記憶の中に僕は居ますか

遭綺

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想いが弾ける匣

二人が立ち寄った場所。
そこはアウトレットに併設されている真っ白な観覧車であった。
大きくもなく、小さくもない。特段、景色が良い訳でもない。
一周約10分程度で回れる。
夕方に近づいているため、夕日に染まりつつある観覧車はとても輝いて見えた。

「また此処に来れたな」
「そうだね。こうして二人揃って」
二人は順番待ちをしながら、そんな事を話していた。
周りにいるのは家族連れや、仲睦まじいカップルばかりだが、そんな事は気にならない。
「次のお客様どうぞ!」
スタッフに促され二人は観覧車に乗り込む。

ゆっくりと頂に向けて上がり始める。

二人は対面に座って、外の景色を眺めていた。
「今日も楽しかったよ。夬皇が買い物に行こうって誘ってくれたからだな」
勇緋の言葉に、夬皇が振り向く。
「俺も。良い休日を過ごせたー。明日から仕事頑張れる!」
そう言って夬皇は静かにガッツポーズを見せた。
「ああ、そうだ。忘れないうちに」
勇緋は先程購入したネックレスが入った箱を開けた。
「夬皇。こんな俺と、ずっと一緒に居てくれて本当にありがとう。
これからもよろしく」
少し照れつつも、しっかりとした口調で勇緋は言葉を紡ぐ。
夬皇は少し動きを止めてから、すぐに笑みを見せた。
そして、スッと手を伸ばしてネックレスを手に取ると、それを首から下げた。
「すげぇ、嬉しい。勇緋の想いが詰まったプレゼント、ずっと大切にする」
服の上からクロスが夕日に反射してキラリと輝く。
その輝きと、彼の眩しい笑顔を見た勇緋は言葉を失ってしまった。
あまりにも綺麗で、どこか儚い感じがたまらなくなった。

そして彼は無意識のうちに、身体を前のめりにして、夬皇と唇を重ねていた。
当の夬皇は驚いた表情を見せていた。

束の間、周りの何もかもの時間が止まった気がした。
観覧車も、施設を歩く人も、鳥達も。
二人だけが生命としての活動を許されているようだった。

すぐに勇緋はハッとして、急いで席に戻った。
「ご、ごめん。つい、こんな所で」
彼は口に手の甲を添え、視線を逸らしながら震える声でそう言った。
だが、夬皇はすぐに笑みを見せる。

「あの時と同じだね。初めて二人でここに来た時と」


【それは五年前に遡る】


大学を卒業目前、就職活動中のわずかな休息の合間を縫って、
二人でこのアウトレットに遊びに来る機会があった。
そんな時に、この観覧車を見つけた。
始めはお互いに乗り気じゃなかったが、二人とも人生でそれに乗ったことがない事が判明したので、人生経験として乗る事にした。

「次のお客様どうぞ!」
スタッフに促され、学生の二人は観覧車に乗り込む。

二人は対面に座って外の景色を眺める。
「まさか、神塚・・も観覧車に乗った事がないなんて知らなかったわ」
「俺だってそうさ。だったら絶対彼女と乗ってると思ってた」
「何それ、俺、そんなにチャラついて見えるの?」
この頃の夬皇は黒髪であったが、顔面偏差値はSSS級を誇っていたので、好きな人の一人や二人、デートなどですでに経験済みなのでは、と勇緋は勘繰っていた。

「チャラついているって事じゃない。それだけ、お前自身が魅力的って事だよ」
「…えっ」

咄嗟にそんな台詞が出てしまった。ずっと奥底に閉じ込めていた言葉。
その入れ物の鍵が外れてしまったらしい。あまりにも自然に誤爆したと勇緋は思った。
急な事に、夬皇も戸惑っている。
「あ、えっと、その…」
取り繕うとすればするほど、あたふたするし、どんどん顔も赤くなってくる。
だが、しばらくまた就職活動で会えなくなるし、ここは一度自分の想いを伝えておこうと覚悟を決めた。
普段は優柔不断な部分がある勇緋であるが、ここぞと言う時の立ち向かう姿勢はまさにおとこであった。

「俺さ。柊の事、好きなんだ」

勇緋は膝の上で拳を握りしめながら、力強い声でそう言った。
しかし、すぐに恥ずかしさが勝ったのか、視線がどんどん下に向かって行く。
「神塚…」
それから二人は少しだけ黙り込む。
「初めて…」
勇緋が口を開く。
「初めて会ってから話をするうちに、どんどん柊と一緒に居たい気持ちが強くなってきたんだ。カラオケに行った時や、ライブに行った時の帰り、お前と別れるのがたまらなく寂しかった。会えなくなったらどうしようって。今日だってそうだ。
これからますます時間が取れなくなる。そう考えただけで苦しくなる。それはお前がもう、俺の大切なヒトになったからなんだって思ってる。この気持ちはこれからもずっと変わらない」
俯きながら、少し早口で澱みなく勇緋は言葉を発した。
「引かれても良い。だけど、この気持ちだけは伝えておきたかったんだ」
温めておいた言葉を言い終えると、心の箱の鍵がカチッと掛かった気がした。

二人の乗るゴンドラはもうすぐ頂に差し掛かろうとしている。

「なんで、そんな事を言うの?」
その言葉に、思わず顔を上げ、彼の表情を覗く。
夬皇は少し怒っているように見えた。
(やっぱり、言うべきじゃなかったか)
「なんで、俺より先に言うのさ!」
だんだん語気が強くなってきている。
「…は?」
「卒業する前に言おうと思って我慢していたのに!」
「えっ、柊?」
「俺も神塚とずっと一緒に居たいよ。もう俺の中で、友達って言うレベルをとっくに超えてる!」
夬皇の声色が変わると同時に、それから二人の視線が合わさる。

「俺も好きだよ、勇緋ゆうひ

そう言って、夬皇が身体を前のめりにして、勇緋に接近する。
そして、ゴンドラが頂に辿り着くと共に、二人は初めて唇を重ねた。

まるでそれを祝福するかのように温かい日の光が二人の乗るゴンドラを照らす。
この時を境に二人の関係は友達から大切なヒトへ進化クラスチェンジしたのだった。


――――――。


「勇緋はさ、観覧車に乗るとリミットが外れると言う技能アビリティ持ちなの?」
「お、おいっ。俺を何だと思っている!」
勇緋が反論しようとした時、夬皇がすぐ隣に座りこみ、そのままその大きな手で彼の頬に手を触れる。
「いつまでも俺の大切で好きなヒト、だよ」
そのまま抱き寄せられ、夬皇の肩に勇緋の頭が乗った。
「夬皇」
なんて自分はチョロいのか。彼の手に触れられただけで言う事を聞いてしまう。
「それと、ちゃんと自分もコレ、付けないと駄目だよ?」
夬皇は彼らの間に置いてある手提げ袋から、ネックレスが収められたもう一つの箱を取り出す。
「勇緋、頭起こして」
言われるがまま、彼は夬皇の肩から離れると、そのままお揃いのネックレスを掛けてもらった。
「似合ってる」
「あ、ありがとう」
それから二人はゴンドラが元の位置に戻るまで、横並びになって過ごした。

「お疲れ様でした!」
スタッフの元気な声と共に、ゴンドラの扉が開く。

軽やかな動きで夬皇が降り立つと、スッと手を伸ばして勇緋をエスコートする。
そこまでしなくてもと思いつつ、彼は夬皇の手を取った。
まるでシンデレラの気分になったようだ。
いけない、妄想がまた爆発している。
そんな彼の視線の先に列の真ん中辺りに並んでいた女性二人組と目が合った。
素敵な笑顔と共に合掌ポーズをされたので、妄想は自分だけではないのだと肯定出来て嬉しくなった。

暗くなった駐車場へ向かう帰り道。通路を照らすライトが幻想的に映った。
「あのさ、俺も一つやってみたい事があるんだけど、良い?」
「俺で出来る事で良ければ」
「…手を、繋いで歩きたい」
「えっ、俺と?」
「他に誰が居るのさ。やっぱり、恥ずかしい?」
「い、いや。別に」
「それなら。はい」
夬皇が再び手を差し伸べて来た。否が応でも意識させられる。
ゆっくりと勇緋も手を伸ばすと、掌が触れ合う。そしてそのまま強く握り締められた。
「どうですか?」
「どうですかって、聞くなよ」
「ゴメン、普通にいつもの感じで聞いちゃった」
あまりにも自然だったので、夬皇は笑ってしまっていた。
連られて勇緋も笑みを見せた。
「でも。これでお互い、寂しくないね」
「…うん」
二人はそのまま駐車場へ向けて歩き始める。互いの体温を感じながら。

「夕飯、折角だし何処かで食べてく?」 
「いいよ。あ、肉以外でお願いします」
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