記憶の中に僕は居ますか

遭綺

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サプライズ・ウインター

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時間の流れは早いもので、あっと言う間にその年のクリスマスを迎えた。
生憎、平日水曜日と言う事で、二人揃って何処かに出掛ける事は出来なかった。
二人ともその日は仕事であったが、隙を見てはメッセージでやり取りをしていた。

【補足】 
:の前の名前の表記の仕方は、彼らのメッセージアプリの登録名となります。

【H.Wako:今日は仕事早く終わりそう?】
【神勇:全然。年末のせいとクリスマスに午後休を取る人が多くて、死にそうです】
【H.Wako:マジ? じゃあ、今日は帰り遅いね。(´;ω;`)】
【神勇:残念ながら。お前とシャンパン、開けたかったけど】
【H.Wako:仕方ないよ。今年は社会人を全うしましょう。
しっかり稼いできて下さい】
【神勇:冷たいなぁ。これからプレゼンだから、パワーをくれ】
【H.Wako:そうなの? 頑張ってね! いくぞぉ、俺の全力応援パワー!】

「なんだよ、全力応援パワーって」
勇緋は彼の送った文面を見て、思わず吹き出してしまった。
プレゼンへ向かうため、会社の廊下を歩きながら、唯一隠れて携帯を眺める事が出来る時間だった。
(でも、変な力が抜けたわ。ちゃんと臨めそうですよ)
心の中でそう呟きながら、急いで文字を打ち込む。

【神勇:パワー受け取りました。応援感謝。行って来る】

勇緋は携帯をグッとスーツのズボンに押し込んで、プレゼン会場となる会議室の扉をノックするのだった。
すると、夬皇からの返信があったのか、携帯が震え、彼の左腕のスマートウォッチにその文言が映った。

【H.Wako:勇緋なら大丈夫だよ。ずっと大好き、頑張れ!】


それから無事プレゼンも乗り切り、その日の仕事終わりの時間になった。
忙しさの余り、普段より1時間程残業をしてしまった。
帰りのエレベーターで、ようやく携帯に触れる。

【神勇:今、仕事終わった。これから帰る】

すぐさまその一文だけを入れて、そそくさと会社のビルを後にする。

駅に向かう街路樹もクリスマス仕様に様変わりしていた。
キラキラと眩しい電飾の光がとても綺麗だった。
そして、いつも以上に人が多い。
風が吹くと異常に寒い。コートを着ていても凍えるくらいに。
駅へ向かういつもの道なのに、とても遠く感じられた。
そんな時だった。

【H.Wako:あ。見つけた! そこで立ち止まって右見てみて】

少し遅れて今頃、彼から返信が届いた。
「右?」
文言の通り勇緋は何も考えず、通りの右側を見てみた。
そこには、街路樹を囲むように置いてあるベンチに腰掛け、こちらをジッと見つめる夬皇が居るではないか。
まさかの事に言葉を失う。
驚くのも束の間、すぐに携帯に着信が入る。
もしもし、も言わずに電話に出てしまった。

「どう、驚いた?」

頭の整理が付いておらず、言葉が見つからない。
だが、彼の言葉を聞いた途端、心の中の蟠りがスッと消えた気がした。
声を発する前に、勇緋は彼に向かって自然と駆け出す。身体が勝手に動いていた。

ベンチで待つ夬皇の元に辿り着いた勇緋。
「お疲れ様。仕事、大変だったね」
夬皇が口火を切る。
「そんな事より、お前…なんで」
「仕事早く終わったんだ。それと、SNSでここのイルミネーションが綺麗だって皆言っていたからさ。
一緒に観たくなっただけ」
へへっと、少し照れくさそうに鼻の下を人差し指で擦りながら話す夬皇。
そんな彼の顔を見てみると、鼻と頬が赤くなっていた。長い時間、ココで待っていてくれたのだろう。
余りにもその健気な姿に、勇緋は胸がいっぱいになった。
何も言わず、勇緋は彼に抱き付く。
「勇緋?」
「お前、ズルいよ。嬉し過ぎて、可笑しくなりそうだわ」
彼の言葉に、夬皇はそっと彼の頭にその凛々しい手を置く。
「サプライズ成功だね」

どれだけ冷たい風が吹こうとも、今の勇緋には関係なかった。
彼と抱き合っているだけで、無敵で居られる気がした。

「でもね。ここに来た本当の目的はもう一つあるんだ」
そう言って夬皇は自らの携帯を見せた。

「写真、更新したいなって」

「そっか。もうあれから一年が経つんだな」
「ねえ、あそこで撮らない?」
夬皇が指さす方向には、一際大きくイルミネーションがふんだんに施された街路樹があった。
まるで星々が輝いているように見えた。
「うん。お前との思い出が増えるなら喜んで」
二人は一度フッと笑ってから、横に並んでそこを目指す。
そして、二人は大きな街路樹をバックにして、写真のアングルを探る。
「今年はちゃんと笑ってよ?」
「うぅ。が、頑張るよ」
夬皇は長い腕を使って、携帯のカメラを二人に向ける。
「こんな感じかな」
どうやらアングルが決まったようだ。
「それじゃ、撮るよ!」
「お、おう」
緊張の面持ちの勇緋。
それを見た夬皇は怪しく笑うと、少し身体をかがめて、彼の頬に自らの頬を合わせた。

その写真はまるで何かの漫画の表紙のような美しさを秘めていた。

それから二人は、近くのカフェでテイクアウトのコーヒーを飲みながら、近くのベンチに腰掛け、イルミネーションを楽しんでいた。
温かいコーヒーが身体に沁みる。
「もうこんな時間か」
「ホント。そろそろ帰らないとね」
「夬皇、あのさ」
彼はそう言ってから少し沈黙をし、言葉を続ける。
「今日は本当にありがとう。すげぇ楽しい一日になった」
勇緋はそれから立ち上がり、スッと彼に向かって手を伸ばす。
「一緒に帰ろう、夬皇」
彼の言葉に、夬皇はゆっくり頷き、その手を取る。

駅までの帰り道。
「今日はお前も少しは呑むんだろう?」
「うーん。どうしようかなぁ」
「まあいいさ。今日は時間が許す限り、話がしたい」
「そうだね。こういう日も悪くない」

二人はそんな話をしながら、お互いの手を握ったまま、駅へと歩いていくのだった。
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