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Part1 My Boyhood

Chapter_07.ゆびきりげんまん(2)多恵子、ようやく気づく

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At Nishihara Town, Okinawa; from6:00PM to 7:30PM JST October 27, 1991.
This time, the narrator changes from Tsutomu Uema into Taeko Kochinda.
はい、そうです。多恵子さんの初モノローグです!

勉は自転車の前まであたしを引っ張ると、まず自分の長袖のシャツを脱ぎ、それでサンシンを包みなおしてリュックに入れた。そして、それを背負うと自転車に乗った。
「後ろに乗れ。早く」
「……うん」
あたしは自転車の荷台に乗り、右手で荷台の端を捕まえ、左手を勉の腰に回した。
「サンシンに気ぃつけろよ。しっかりつかまれ。飛ばすぞ」
と言うより早く、勉は自転車を走らせた。すごいスピードだ! 振り落とされないよう、あたしは両腕に力を込めた。自然と、勉の耳元に口が寄った。
「勉もサンシンやってるんだ。うちのおとうも、サンシン弾けるよ」
「知ってるよ」
「え?」
あたしの問いかけに勉は大声で叫んだ。
「お前、まだ知らんかったのか?」
「何が?」
勉がさらに言った。
いゃー、ホントに鈍いなー!」

あたしの家の前で勉は自転車を止めた。
「さ、着いたぞ。りれ」
「うん」
あたしが自転車を降りたとき、おかあが玄関から出てきた。
「あい、多恵子、お帰り。……勉、どうしたの? 忘れ物ねぇ?」
「勉って、……お母さん?」
まるで家族に話すみたいに呼びかけている。驚くあたしを尻目に、
「別に、なんでもないです。……失礼します。じゃ」
そう言うと勉は自転車のベルを鳴らし、走り去って行った。お母がつぶやいた。
「どうせ戻って来るんだったら、ゴーヤー食べてから帰ればいいのにねぇ」

……何で? 何で勉がうちのゴーヤー食べるの?

そのあと、お父とお母から詳細を聞いて、驚いた。
勉が小学四年生のときから、うちでずっとサンシンを習っていること。
うちで作った野菜とか夕飯を、毎回勉に持たせていること。
そしてなんと、稽古のあとは風呂に漬かって帰っていること。

……そう。あたしが中学校に上がって、水泳の部活から帰ってお風呂に入るとき、水曜と日曜はいつも湯船にきれいな熱いお湯が張ってあった。そして、あたしは当然のように、毎回湯船に漬かっていた。
でもそれって、勉の後、ってこと、だよね?

「うぎゃー!」
あたしは思わず叫び声を上げて両手で体中を払った。
年頃の女の子が、幼馴染というか、ほとんど喧嘩相手だった男が漬かった直後の湯船に入ってたわけ? 週に二回、中学から数えて足掛け六年なーも? 
なんで注意してくれなかったの?
っていうか、なんで、おとうもおかあもけらけら笑ってるの?

……あの、言っとくけど、泣きたい位、すっごいショックだったんだからね。
夕方の事件を忘れるくらい、こっちのほうが、ずっと、ずっとショックだったってば! ((3)へつづく)
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