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二章
王宮の庭
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トトはボンヤリしたままなんの反応もないけれど、ララは気にしなかった。
手を引くと素直についてきたので、ララはくすしの勉強の合間に、王宮の色々なところを引っ張り回した。
そして、その二人の後を、王宮に勝手に住み着いたり飼われている様々な動物たちがついて歩いた。
世話係が二人を探して王宮中をかけまわらなくとも、動物についていけば二人は必ずいた。二人は王宮に住み着いた二匹の愛らしい動物のようだった。そんな二人をみんなが心から愛した。
トトは毎日何もせず、何も言わず、なんの感情も表さなかったが、夜眠るときだけは、ララがいないと眠らなかった。
ララよりお兄さんなのに困ったものだ。仕方がないので、ララはいつもトトを抱き寄せ、おばあさまがしてくれたみたいに、トトの背中を小さな手でトントン叩きながら一緒に眠った。時々おばあさまのベッドで三人で眠った。
そんなある日、王宮の池で大きなヒキガエルを捕まえることに凝っていたララは、バケツがいっぱいになったので、トトに一匹持っててもらって、もう一匹ずつトトの膝と頭の上に乗せた。
トトの手や頭が体温で温かいので、ヒキガエルはそこで案外大人しくしているのだ。そうして次の狩に勤しんで、あともう少しで今日一番の大物を捕まえ損ね、ララが歯噛みしていると声がした。
「トト! どうしたんだい⁉︎」
見るとポルドがトトに屈みこんで抱き上げている。急いで戻ると、動物たちもトトを抱き上げたポルドのそばに集まっていた。
ポルドはいつもララとトトを世話してくれるレイチェルの旦那さんで、ダイジンのヒショをしている明るくて面白いおじさんだ。
「ど、どーしたの、トト!」
びっくりしてララが駆け寄ると、トトは両手でヒキガエルの胴をしっかり持って、ポロポロ泣きながら、蚊の鳴くような声で「きもちわるい……」と言った。
「!?」
その一言でポルドも驚き、膝の上にトトを抱え直すと、顔色を見ながら熱がないかと慌てて額に手をやっている。
なんだろう。どこが気持ち悪いんだろう。お腹かな?
ララは慌ててトトからカエルを受け取って、お腹をそうっと撫でていると、トトはホッとしたように泣き止んだ。
「……ララ様、トト様はひょっとしてカエルがお嫌いなのでは……?」
「……え! なんで!? そんなことないよね、トト?」
ララが試しにもう一度トトにヒキガエルを持たせようとすると、トトは手をぎゅっと握りしめたまま、頑なに開こうとしなかった。
「……ララ様、どうやらそのようですぞ」
トトが何事もなかったように、またボンヤリと陽だまりを眺めているのを見て、ポルドがホッとしたように言った。
「そんな……」
夕食の席で、ポルドがそのことをおばあさまとレイチェルにバラした。
すると二人は、お腹を抱えて笑いだした。
「あはははは、あの池にいるヒキガエルは子猫ほどもありますもんね」
「ふぁふぁふぁ、慣れないトトはさぞ堪え兼ねたろうよ、ララ」
「む、なんで! ヒキガエル面白いのに! かえる跳び競争しようと思ってトトに一番大きいカエルあげたのに!」
「ララ様、大抵の人は、ヒキガエルを見て面白いとは思わないものですぞ?」
「なんで!」
ララがムキになって怒れば怒るほど、おばあさまとポルドとレイチェルはゲラゲラ笑う。
トトは相変わらず黙ってご飯を食べている。
最初はスプーンで口に持っていかないとご飯を食べなかったトトだったが、この頃にはスプーンを持たせると自分で口に運ぶようになっていた。
トトが来て、そろそろ一年半が過ぎようとしていた。
なんだか納得のいかない思いで、ララは翌日、トトの綺麗な黒髪にシロツメグサの花冠を作って乗せた。これなら大丈夫だろう。
他にもたくさん花を摘んできて、トトの髪を飾っていると、唐突にトトが「痛いよ」といってララを見た。
びっくりしてララが目を丸くしていると、トトは生意気な口調で、子どもがこんなところに来ちゃいけないんだぞと言ったのだ。
なーまーいーきー!
頭にヒキガエル乗っけられただけで泣いてたくせに!
何よと言い返してやったが、ここが自分のうちではないと知ると、トトは急に心許無い様子になってぼんやりと辺りを眺め回した。
また心が潜って行くのはたまらないなと思ったので、池に連れて行き、水鏡で髪飾りを見せてあげた。
てっきり喜んでくれると思ったのに、トトは嫌がって乱暴に外したので冠が壊れてしまった。
でもトトはそれが結構ショックだったようで、素直に謝るので許してあげることにした。
そして、ララがそれを直してみせると目を丸くして驚いていた。手放しでララを褒めてくれたので、なんだかくすぐったくなってシロツメグサの冠の作り方を教えてあげた。
ボンヤリと黙ったまま素直なトトも好きだったけど、こっちのトトの方がずっと素敵だと思った。
そこへおばあさまが帰って来て、トトはうちに帰らなければというので、髪に幸運をもたらす四葉のクローバーを結んでやると、トトは手を振って自分の家に帰って行った。
ああ、本当の名前聞くのを忘れたなと思った。
──まぁ、明日また聞けばいいか。
手を引くと素直についてきたので、ララはくすしの勉強の合間に、王宮の色々なところを引っ張り回した。
そして、その二人の後を、王宮に勝手に住み着いたり飼われている様々な動物たちがついて歩いた。
世話係が二人を探して王宮中をかけまわらなくとも、動物についていけば二人は必ずいた。二人は王宮に住み着いた二匹の愛らしい動物のようだった。そんな二人をみんなが心から愛した。
トトは毎日何もせず、何も言わず、なんの感情も表さなかったが、夜眠るときだけは、ララがいないと眠らなかった。
ララよりお兄さんなのに困ったものだ。仕方がないので、ララはいつもトトを抱き寄せ、おばあさまがしてくれたみたいに、トトの背中を小さな手でトントン叩きながら一緒に眠った。時々おばあさまのベッドで三人で眠った。
そんなある日、王宮の池で大きなヒキガエルを捕まえることに凝っていたララは、バケツがいっぱいになったので、トトに一匹持っててもらって、もう一匹ずつトトの膝と頭の上に乗せた。
トトの手や頭が体温で温かいので、ヒキガエルはそこで案外大人しくしているのだ。そうして次の狩に勤しんで、あともう少しで今日一番の大物を捕まえ損ね、ララが歯噛みしていると声がした。
「トト! どうしたんだい⁉︎」
見るとポルドがトトに屈みこんで抱き上げている。急いで戻ると、動物たちもトトを抱き上げたポルドのそばに集まっていた。
ポルドはいつもララとトトを世話してくれるレイチェルの旦那さんで、ダイジンのヒショをしている明るくて面白いおじさんだ。
「ど、どーしたの、トト!」
びっくりしてララが駆け寄ると、トトは両手でヒキガエルの胴をしっかり持って、ポロポロ泣きながら、蚊の鳴くような声で「きもちわるい……」と言った。
「!?」
その一言でポルドも驚き、膝の上にトトを抱え直すと、顔色を見ながら熱がないかと慌てて額に手をやっている。
なんだろう。どこが気持ち悪いんだろう。お腹かな?
ララは慌ててトトからカエルを受け取って、お腹をそうっと撫でていると、トトはホッとしたように泣き止んだ。
「……ララ様、トト様はひょっとしてカエルがお嫌いなのでは……?」
「……え! なんで!? そんなことないよね、トト?」
ララが試しにもう一度トトにヒキガエルを持たせようとすると、トトは手をぎゅっと握りしめたまま、頑なに開こうとしなかった。
「……ララ様、どうやらそのようですぞ」
トトが何事もなかったように、またボンヤリと陽だまりを眺めているのを見て、ポルドがホッとしたように言った。
「そんな……」
夕食の席で、ポルドがそのことをおばあさまとレイチェルにバラした。
すると二人は、お腹を抱えて笑いだした。
「あはははは、あの池にいるヒキガエルは子猫ほどもありますもんね」
「ふぁふぁふぁ、慣れないトトはさぞ堪え兼ねたろうよ、ララ」
「む、なんで! ヒキガエル面白いのに! かえる跳び競争しようと思ってトトに一番大きいカエルあげたのに!」
「ララ様、大抵の人は、ヒキガエルを見て面白いとは思わないものですぞ?」
「なんで!」
ララがムキになって怒れば怒るほど、おばあさまとポルドとレイチェルはゲラゲラ笑う。
トトは相変わらず黙ってご飯を食べている。
最初はスプーンで口に持っていかないとご飯を食べなかったトトだったが、この頃にはスプーンを持たせると自分で口に運ぶようになっていた。
トトが来て、そろそろ一年半が過ぎようとしていた。
なんだか納得のいかない思いで、ララは翌日、トトの綺麗な黒髪にシロツメグサの花冠を作って乗せた。これなら大丈夫だろう。
他にもたくさん花を摘んできて、トトの髪を飾っていると、唐突にトトが「痛いよ」といってララを見た。
びっくりしてララが目を丸くしていると、トトは生意気な口調で、子どもがこんなところに来ちゃいけないんだぞと言ったのだ。
なーまーいーきー!
頭にヒキガエル乗っけられただけで泣いてたくせに!
何よと言い返してやったが、ここが自分のうちではないと知ると、トトは急に心許無い様子になってぼんやりと辺りを眺め回した。
また心が潜って行くのはたまらないなと思ったので、池に連れて行き、水鏡で髪飾りを見せてあげた。
てっきり喜んでくれると思ったのに、トトは嫌がって乱暴に外したので冠が壊れてしまった。
でもトトはそれが結構ショックだったようで、素直に謝るので許してあげることにした。
そして、ララがそれを直してみせると目を丸くして驚いていた。手放しでララを褒めてくれたので、なんだかくすぐったくなってシロツメグサの冠の作り方を教えてあげた。
ボンヤリと黙ったまま素直なトトも好きだったけど、こっちのトトの方がずっと素敵だと思った。
そこへおばあさまが帰って来て、トトはうちに帰らなければというので、髪に幸運をもたらす四葉のクローバーを結んでやると、トトは手を振って自分の家に帰って行った。
ああ、本当の名前聞くのを忘れたなと思った。
──まぁ、明日また聞けばいいか。
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