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Part3 The year of 2000
Chapter_13.でいごの木の下で(2)抱き合って
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At Los Angeles; December 5 and 6, 2000.
The narrator of this story is Tsutomu Uema.
そのまま僕は多恵子をアパートに降ろし、UCLAへ戻ってフランクに礼をいい、勤務を続けた。
翌朝、Long勤務を終えて帰宅すると、多恵子がまたもや朝食を用意して僕を待っていた。彼女は玄関脇に置かれた小包を指差した。すでに開いている。
「あたしが沖縄から送った荷物、昨日届いたわけさ。はいこれ、シママースとお守り。ちゃんと車に乗せといてよ」
ベッドサイドに彼女が手作りしたというお守り袋と、波之上宮と観音堂のお守り袋がぶら下がっている。まあ、随分買い込んだものだ。内心、呆れながらも礼を言い、僕はこれらをポケットにしまいこんだ。
「そうそう、昨夜はMs. Diffendarferのお宅でピザいただいたから、勉からもお礼言っといてね」
「え? あのお宅んかい?」
「荷物に詰めておいたサーターアンダギーとピパーツを持っていったよ。あんたにはまた送るから、いいよね?」
僕の脳裏に小太りのMs. Diffendarferの顔が浮かんだ。僕のところにくる小包はほとんど多恵子からだ。差出人欄にTaeko Kochindaと書かれたラベルを十回以上も眺めてきた家主さんにとって、多恵子は古い知人の娘みたいなものだったのだろう。多恵子はくすくす笑いながら続けた。
「全く、どこの世界でも女の子っておませだよねー。Dianaちゃんがキャーキャー言っててさ。ツトムとどういう仲だ、って、問い詰められちゃったよ」
多恵子の言葉に僕も吹き出した。確かにあの子はおませだね。背はすらっとしているし、顔かたちも悪くないからとりあえず将来は有望な部類だと思うけど、中学に上がったら派手な服買ったりして大変なんだろうな。
食べ終えた食器を洗う多恵子の後姿を、僕はぼんやりと眺めていた。
明後日、彼女が沖縄に帰ってしまうなんて、とても信じられない。
たまらず立ち上がり、彼女の背後に回って抱き締めた。
「あね、あね!」
多恵子はなだめるように言葉を発すると、多恵子は蛇口を閉めて手を軽くタオルで拭いて、僕の手を外した。そして、
「言うこと聞かないと、すぐ!」
と、こちらを振り返りざま、僕の両方のほっぺたをギュッとつまんだ。
「あがが! い、い、痛いです、お嬢さん、痛い!」
やられた! そうだよ。すっかり忘れていたけど、こいつは学校一のウーマクーだった!
「たーてたーて、よーこよーこ、まーる描いて」
「あががが!」
多恵子は僕の叫び声にも構わず、僕の両頬を引っ張り続け、歌いながら両手を上下左右に動かした。そして、手を一瞬放し、
「ちょん!」
と、僕のおでこをその人差し指で強く弾いた。僕は思わず洗面所に駆け込み、鏡を覗き込んだ。両頬と、弾かれたおでこが真っ赤だ。
「はっさびよ、全ち変わらんやー、このウーマクーひゃー」
多恵子はあかんべえをしている。
「台所仕事をする女性を背後から襲うとは、不届き千万な奴め」
……どこが‘襲う’だよ、どこが? ちぇっ、せっかくロマンチックな気持ちに浸っていたのに。しゃーねーな。夜勤明けだし、しばらく仮眠とるわ。あーあ、せっかくその気になっていたのに。ぶつぶつ。
「俺、これから仮眠取るから、邪魔するなよ?」
「はーい、大人しくヘッドフォンつけてDVD見てるよ」
……なんだ、側に来て「おやすみなさい」も、ないのかい?
僕は眼鏡を外し、着衣を脱いでトランクス一本になると、さっさとベッドにもぐりこんだ。未練がましいが、一応、声を掛ける。
「あのさ、我ねー、本当寝んじゅんどー?
「どうぞ、おやすみー」
多恵子、汝んかいや、二人揃てぃ居る時ゆ惜さっし、別り苦さんでぃる心持ぇー、無らんどぅあるい?
しばらくタオルケットを被っていたが、どうしても寝付けない。とうとう僕はタオルケットを蹴って起き上がると、DVDに見入っている多恵子の耳からヘッドフォンを奪い取り、そのまま抱きかかえてベッドに連れ込んだ。
そして僕は、多恵子に、溶けた。
溺れる、なんて生やさしいものじゃない。僕の心はバターのように跡形もなく溶けて、多恵子と一心同体になってしまった。どこまでが僕の体で、どこからが彼女の体なんてもう判別できずに、気がつくと僕は僕自身を見失ったまま、彼女を抱き締め茫然とそこに佇んでいた。 ((3)へつづく)
The narrator of this story is Tsutomu Uema.
そのまま僕は多恵子をアパートに降ろし、UCLAへ戻ってフランクに礼をいい、勤務を続けた。
翌朝、Long勤務を終えて帰宅すると、多恵子がまたもや朝食を用意して僕を待っていた。彼女は玄関脇に置かれた小包を指差した。すでに開いている。
「あたしが沖縄から送った荷物、昨日届いたわけさ。はいこれ、シママースとお守り。ちゃんと車に乗せといてよ」
ベッドサイドに彼女が手作りしたというお守り袋と、波之上宮と観音堂のお守り袋がぶら下がっている。まあ、随分買い込んだものだ。内心、呆れながらも礼を言い、僕はこれらをポケットにしまいこんだ。
「そうそう、昨夜はMs. Diffendarferのお宅でピザいただいたから、勉からもお礼言っといてね」
「え? あのお宅んかい?」
「荷物に詰めておいたサーターアンダギーとピパーツを持っていったよ。あんたにはまた送るから、いいよね?」
僕の脳裏に小太りのMs. Diffendarferの顔が浮かんだ。僕のところにくる小包はほとんど多恵子からだ。差出人欄にTaeko Kochindaと書かれたラベルを十回以上も眺めてきた家主さんにとって、多恵子は古い知人の娘みたいなものだったのだろう。多恵子はくすくす笑いながら続けた。
「全く、どこの世界でも女の子っておませだよねー。Dianaちゃんがキャーキャー言っててさ。ツトムとどういう仲だ、って、問い詰められちゃったよ」
多恵子の言葉に僕も吹き出した。確かにあの子はおませだね。背はすらっとしているし、顔かたちも悪くないからとりあえず将来は有望な部類だと思うけど、中学に上がったら派手な服買ったりして大変なんだろうな。
食べ終えた食器を洗う多恵子の後姿を、僕はぼんやりと眺めていた。
明後日、彼女が沖縄に帰ってしまうなんて、とても信じられない。
たまらず立ち上がり、彼女の背後に回って抱き締めた。
「あね、あね!」
多恵子はなだめるように言葉を発すると、多恵子は蛇口を閉めて手を軽くタオルで拭いて、僕の手を外した。そして、
「言うこと聞かないと、すぐ!」
と、こちらを振り返りざま、僕の両方のほっぺたをギュッとつまんだ。
「あがが! い、い、痛いです、お嬢さん、痛い!」
やられた! そうだよ。すっかり忘れていたけど、こいつは学校一のウーマクーだった!
「たーてたーて、よーこよーこ、まーる描いて」
「あががが!」
多恵子は僕の叫び声にも構わず、僕の両頬を引っ張り続け、歌いながら両手を上下左右に動かした。そして、手を一瞬放し、
「ちょん!」
と、僕のおでこをその人差し指で強く弾いた。僕は思わず洗面所に駆け込み、鏡を覗き込んだ。両頬と、弾かれたおでこが真っ赤だ。
「はっさびよ、全ち変わらんやー、このウーマクーひゃー」
多恵子はあかんべえをしている。
「台所仕事をする女性を背後から襲うとは、不届き千万な奴め」
……どこが‘襲う’だよ、どこが? ちぇっ、せっかくロマンチックな気持ちに浸っていたのに。しゃーねーな。夜勤明けだし、しばらく仮眠とるわ。あーあ、せっかくその気になっていたのに。ぶつぶつ。
「俺、これから仮眠取るから、邪魔するなよ?」
「はーい、大人しくヘッドフォンつけてDVD見てるよ」
……なんだ、側に来て「おやすみなさい」も、ないのかい?
僕は眼鏡を外し、着衣を脱いでトランクス一本になると、さっさとベッドにもぐりこんだ。未練がましいが、一応、声を掛ける。
「あのさ、我ねー、本当寝んじゅんどー?
「どうぞ、おやすみー」
多恵子、汝んかいや、二人揃てぃ居る時ゆ惜さっし、別り苦さんでぃる心持ぇー、無らんどぅあるい?
しばらくタオルケットを被っていたが、どうしても寝付けない。とうとう僕はタオルケットを蹴って起き上がると、DVDに見入っている多恵子の耳からヘッドフォンを奪い取り、そのまま抱きかかえてベッドに連れ込んだ。
そして僕は、多恵子に、溶けた。
溺れる、なんて生やさしいものじゃない。僕の心はバターのように跡形もなく溶けて、多恵子と一心同体になってしまった。どこまでが僕の体で、どこからが彼女の体なんてもう判別できずに、気がつくと僕は僕自身を見失ったまま、彼女を抱き締め茫然とそこに佇んでいた。 ((3)へつづく)
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