あなたの隣で初めての恋を知る

その後の僕と彼は

その後の僕と彼は

窮屈じゃないのかな。ふと思ったけど、斎藤さんの体がぴたりと密着している吉村さんはすごく嬉しそうだった。何気に気になって斎藤の顔を見ると、斎藤さんは吉村さんに気付かれないように、ちらっちらっと何度か吉村さんの顔を見て、そのたびに愉しそうににっこりと微笑んでいた。もしかして斎藤さんも吉村さんのことが好きなのかも知れない。そうなるとふたりは両片思いだということになるのかな、そんなことを考えていたら、
｢この男、さっきもいなかったか？」
カウンター越しにお店の女の子と談笑する若い男性を彼が指差した。
ひときわ長身で、すらりとした白いスーツ姿。すんなりした輪郭線が描き出すとても美しい顔をしていた。
その男性は大きな片手にカサブランカの花束を持ち、もう片手に、水色のリボンがついた可愛らしいクッキー缶を持っていた。
それを見ていた斎藤さんの顔がみるみるうちに青ざめていった。
｢斎藤どうした？」
｢この男、中国に本部を構えるある宗教団体の教祖だ。殺人と人身売買と違法薬物を密造し密売した罪で国際指名手配されている」
｢そんな偉いひとがなぜ日本にいるんだ？」
｢菱沼組は昇龍会という大きな組織のヤクザの直属の組だ。その昇龍会と敵対している組が、男を匿い、片棒を担いで密造された違法薬物を売りさばき甘い汁を吸っている。クッキー缶の中身は焼き菓子だが、そのうちどれかは大麻入りだ。安易に足が付かないようにするため、彼らはあの手この手を使っている」
薬物中毒で亡くなった若い女性もいる、それを聞いて胸が締め付けられそうになった。