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Part3 The year of 2000
Chapter_05.告白(4)プロポーズ
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At Southern Garden in the Southern Hospital, Nakagusuku Village, 12:30PM JST, June 3, 2000.
Now, the narrator returns to Taeko Kochinda.
多恵子さんのモノローグに戻ります。
六月三日のお昼過ぎ。あたしはいつものごとく、サザン・ガーデンの教会で勉を待っていた。
白衣のポケットから腕時計を取り出す。十二時半だ。ちょっと、遅いな。今日は土曜日だけど、何かあったのかな?
突然、教会のドアが荒々しく開いた。勉だ。肩で息をしている。走ってきた様子だ。しかも彼は、サンシンを持っていなかった。
「どうしたの?」
「あ、あの、多恵子」
息を弾ませながら、勉は右手であたしを制しながら近づいてきた。
「なあ多恵子、俺、アメリカ行くことになった」
「アメリカ?」
たしか今月の下旬、勉はCSA (臨床技能試験)を受けるためフィラデルフィアへ行くことになっている。だから、てっきりそのことだと思った。
「今月の後半だったよね。なんで、何、慌ててるの?」
「違う、違う!」
彼は細かく首を振る。
「九月から、またアメリカ行くことになった」
「九月?」
「内科部長のDr. Caldwell、知ってるだろ? あの人が、俺をUCLAの医学部付属病院に、研修医として推薦してくれたんだ。二年間ぐらい向こうでがんばってこいって」
「本当に?」
驚いた。専門医が数多くいる中で二年目の人間が海外研修、しかも、アメリカの名門校であるUCLAなんて! 大抜擢だ!
「うわー、すごい、すごいよ勉! やった、やったじゃん!」
あたしは勉に飛びつき、彼の手を握ってぐるぐる回り、飛び跳ねた。うれしい! 自分のことのように、本当にうれしい! だって、勉は研修医時代から、いや、幼い頃からずっと、貧乏にも負けず、人並み以上に努力してきたのだ。
やっと、やっと、努力が報われたんだね? よかったね! おめでとう!
勉は微笑みながら軽く頷いたけど、なぜか、あたしから視線を外したままだった。
「なあ多恵子」
心なしか、声がちょっと震えている。
「汝、待てるか?」
「え?」
小声だったこともあり、最初、意味が取れなかった。
「だから、俺がアメリカから帰ってくるまで、待てるか?」
何? 待つって? 何を? ……いや、誰を、かな?
正直、あたしには、彼のいう意味がまだよくわからなかったのだ。
あたしのぼんやりした様子に気づいたのだろう。勉は、言葉をひとつひとつ、ゆっくり区切りながら、こう言った。
「俺、アメリカ行って、でっかくなって戻ってくるから、それまで、汝は、俺を、待てるか?」
アメリカに行く勉を、あたしは、帰ってくるまで、待つ?
あたしは、口の中でぶつぶつとつぶやき、彼を見た。
勉は、真っ直ぐこっちを見ている。それは一心にサンシンを弾く姿を思い起こさせた。その様子を見て、ようやく、あたしは事態の重要さに気がついた。
ま、まさか、これ、プロポーズ?
首をかしげてみる。彼は、頷いている。……うっそー!
あたしは思わず両手を口元へやった。心臓がばくばく言ってる。
どうしよう? どうしたらいいんだろう?
さっきまで、あたしは、自分の気持ちなんて伝わりっこないと思ってた。この人があたしに振り向いてくれるなんて、想像だにしなかった。それが突然、こんな形で叶ってしまったのだ。
もちろん、とっても、とってもうれしい。
だけど、正直、戸惑いの方がずっと、ずっと大きい。
あなたのことは、大好きだよ。でも、どうしよう? うまくいくかどうか、わからないよ? 全然、自信がもてないよ?
気がつくと、あたしの頬を、涙がつーっと流れていった。
「ごめんな、また泣かせちまったな。返事はあわてんで(いそがなくて)いいからな?」
勉がポケットを探るのがわかった。あたしは右手でそれを制して、自分のポケットからハンカチを取り出した。
「前向きに検討してもらえますか?」
落ち着いた勉の声があたりに響く。やさしい瞳が、あたしの顔をのぞきこむ。ぐしょぐしょになったハンカチで目元を押さえながら、あたしはコクンと頷いた。
というわけで、次章へTo be continued.
Now, the narrator returns to Taeko Kochinda.
多恵子さんのモノローグに戻ります。
六月三日のお昼過ぎ。あたしはいつものごとく、サザン・ガーデンの教会で勉を待っていた。
白衣のポケットから腕時計を取り出す。十二時半だ。ちょっと、遅いな。今日は土曜日だけど、何かあったのかな?
突然、教会のドアが荒々しく開いた。勉だ。肩で息をしている。走ってきた様子だ。しかも彼は、サンシンを持っていなかった。
「どうしたの?」
「あ、あの、多恵子」
息を弾ませながら、勉は右手であたしを制しながら近づいてきた。
「なあ多恵子、俺、アメリカ行くことになった」
「アメリカ?」
たしか今月の下旬、勉はCSA (臨床技能試験)を受けるためフィラデルフィアへ行くことになっている。だから、てっきりそのことだと思った。
「今月の後半だったよね。なんで、何、慌ててるの?」
「違う、違う!」
彼は細かく首を振る。
「九月から、またアメリカ行くことになった」
「九月?」
「内科部長のDr. Caldwell、知ってるだろ? あの人が、俺をUCLAの医学部付属病院に、研修医として推薦してくれたんだ。二年間ぐらい向こうでがんばってこいって」
「本当に?」
驚いた。専門医が数多くいる中で二年目の人間が海外研修、しかも、アメリカの名門校であるUCLAなんて! 大抜擢だ!
「うわー、すごい、すごいよ勉! やった、やったじゃん!」
あたしは勉に飛びつき、彼の手を握ってぐるぐる回り、飛び跳ねた。うれしい! 自分のことのように、本当にうれしい! だって、勉は研修医時代から、いや、幼い頃からずっと、貧乏にも負けず、人並み以上に努力してきたのだ。
やっと、やっと、努力が報われたんだね? よかったね! おめでとう!
勉は微笑みながら軽く頷いたけど、なぜか、あたしから視線を外したままだった。
「なあ多恵子」
心なしか、声がちょっと震えている。
「汝、待てるか?」
「え?」
小声だったこともあり、最初、意味が取れなかった。
「だから、俺がアメリカから帰ってくるまで、待てるか?」
何? 待つって? 何を? ……いや、誰を、かな?
正直、あたしには、彼のいう意味がまだよくわからなかったのだ。
あたしのぼんやりした様子に気づいたのだろう。勉は、言葉をひとつひとつ、ゆっくり区切りながら、こう言った。
「俺、アメリカ行って、でっかくなって戻ってくるから、それまで、汝は、俺を、待てるか?」
アメリカに行く勉を、あたしは、帰ってくるまで、待つ?
あたしは、口の中でぶつぶつとつぶやき、彼を見た。
勉は、真っ直ぐこっちを見ている。それは一心にサンシンを弾く姿を思い起こさせた。その様子を見て、ようやく、あたしは事態の重要さに気がついた。
ま、まさか、これ、プロポーズ?
首をかしげてみる。彼は、頷いている。……うっそー!
あたしは思わず両手を口元へやった。心臓がばくばく言ってる。
どうしよう? どうしたらいいんだろう?
さっきまで、あたしは、自分の気持ちなんて伝わりっこないと思ってた。この人があたしに振り向いてくれるなんて、想像だにしなかった。それが突然、こんな形で叶ってしまったのだ。
もちろん、とっても、とってもうれしい。
だけど、正直、戸惑いの方がずっと、ずっと大きい。
あなたのことは、大好きだよ。でも、どうしよう? うまくいくかどうか、わからないよ? 全然、自信がもてないよ?
気がつくと、あたしの頬を、涙がつーっと流れていった。
「ごめんな、また泣かせちまったな。返事はあわてんで(いそがなくて)いいからな?」
勉がポケットを探るのがわかった。あたしは右手でそれを制して、自分のポケットからハンカチを取り出した。
「前向きに検討してもらえますか?」
落ち着いた勉の声があたりに響く。やさしい瞳が、あたしの顔をのぞきこむ。ぐしょぐしょになったハンカチで目元を押さえながら、あたしはコクンと頷いた。
というわけで、次章へTo be continued.
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