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Part1 My Boyhood
Chapter_05.Best Friend 放課後の一悶着
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At Nishihara Town, Okinawa; February,1988.
The narrator of this story is Tsutomu Uema.
二月下旬のある日の放課後。僕が英検の問題集を開いて勉強していると、不良グループのリーダー、矢上明信がやってきて、軽いノリで話しかけてきた。
「おい上間、最近、お前、つきあい悪いな」
「ごめん、そんなヒマないや」
矢上に話しかけられても、僕は英検の問題集から目を離さなかった。もともと、こいつとは折り合いが悪かった。
「俺、本気なんだ。あっち行ってもらえる?」
「そんなこと言うなよー、優等生ぐゎーしーして」
矢上は、問題集の上に手をかざして邪魔し始めた。僕は静かに言った。
「あのさ、殴るよ」
「へー」
どうやら、本気の発言とは思われてないらしい。僕は彼を睨んだ。
「本当に、殴るよ」
「笑わせるぜ。上間が暴力振るうってか?」
状況に変化なし。僕は深呼吸をし、語気を強めた。
「最終警告。殴るよ。早くどけ」
「えらそうに。びびると思ってるの?」
……仕方がない。もはや、これまで。
次の瞬間、僕は、矢上を思いっきりひっぱたいた。パーンという音があたりに響き渡った。
「あがー! 何をする!」
「どけと言っただろ。邪魔だ。あっち行け」
僕は冷静に答えると、机と椅子の位置を微調整し、再び問題集に向かった。ひとつ解きたい問題が残っていた。
「上間、この野郎!」
矢上が僕につかみかかろうとしたその時、
「やめれー!」
教室の後ろから大声で叫び、周りの机をいくつもなぎ倒しながら止めに来た奴がいた。
驚いた。声の主は、ロボットマニアの島袋桂。いつも科学系の雑誌を持っていて、それを開きながらロボットの薀蓄を傾ける。背が高くて、結構育ちが良く、男性女性を問わず好かれるタイプだ。割とよくしゃべり、いつもにこにこしていて、「島ちゃん」と親しまれている温厚な奴。そんな彼が、怒鳴りながらやってきたのだ。
「桂、どけ! こいつ、ウシェーてる! 絶対、死なす!」
矢上が僕を指差し、怒鳴り散らした。
沖縄語には〔ウシェー=ユン〕という動詞がある。軽蔑する、あなどる、という意味だ。もちろん僕は、軽蔑するつもりなど毛頭ない。勉強の邪魔をして欲しくないだけだ。
「悪いのはお前だろ。上間は三回も警告しただろ!」
島袋桂の大声が響く。
「桂、汝、上間とグルか?」
「別にグルでもなんでもないけどよ」
大声は、既に矢上を圧倒していた。
「上間がなんで勉強してるか、汝達、判ってるか? こいつ、琉海大の医学科狙ってるんだぞ」
え? 耳を疑った。僕は、医学科志望だとは誰にも告げたことがなかったのだ。それなのに、なぜ?
「琉海大の医学科?」
「医学科って? 嘘だろ?」
「勉の奴、マジか? 信じられんやっさー」
「だって、あいつ、かなり貧乏だぜ? 塾にも行ききれんぜ?」
しかし、島ちゃんは周囲の小声を気にすることなく、大きめの声でこう続けた。
「それだけじゃない。上間はな、サザン・ホスピタルに行くつもりだ」
「……島ちゃん、なんで、知ってるの?」
僕の問いかけに、彼はニヤリと笑ってこう答えた。
「上間、お前、いつもサザン・ホスピタルのパンフレット持ち歩いているだろ? 見りゃ察しくらいつくよ」
そう言うと、島ちゃんは再び周囲を睨みつけた。
「汝達、サザン・ホスピタルがどんなところか知ってるか? スタッフ全員、外国人だぞ。オペも、診察も、全部英語でするところだぞ。上間はそこへ行くんだ。勉強して当然だろ!」
そして島ちゃんは、自分が倒した机を直しはじめた。三つほど元通りに置いて周りを見回し、憮然と言い放った。
「上間の邪魔する奴は、俺がただじゃおかない。いいな?」
「し、島ちゃん?」
驚く僕に、彼は不敵な笑みを浮かべた。
「上間、安心しれ。こいつら、黙らせてやる」
「あー、正義面する奴がいると、つまんねーな」
矢上は皮肉っぽくつぶやくと、
「おい、行こうぜ!」
他の生徒らを引き連れ、ぶつぶつ言いながら外へ出て行った
「島ちゃん、……ありがとう」
礼を言う僕に島袋桂は笑顔で答えた。
「いいってことよ」
さっきの不敵な笑みとは違う、心からの笑顔だ。
「上間、俺も琉海大行くからな。上間と違って工学部だけどよ。俺、エンジニアになるんだ。一緒に大学行こうな!」
僕らは親友になった。それからというもの、サンシンの稽古のある水曜の午後を除いて、僕らは放課後、一緒に勉強するようになった。そして、同じ高校に進学してからも、決して変わることはなかった。
だが、まさか僕自身の生活がめまぐるしく変わることになろうとは。詳しくは、次章へTo be continued.
The narrator of this story is Tsutomu Uema.
二月下旬のある日の放課後。僕が英検の問題集を開いて勉強していると、不良グループのリーダー、矢上明信がやってきて、軽いノリで話しかけてきた。
「おい上間、最近、お前、つきあい悪いな」
「ごめん、そんなヒマないや」
矢上に話しかけられても、僕は英検の問題集から目を離さなかった。もともと、こいつとは折り合いが悪かった。
「俺、本気なんだ。あっち行ってもらえる?」
「そんなこと言うなよー、優等生ぐゎーしーして」
矢上は、問題集の上に手をかざして邪魔し始めた。僕は静かに言った。
「あのさ、殴るよ」
「へー」
どうやら、本気の発言とは思われてないらしい。僕は彼を睨んだ。
「本当に、殴るよ」
「笑わせるぜ。上間が暴力振るうってか?」
状況に変化なし。僕は深呼吸をし、語気を強めた。
「最終警告。殴るよ。早くどけ」
「えらそうに。びびると思ってるの?」
……仕方がない。もはや、これまで。
次の瞬間、僕は、矢上を思いっきりひっぱたいた。パーンという音があたりに響き渡った。
「あがー! 何をする!」
「どけと言っただろ。邪魔だ。あっち行け」
僕は冷静に答えると、机と椅子の位置を微調整し、再び問題集に向かった。ひとつ解きたい問題が残っていた。
「上間、この野郎!」
矢上が僕につかみかかろうとしたその時、
「やめれー!」
教室の後ろから大声で叫び、周りの机をいくつもなぎ倒しながら止めに来た奴がいた。
驚いた。声の主は、ロボットマニアの島袋桂。いつも科学系の雑誌を持っていて、それを開きながらロボットの薀蓄を傾ける。背が高くて、結構育ちが良く、男性女性を問わず好かれるタイプだ。割とよくしゃべり、いつもにこにこしていて、「島ちゃん」と親しまれている温厚な奴。そんな彼が、怒鳴りながらやってきたのだ。
「桂、どけ! こいつ、ウシェーてる! 絶対、死なす!」
矢上が僕を指差し、怒鳴り散らした。
沖縄語には〔ウシェー=ユン〕という動詞がある。軽蔑する、あなどる、という意味だ。もちろん僕は、軽蔑するつもりなど毛頭ない。勉強の邪魔をして欲しくないだけだ。
「悪いのはお前だろ。上間は三回も警告しただろ!」
島袋桂の大声が響く。
「桂、汝、上間とグルか?」
「別にグルでもなんでもないけどよ」
大声は、既に矢上を圧倒していた。
「上間がなんで勉強してるか、汝達、判ってるか? こいつ、琉海大の医学科狙ってるんだぞ」
え? 耳を疑った。僕は、医学科志望だとは誰にも告げたことがなかったのだ。それなのに、なぜ?
「琉海大の医学科?」
「医学科って? 嘘だろ?」
「勉の奴、マジか? 信じられんやっさー」
「だって、あいつ、かなり貧乏だぜ? 塾にも行ききれんぜ?」
しかし、島ちゃんは周囲の小声を気にすることなく、大きめの声でこう続けた。
「それだけじゃない。上間はな、サザン・ホスピタルに行くつもりだ」
「……島ちゃん、なんで、知ってるの?」
僕の問いかけに、彼はニヤリと笑ってこう答えた。
「上間、お前、いつもサザン・ホスピタルのパンフレット持ち歩いているだろ? 見りゃ察しくらいつくよ」
そう言うと、島ちゃんは再び周囲を睨みつけた。
「汝達、サザン・ホスピタルがどんなところか知ってるか? スタッフ全員、外国人だぞ。オペも、診察も、全部英語でするところだぞ。上間はそこへ行くんだ。勉強して当然だろ!」
そして島ちゃんは、自分が倒した机を直しはじめた。三つほど元通りに置いて周りを見回し、憮然と言い放った。
「上間の邪魔する奴は、俺がただじゃおかない。いいな?」
「し、島ちゃん?」
驚く僕に、彼は不敵な笑みを浮かべた。
「上間、安心しれ。こいつら、黙らせてやる」
「あー、正義面する奴がいると、つまんねーな」
矢上は皮肉っぽくつぶやくと、
「おい、行こうぜ!」
他の生徒らを引き連れ、ぶつぶつ言いながら外へ出て行った
「島ちゃん、……ありがとう」
礼を言う僕に島袋桂は笑顔で答えた。
「いいってことよ」
さっきの不敵な笑みとは違う、心からの笑顔だ。
「上間、俺も琉海大行くからな。上間と違って工学部だけどよ。俺、エンジニアになるんだ。一緒に大学行こうな!」
僕らは親友になった。それからというもの、サンシンの稽古のある水曜の午後を除いて、僕らは放課後、一緒に勉強するようになった。そして、同じ高校に進学してからも、決して変わることはなかった。
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