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Part3 The year of 2000
Chapter_12.蜜月の日々(3)ロサンゼルス散策、そして
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At Los Angeles; December 1, from 11:30AM to 5:20PM PST, 2000.
The narrator of this story is Tsutomu Uema.
次に、僕らはロサンゼルス市内へ向かった。そのままダウンタウンへ。リトルトーキョーを見せておこうかな。
「多恵子、しんどいと思うけど起きとけよ。時差ぼけになるぞ」
日付変更線を超えた場合、着いたその日をどう過ごすかで翌日の過ごし方が全然変わってくる。
「うん、判ってる。飛行機で思いっきり寝たから、まだ大丈夫」
「よし、じゃあ、ちょっと博物館まで行こうな?」
まず、全米日系人博物館に入る。展示された写真や日用品をとおして、在米日系人の歴史が判りやすく説明されている。展示スペースは結構小さめだからそんなに時間も取られない。日本人なら一度は見ておいたほうがいいだろう。
「なんか、戦後の沖縄のおうちに、似てるね?」
「沖縄はアメリカの植民地だったから、似てて当然なのかもな」
その後、リトルトーキョーをゆっくり巡った。本屋や食料品店などが並んでいる。多恵子は日本語の本をいくつか手に取っていたが、値札を見て叫んだ。
「いっぺー、高さん!」
リトルトーキョーからダウンタウン中心部へ抜ける道は、治安上あまりいい地域とは言えず、日本人はなにかと狙われやすい。さっさと車で通り過ぎ、ダウンタウンの中心街であるブロードウェイ・ストリートをぐるっと回る。途中、僕は多恵子に吉野家を指し示した。
そのあと、ドジャース球場へ。野茂はこの年は別の球団に移っていたけど、彼がやってきて優勝したときはそりゃあもう大騒ぎだったらしい。もちろん、この時期は既にオフ・シーズンだったが、球団のオフィシャルショップは開いていた。野球帽とスタジアムジャンパーを買った多恵子は大はしゃぎ。駐車場へ帰ってくると、早速帽子を被ってジャンパーを身につけ、カーラジオから流れる音楽に乗って、よくわからん踊りを踊りはじめた。
ここでも一枚、パチリ。いや、もうちょっと撮っておくか。
それにしても、こいつ、元気だな。本当に眠くないのかな。
午後四時前、僕らはJ.ポール・ゲティ美術館にいた。
駐車場に車を停め、トラムと呼ばれるモノレールに乗って、丘の上にある美術館へ到着する。白く大きな建物と、それをぐるりと取り囲む緑の景色が姿を現した。
「すっごい! なにここ? 公園?」
「美術館。でかいだろ? タダだぜ」
多恵子は信じられないといった様子で、大声をあげた。
「タダ? うそ! ショッピングモールかなにかみたい。でーじ上等!」
騒ぐ多恵子に向かい、僕は自分の口元に人差し指を当てた。お嬢さん。ここは美術館ですから、あまり騒がないで下さいね。
静かになった多恵子と、美術館の中に入った。がらんとした館内に、僕らの靴音がコツンコツンと響き渡る。
この美術館は、オイルマネーで大富豪になったゲティ氏が自らの趣味で集めてたコレクションを展示するため、一九九七年に建てられた。広い敷地面積を誇る本館は三階建て。中央は吹き抜けになっていて、景色を楽しみながら、廊下や陳列室に並ぶアンティーク工芸品や絵画といった収蔵品を眺めることができるのだ。
……といっても、今は絵を見ている場合じゃないんだよね。僕は多恵子を戸外へ引っ張りだした。
「ごめん、今日は絵を見に来たんじゃないんだ。こっちこっち」
「え、え、え? ちょっと、何?」
僕は多恵子を、噴水のある広場へと引っ張り出した。
「見てみ。夕日だ」
僕は西の空に沈もうとする夕日を指差した。実はこの美術館、LAっ子たちのデートコースとしてもよく知られている。ここからの眺めは絶景だった。
「うわ、すごーい! でかーい!」
「かなり早く沈むから、よく見とけよ」
「え、あ、ほんとだ、早い早い!」
多恵子がつるべ落としの夕日に夢中になっている間に、僕は多恵子の背中側に回りこみ、後ろからしっかりと抱きかかえた。多恵子は夕日の方を向いたまま、無口になった。
やがて、太陽が完全に僕らの前から姿を消し、あたりを夕闇が包んだ。
「……沈んだね」
多恵子が小声を発した。
「ああ、きれいだったろ?」
「うん」
僕は彼女の肩を抱いたまま、左横へゆっくりと移動した。
陰りゆく光が彼女の横顔を浮かび上がらせる。真っ直ぐな髪、大きなぱっちりした目、長いまつげ、ちょっと低めの鼻と愛らしい口元。昨日まで会いたくてたまらなかった姿が、今はすぐそこにあった。
彼女の額にかかる髪を右手で撫でた。彼女は目を閉じた。
僕は彼女のあごに両手を添え、そのままゆっくり唇を重ね、きつく抱きしめた。 ((4)へつづく)
The narrator of this story is Tsutomu Uema.
次に、僕らはロサンゼルス市内へ向かった。そのままダウンタウンへ。リトルトーキョーを見せておこうかな。
「多恵子、しんどいと思うけど起きとけよ。時差ぼけになるぞ」
日付変更線を超えた場合、着いたその日をどう過ごすかで翌日の過ごし方が全然変わってくる。
「うん、判ってる。飛行機で思いっきり寝たから、まだ大丈夫」
「よし、じゃあ、ちょっと博物館まで行こうな?」
まず、全米日系人博物館に入る。展示された写真や日用品をとおして、在米日系人の歴史が判りやすく説明されている。展示スペースは結構小さめだからそんなに時間も取られない。日本人なら一度は見ておいたほうがいいだろう。
「なんか、戦後の沖縄のおうちに、似てるね?」
「沖縄はアメリカの植民地だったから、似てて当然なのかもな」
その後、リトルトーキョーをゆっくり巡った。本屋や食料品店などが並んでいる。多恵子は日本語の本をいくつか手に取っていたが、値札を見て叫んだ。
「いっぺー、高さん!」
リトルトーキョーからダウンタウン中心部へ抜ける道は、治安上あまりいい地域とは言えず、日本人はなにかと狙われやすい。さっさと車で通り過ぎ、ダウンタウンの中心街であるブロードウェイ・ストリートをぐるっと回る。途中、僕は多恵子に吉野家を指し示した。
そのあと、ドジャース球場へ。野茂はこの年は別の球団に移っていたけど、彼がやってきて優勝したときはそりゃあもう大騒ぎだったらしい。もちろん、この時期は既にオフ・シーズンだったが、球団のオフィシャルショップは開いていた。野球帽とスタジアムジャンパーを買った多恵子は大はしゃぎ。駐車場へ帰ってくると、早速帽子を被ってジャンパーを身につけ、カーラジオから流れる音楽に乗って、よくわからん踊りを踊りはじめた。
ここでも一枚、パチリ。いや、もうちょっと撮っておくか。
それにしても、こいつ、元気だな。本当に眠くないのかな。
午後四時前、僕らはJ.ポール・ゲティ美術館にいた。
駐車場に車を停め、トラムと呼ばれるモノレールに乗って、丘の上にある美術館へ到着する。白く大きな建物と、それをぐるりと取り囲む緑の景色が姿を現した。
「すっごい! なにここ? 公園?」
「美術館。でかいだろ? タダだぜ」
多恵子は信じられないといった様子で、大声をあげた。
「タダ? うそ! ショッピングモールかなにかみたい。でーじ上等!」
騒ぐ多恵子に向かい、僕は自分の口元に人差し指を当てた。お嬢さん。ここは美術館ですから、あまり騒がないで下さいね。
静かになった多恵子と、美術館の中に入った。がらんとした館内に、僕らの靴音がコツンコツンと響き渡る。
この美術館は、オイルマネーで大富豪になったゲティ氏が自らの趣味で集めてたコレクションを展示するため、一九九七年に建てられた。広い敷地面積を誇る本館は三階建て。中央は吹き抜けになっていて、景色を楽しみながら、廊下や陳列室に並ぶアンティーク工芸品や絵画といった収蔵品を眺めることができるのだ。
……といっても、今は絵を見ている場合じゃないんだよね。僕は多恵子を戸外へ引っ張りだした。
「ごめん、今日は絵を見に来たんじゃないんだ。こっちこっち」
「え、え、え? ちょっと、何?」
僕は多恵子を、噴水のある広場へと引っ張り出した。
「見てみ。夕日だ」
僕は西の空に沈もうとする夕日を指差した。実はこの美術館、LAっ子たちのデートコースとしてもよく知られている。ここからの眺めは絶景だった。
「うわ、すごーい! でかーい!」
「かなり早く沈むから、よく見とけよ」
「え、あ、ほんとだ、早い早い!」
多恵子がつるべ落としの夕日に夢中になっている間に、僕は多恵子の背中側に回りこみ、後ろからしっかりと抱きかかえた。多恵子は夕日の方を向いたまま、無口になった。
やがて、太陽が完全に僕らの前から姿を消し、あたりを夕闇が包んだ。
「……沈んだね」
多恵子が小声を発した。
「ああ、きれいだったろ?」
「うん」
僕は彼女の肩を抱いたまま、左横へゆっくりと移動した。
陰りゆく光が彼女の横顔を浮かび上がらせる。真っ直ぐな髪、大きなぱっちりした目、長いまつげ、ちょっと低めの鼻と愛らしい口元。昨日まで会いたくてたまらなかった姿が、今はすぐそこにあった。
彼女の額にかかる髪を右手で撫でた。彼女は目を閉じた。
僕は彼女のあごに両手を添え、そのままゆっくり唇を重ね、きつく抱きしめた。 ((4)へつづく)
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