので、奈緒子は『こいつやってるな』と思った。
「最低····心当たりあるじゃん。いつどこで?」
 もうここまで来たら、全てを白状してもらった方が奈緒子もスッキリするというものだ。
「2ヶ月前·····ジムの更衣室で·····」
 奈緒子は弘人を心底軽蔑した。
「··········何考えてんの!?ほんっと不潔だよ!」
「──本当にごめん!勢いのままやっちゃって····!でも、中には出してない·····」
 まるで高校生のような言い分に、奈緒子は呆れ返ってしまった。
「でも、着けないで入れたなら可能性あるからね?『あなたの子よ』って言われたら、逃げられないよ。」
 2人はそう言い合いをした後、お互いに何も話さなくなった。まだそういった内容の話かどうかは分からないが、奈緒子はもうひどい現実を受け止められる自信がなかった。

 ちょうどその時、入店し、店員に案内されている深く帽子を被った寅が見えた。コソコソしながら、少しだけ奈緒子たちが見える位置の席に座った。
 (本当に来てくれたんだ、寅君······)
 こんな状況に似つかわしくないが、奈緒子は少しだけ心強くなった。自分に味方はいないと思っていたが、寅が居てくれるなら、自分は精神を保てる気がする。

 しばらくすると、はるかが入店し、笑顔で弘人と奈緒子の席までやってきた。まるで、『ごめんごめん、お待たせ~!』とでもいいそうな明るい雰囲気に、奈緒子ははるかのことが不気味だと思った。
「話って何?赤ちゃんでもできた?」
 奈緒子は、焦らされたり、言葉遊びをされたくなかったので、単刀直入に聞いてみた。
「えー!!すごい奈緒子!さすが私の親友だね。そうなの。今日病院行ってきてね、心拍確認できて······8週目だって。」
 はるかは、弘人を見ながら頬を染めて告白した。おめでとう!と喜んでもらえるとでも思っているのだろうか?

 予想通りの最悪な展開に、奈緒子は笑い出しそうになってしまった。今時、浮気相手が妊娠したなど、昼ドラでも流行らない。
 奈緒子自身は、子どもはすぐにでも欲しかったので、避妊はしていなかった。しかし、5年経っても子どもができなかった為、そろそろ妊活を始めようか、と弘人と話していた矢先のことだった。
「それでね、次はパパも病院付いてきてって。弘人くんのお母さんにも報告しなくちゃ。子ども、欲しがってたでしょ?奈緒子も弘人くんのお母さんのところ、一緒に行く?今の奥さんは奈緒子だから、一緒にいた方がいいと思うの。今後の話もあるだろうし。」
 弘人は頭を抱え、顔が真っ青になっていた。
「こんなこと言いたくないんだけど····本当に俺の子?あのたった1回で、妊娠すると思えないんだけど。」
「もちろん!私は弘人くんしかいないわよ。そう言われても、妊娠したんだもの。私はこの子を産むわ。弘人くんには、この子の父親になって欲しい。」
 はるかは、マタニティハイにでもなっているのか、訳の分からないことを1人で喋り続けていた。奈緒子はもう、精神をボロボロにされた挙げ句、話の通じない化け物のようなはるかと戦う気力が残っていなかった。
「───私、帰る·······」
 奈緒子がフラフラと立ち上がり、帰ろうとすると、弘人から腕を掴まれた。
「·····奈緒子!待って。俺も奈緒子と一緒に帰る。俺たちの家に帰ろう······!」
 奈緒子は力任せに弘人の手を振り払い、
「触らないで!!!」
 と叫んだ。周りの客がギョっとして奈緒子を見た。
 すると、はるかが、周囲に会釈をしながら
「ごめんなさいうるさくして。」
 と、さも奈緒子を迷惑客扱いしているのが聞こえ、奈緒子は堪忍袋の緒が切れてしまった。

 今こそ、この2人にドラマのように颯爽と、グラスの水をかけるときだ。ここまでやられたのなら、水をかけられても文句は言えないはずだ。

 奈緒子は勢いよくグラスを取り、はるかにかけようとしたが、はるかが妊婦だということを思い出した。
 隣の弘人にかけようとも思ったが、弘人に対しては複雑な感情が残っており、水をかけるという行為を躊躇してしまった。
 グラスを持つ腕が行き場を失っていた時、後ろから寅の声がした。
「奈緒子さん····!暴力はダメです!!」
 振り向いた奈緒子は、勢い余ってグラスの水を、寅の顔面に思いっきりかけてしまった。

 ポタポタと寅の髪から水がつたっているのを見て、奈緒子はハッとした。
「····と、寅くん!?───ご、ごめんなさい!!私·······!」
「───いえ、大丈夫です。奈緒子さん、帰りましょう。」
 顔にかかった水を、服の袖で拭うと、寅は奈緒子の手を取り、外へ連れ出した。

 はるかも弘人も呆気にとられ、寅と奈緒子の後ろ姿をただ呆然と見ていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

幼馴染の許嫁

山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

処理中です...