サザン・ホスピタル byうるかみるく

くるみあるく

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Part1 My Boyhood

Chapter_01.不良少年への道 上間(うえま)勉(つとむ)の生い立ち~万引き実行、その後に

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At Itoman City, Okinawa; 1976.
At Nishihara Town, Okinawa; December 9,1983. 
The narrator of this story is Tsutomu Uema.

僕は父親の顔を覚えてない。父親は僕が三つのとき、糸満の海で死んだ。 
その日のことだけは今でもよく覚えている。まだ幼い僕は、母親が作ったカレーを食べながら父親が帰るのを待っていた。そしたら、電話がかかってきた。父親が遭難したことを知らせる電話だった。 
時間が経つにしたがって、いろんな人が家へやってきた。僕はそれをただじっと眺めていた。何が起こったのか、当時三つの僕には全く理解できなかった。僕にわかったのは、父親がもう戻ってこないということと、なぜか糸満から引っ越さなくてはならないらしいということだった。 
僕はあれからカレーを口にしたことがないし、今でも食べられない。カレーを見ると胸がいっぱいになって、大事な人がいなくなってしまうんじゃないかという思いに駆られてしまう。ばかばかしいって、頭のどこかではわかっているんだけど。 

僕の母親は、アメリカ軍の白人兵士と沖縄女性との間にできたハーフで、英語も日本語も中途半端だった。大黒柱を失ってしまった彼女は僕を育てるために職を転々とし、僕が西原市内の小学校に入った頃には夜の仕事をするようになっていた。
僕は、昼夜逆転の生活をする母親とはほとんど顔を合わさなくなり、やがて毎日、メモの切れ端と小銭が台所のテーブルに置かれるようになった。

当時の僕は、背丈も腕力もなく、ただ勉強ができるだけの内気な少年だった。毎日、いじめに遭った。金髪で色白だった僕は口々にアメリカーと馬鹿にされ、ボコボコに殴られたり、ランドセルを背負ったまま後ろから蹴られたりした。 
「勉、お前また金持ってるだろ。俺たちに貸せよ」 
「い、イヤだよ」 
「そんなころ言わずに、よこせって!」 
「あっ」 
こんな具合に、夕食代を取り上げられるのは、しょっちゅうだった。 
「お前、生意気だばーよ。弱っちいよーばーアメリカーのくせにやー」 
「おい勉、たまには俺たちとも付き合えよ」 
「それとも何か、優等生だから俺たちディキランヌーは無視するっのてか?」 
そう言われ、彼らにいつも小突かれた。ディキランヌーとは、出来ない者。すなわち劣等生のことだ。いつの時代も、子供というのは優等生を軽蔑するものらしい。 
「おーい、これから新垣(あらかき)商店襲撃に行くぞー!」 
遠くから大声で呼ぶ声がする。僕は青くなった。でも、逃げ出す前にしっかりランドセルを捕まれていた。 
「こら勉、来いよ」 
そういって、彼らは僕を無理やり引きずった。

新垣商店は、小学校と住宅地のほぼ中間にある雑貨店で、太ったおばさんが一人で店番をしていた。回りを背の高いうーじ畑に囲まれたこの店は、小学生が悪さをするにはうってつけだった。 
みんなが息を殺して、うーじ畑の間から、店の様子を伺っている。やがて、一人が僕に向かって言った。 
「いいか勉、あのおばさんが横向いたら、あそこの入口から入って、チョコレート取って来い」 
「そ、そんなこと、できないよ」 
僕は必死で断った。だが、断れない雰囲気が立ちこめていた。 
「あげ、また優等生するばー?」 
「これだから優等生はイヤだばーよ」 
「おい勉、取ってこなかったら、この金は俺たちのものだからな」 
僕はうつむいた。夕飯代をとりあげられても、今まではなんとか返して貰っていた。でも今回はそうは行かないらしい。
「しっ、おばさんが動いた!」
「よし、勉、行け!」
「えっ?」
「行けってば!」

どつかれ、駆け出した。これでも僕は足が速かった。うーじ畑の間を縫うように走り、息せききって店の近くのガードレールへたどり着くと、ガードレールの陰に身を隠した。
そして、ゆっくり、店へ近づいた。怖くて、のどがカラカラだった。でも、もし成功しなかったら、夕飯のお金がない。だから、やるしかなかった。

僕は、ガードレールから店の入口のドアまで走り、店の壁に身を寄せた。中を覗いておばさんが向こうをむいているのを確認すると、そーっと入口から進入して、すばやく棚の間に隠れ、手を伸ばし、一番手前にあったチョコレートを取った。何とかつかんでポケットに入れ、そのまま、入口から抜け出そうとした。

たーやが、やなわらばー!」
振り返ると、そこに新垣のおばさんが仁王立ちしていた。
「うわー!」
僕はこわくなって、走り出した。
「見つかったぞ、逃げろー!」
周りのやつらも、蜘蛛の子を散らすように、一斉に逃げ出した。
「待てー、ぬひゃーたー!」
新垣のおばさんは、ものすごい剣幕で怒鳴ると、逃げ遅れた僕の首根っこを捕まえ、振り回した。
「うわー、やめて、放して!」
「やっと捕まえたさ。おい、あんたは上間うえまつとむだな? その金髪頭と、あざぐゎー見たら、一目瞭然さ!」
そうなのだ。厄介なことに、金髪に加え、ぼくの左頬には生まれつき大きな赤いあざがあった。色白の頬が赤あざを一層目立たせていた。新垣のおばさんは僕を放り投げ、力任せに叩いた。
「だー、早くポケットから出しなさい! はっさ、母親も母親なら子供も子供だね。こんな泥棒みたいなマネして」
母親をけなされ、僕は思わずおばさんを睨みつけた。それがいけなかった。
「なんで、睨むか?」
おばさんは僕を殴った。
「あがっ」
「生意気なわらばーやっさー。アシバーの子供はやっぱりアシバーだね、これだからアメリカーは困るさ。いぇーひゃー、これが初めてじゃないだろ? 今日という今日は、警察呼ぶからね」
僕は心臓が凍りそうになった。もし警察が来たら? 母親の驚き悲しむ顔が浮かんで、頭の中をぐるぐると回った。僕はべそをかきながら必死で頼み込んだ。
「おばさん、やめて、やめて、もうしないから、やめて」
「いーや、今日という今日は、許さん!」
「おばさん、お願い」
そういって僕が泣き出したときだ。

「いぇー、ぬーそーが?」
突然、聞いたことのない男の人の声が響いた。
「あい、長助さん。今、このわらばーが、店で盗みぬする働いたわけさ」
「ヌスル?」
男の人が近づいてきて、僕の顔をまじまじと見た。年は、四十歳くらいかな。ちょっと白髪交じりで、日焼けした長い顔の額には深いしわ、太い眉毛、がっしりしたあご、剃り残しのあるヒゲ。ちょっとやせ気味で、白い半そでのTシャツに、グレーの古びたズボンを履いていた。
何処まーがなをぅてぃんーちゃるふーじーのかーぎやしが?」
上間うえまつとむさ。あれ、あのアシバー女の子供よ」
「上間? あんしーねー、多恵子の同級生どぅやるい? ほら、四年二組の東風平こちんだ多恵子よ。わかいみ?」
「わかる!」
僕は即答した。脳裏に、いつも校庭を我が物顔で走り回って声が人一倍でかい、栗色のおかっぱ頭が去来した。
「多恵子の友達やれー、わーやーんかいそーてぃ行ちゅさ」
「なんで長助さん、この子はヌスルだよ!」
むさ。わーこーゆさ。幾らちゃっさが?」
「百円やしがて」
新垣のおばさんは納得いかない様子だったが、
「百円や、うね」
東風平のおじさんから百円を渡され、しぶしぶそれを受け取った。
「でぃ、わんとぅ一緒まじゅん、行か」
 おじさんは僕の肩を抱き、店を出た。助手席に僕を乗せ、車を出した。

人の縁とは不思議なものだ。もしこのとき、新垣のおばさんが僕を警察に突き出していたら、僕は大人への不信感から、アウトローの道をまっしぐらに突っ走り、今頃どこでどんな悪事に手を染めていたことか。そう思うと、僕は身震いする。少なくとも医者にはなってなかったはずだ。

東風平こちんだのおじさんとの出会いが、僕を救った。でも、それだけでは終わらなかった。東風平のおじさんが僕の一生を左右するとんでもない存在になったのは、このすぐ後だ。というわけで、次章へTo be continued.
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