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Part3 The year of 2000
Chapter_04.加那(かなー)ヨー天川(3)乱入者への対応
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At Southern Garden in the Southern Hospital, Nakagusuku Village, 5:26PM JST, May 23, 2000.
The narrator of this story is Taeko Kochinda.
知念さんと房子さんは、一旦、舞台の中央奥に客席に背中を向けてしゃがんだ。次の「島尻天川節」への準備だ。知念さんは水呑場の柄杓をかまえている。勉が指笛を鳴らした。
"Hi, who is there?"
(ねえ、誰かいるの?)
遠くから声がする。あたしはビクッとした。振り返り、目を凝らしてみる。師長のマギーだ! 夕食が始まっても知念さんが戻ってこないから探しに来たのだろう。マギーに知念さんが踊っている姿を見られたら、間違いなく大騒ぎになる。右肩の固定はまだ外れていない。その状態を承知で舞踊の地謡を買って出た主治医の勉だって、責任を問われるはずだ。
なんとかして、マギーの目をごまかそう。せめて、二人が踊り終わるまでは。
あたしは勉に目で合図した。彼もまた、心得た様子で頷いた。舞台が始まった以上、途中で止めるつもりなんて毛頭ない。それが芸能一般の決まりごとでもある。
サンシンの音とともに、あたしはマギーの前へ駆け寄った。
"Maggie!"
(マギー!)
"Taeko? What's wrong?"
(多恵子? どうしたの?)
さて、困ったぞ。マギーの前に来たものの、何をどうしてよいのかわからない。
「あの、えーっと、その」
マギーはあたしを見て、大きな目をしきりに瞬かせている。後ろの音楽が気になって仕方が無い様子だ。ああ、どうしよう?
「看護婦さーん」
突然、聞き覚えのある声がした。あたしとマギーが振り返ると、あれ、田本ユミさんだよ?
「あい、東風平さーん、薬! もう時間なるよー!」
ユミおばぁは大げさなジェスチャーであたしに注意を喚起した。夕食後、彼女は血圧の薬を飲むことになっていて、少しでも時間が遅れると騒ぐのだ。でも他の看護師がいるわけだし、ここにわざわざ、あたしを訪ねる理由にはならないはず?
そうか、わかった!
そうなんだ。サザン・ホスピタルの牢名主で、かつ絶大な地獄耳の持ち主であるおばぁは、きっと全てお見通しなんだ。知念さんのことも、房子さんのことも。だからマギーを止めに来てくれたんだ!
"Yumi-san! Why are you here, too?"
(ユミさん! あなたまでなぜここに?)
予想外の展開にあきらかにマギーは戸惑っている。ユミおばぁがここぞとばかり、沖縄語でまくし立てた。
「はっしぇ、マギークルー師長さんよぉ、もう時間なとーしが、時間! 私、薬飲まんねー、ふらふらして自分ぬ持ちゃびらん。早くなー、薬呉みそーれー!」
マギーはまだ 沖縄語 がそんなに理解できるわけではない。彼女は弱りきってあたしを見た。
"Ta, Taeko. Please tell me what she's talking about."
(た、多恵子。彼女が何を言ってるのか教えてちょうだい)
ちょっと考えた。本当は、勉の演奏……いやいや、知念さんと房子さんの舞踊が最後まで見たいんだけどね。でも決めた。よし、三名で病棟へ帰ろう! そのほうがいいや。
あたしはにっこり笑うと、明るく言った。
"She wants to take her medicine right now. We'll go back now, then, Okey, Yumi-san?"
(田本ユミさんはお薬が欲しいんですって。はやく帰りましょう、で、いいわね、ユミさん?)
"Y,yes. Let's head back together."
(そ、そうね。すぐに戻りましょう)
そうだよ。マギー、帰ろうよ。
「東風平さーん、薬! ワタシ、もうダメよぉ!」
ユミおばぁがあたしにしがみついた。そして、一瞬イタズラっぽく、あたしにウィンクしたのだ。あたしは頷いた。
「はいはい、わかってますよー。今、薬、あげますからねー。病棟に帰りましょうねー」
鳴り響くのは「島尻天川節」だ。琉球舞踊「加那ヨー天川」の最大の見せ場でもある。
天川の池や (天川の池は)
ヨー あの舞手ヨ、近寄てぃ話さなヨー シターリヨー ササ ハイヤ イヤッサー
千尋も立ちゆる (とても深いのですが)
ヨー あの舞手ヨ、近寄てぃ話さなヨー シターリヨー ササ ハイヤ イヤッサー
其れよかも深く (それよりも深く)
ヨー あの舞手ヨ、目眉ぬ美らさぬヨー シターリヨー ササ ハイヤ イヤッサー
思て呉てぃ給え (私を愛してくださいね)
ヨー あの舞手ヨ、近寄てぃ話さなヨー シターリヨー ササ ハイヤ イヤッサー ササ イヤサヌサー
サンシンのリズムにあわせ、あたしは二人をせきたてた。
「さあ、帰りましょ! 帰りましょ! 帰りましょったら、帰りましょ!」
あたしは二人の背中を押しながら、病棟へと向かった。ふと振り返ると、知念さんと房子さんが楽しそうに踊る姿が影絵になって、夕暮れの中に浮かんでいる。サンシンの音は、まだまだやみそうになかった。
というわけで、次章へTo be continued.
The narrator of this story is Taeko Kochinda.
知念さんと房子さんは、一旦、舞台の中央奥に客席に背中を向けてしゃがんだ。次の「島尻天川節」への準備だ。知念さんは水呑場の柄杓をかまえている。勉が指笛を鳴らした。
"Hi, who is there?"
(ねえ、誰かいるの?)
遠くから声がする。あたしはビクッとした。振り返り、目を凝らしてみる。師長のマギーだ! 夕食が始まっても知念さんが戻ってこないから探しに来たのだろう。マギーに知念さんが踊っている姿を見られたら、間違いなく大騒ぎになる。右肩の固定はまだ外れていない。その状態を承知で舞踊の地謡を買って出た主治医の勉だって、責任を問われるはずだ。
なんとかして、マギーの目をごまかそう。せめて、二人が踊り終わるまでは。
あたしは勉に目で合図した。彼もまた、心得た様子で頷いた。舞台が始まった以上、途中で止めるつもりなんて毛頭ない。それが芸能一般の決まりごとでもある。
サンシンの音とともに、あたしはマギーの前へ駆け寄った。
"Maggie!"
(マギー!)
"Taeko? What's wrong?"
(多恵子? どうしたの?)
さて、困ったぞ。マギーの前に来たものの、何をどうしてよいのかわからない。
「あの、えーっと、その」
マギーはあたしを見て、大きな目をしきりに瞬かせている。後ろの音楽が気になって仕方が無い様子だ。ああ、どうしよう?
「看護婦さーん」
突然、聞き覚えのある声がした。あたしとマギーが振り返ると、あれ、田本ユミさんだよ?
「あい、東風平さーん、薬! もう時間なるよー!」
ユミおばぁは大げさなジェスチャーであたしに注意を喚起した。夕食後、彼女は血圧の薬を飲むことになっていて、少しでも時間が遅れると騒ぐのだ。でも他の看護師がいるわけだし、ここにわざわざ、あたしを訪ねる理由にはならないはず?
そうか、わかった!
そうなんだ。サザン・ホスピタルの牢名主で、かつ絶大な地獄耳の持ち主であるおばぁは、きっと全てお見通しなんだ。知念さんのことも、房子さんのことも。だからマギーを止めに来てくれたんだ!
"Yumi-san! Why are you here, too?"
(ユミさん! あなたまでなぜここに?)
予想外の展開にあきらかにマギーは戸惑っている。ユミおばぁがここぞとばかり、沖縄語でまくし立てた。
「はっしぇ、マギークルー師長さんよぉ、もう時間なとーしが、時間! 私、薬飲まんねー、ふらふらして自分ぬ持ちゃびらん。早くなー、薬呉みそーれー!」
マギーはまだ 沖縄語 がそんなに理解できるわけではない。彼女は弱りきってあたしを見た。
"Ta, Taeko. Please tell me what she's talking about."
(た、多恵子。彼女が何を言ってるのか教えてちょうだい)
ちょっと考えた。本当は、勉の演奏……いやいや、知念さんと房子さんの舞踊が最後まで見たいんだけどね。でも決めた。よし、三名で病棟へ帰ろう! そのほうがいいや。
あたしはにっこり笑うと、明るく言った。
"She wants to take her medicine right now. We'll go back now, then, Okey, Yumi-san?"
(田本ユミさんはお薬が欲しいんですって。はやく帰りましょう、で、いいわね、ユミさん?)
"Y,yes. Let's head back together."
(そ、そうね。すぐに戻りましょう)
そうだよ。マギー、帰ろうよ。
「東風平さーん、薬! ワタシ、もうダメよぉ!」
ユミおばぁがあたしにしがみついた。そして、一瞬イタズラっぽく、あたしにウィンクしたのだ。あたしは頷いた。
「はいはい、わかってますよー。今、薬、あげますからねー。病棟に帰りましょうねー」
鳴り響くのは「島尻天川節」だ。琉球舞踊「加那ヨー天川」の最大の見せ場でもある。
天川の池や (天川の池は)
ヨー あの舞手ヨ、近寄てぃ話さなヨー シターリヨー ササ ハイヤ イヤッサー
千尋も立ちゆる (とても深いのですが)
ヨー あの舞手ヨ、近寄てぃ話さなヨー シターリヨー ササ ハイヤ イヤッサー
其れよかも深く (それよりも深く)
ヨー あの舞手ヨ、目眉ぬ美らさぬヨー シターリヨー ササ ハイヤ イヤッサー
思て呉てぃ給え (私を愛してくださいね)
ヨー あの舞手ヨ、近寄てぃ話さなヨー シターリヨー ササ ハイヤ イヤッサー ササ イヤサヌサー
サンシンのリズムにあわせ、あたしは二人をせきたてた。
「さあ、帰りましょ! 帰りましょ! 帰りましょったら、帰りましょ!」
あたしは二人の背中を押しながら、病棟へと向かった。ふと振り返ると、知念さんと房子さんが楽しそうに踊る姿が影絵になって、夕暮れの中に浮かんでいる。サンシンの音は、まだまだやみそうになかった。
というわけで、次章へTo be continued.
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