君に一生分の休みを。

桜庭つむぎ

文字の大きさ
9 / 9

静かな誓い

しおりを挟む
朝食が終わり、陽と凪が「行ってきまーす!」と元気よく庭へ駆け出していった。
茶碗を片付けようと立ち上がった桜の背中に、久我が静かな声をかける。
「サクラ君。少し、話をいいかな」
振り返ると、そこには教育者の穏やかさの中に、かつて数多の戦場を渡り歩いてきた「軍師」としての、鋭くも思慮深い瞳があった。
「昨日のことだが……。あそこに君がいたことは、私と君だけの秘密にしておこう。あの子たちや、村の者にもね」
久我は茶を一口啜り、窓の外の平穏な景色に視線を向けた。
「あの場所で何があったかを知れば、人々は君を畏れるか、あるいは利用しようとするだろう。それは、私が望むことではない」
それは、彼女の正体に対する疑念を抱きつつも、まずは「一人の女性」として彼女の平穏を優先しようとする、彼なりの誠実な優しさだった。
「……はい。ありがとうございます、先生」
「礼には及ばないよ。……さて、まずはその装束をどうにかしないといけないな。あの子たちには『遠い国の服だ』と説明したが、さすがに村では目立ちすぎる」
久我は立ち上がり、奥の戸棚から丁寧に畳まれた着物を持ってきた。
「以前、村の者が『娘がもう着なくなったから』と置いていったものだ。古いものだが、君の背丈なら合うだろう」
かつての軍師としての身分を捨て、この地で一人の教師として生きる彼が、村人との交流の中で譲り受けた生活の品。
「あ……ありがとうございます」
「慣れないかもしれないが、これを着ていれば村でも『新しい手伝いの娘さん』として受け入れられるはずだ。……着替えられるかな?」
手渡された着物は、少し色褪せているけれど、お日様の匂いがした。
桜は、彼が自分をこの世界に、そしてこの「平穏」の中に馴染ませようとしてくれていることを感じ、胸が熱くなった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在 唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話 中山加恋(20歳) 二十歳でトオルの妻になる 何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛 中山トオル(32歳) 17歳の加恋に一目ぼれ 加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する 加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる 会社では群を抜くほどの超エリートが、 愛してやまない加恋ちゃんに 振り回されたり落ち込まされたり… そんなイケメンエリートの ちょっと切なくて笑えるお話

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

旦那様の愛が重い

おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。 毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。 他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。 甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。 本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。

一途な恋

凛子
恋愛
貴方だけ見つめてる……

処理中です...