前途多難な白黒龍王婚【R 18】

天花粉

文字の大きさ
21 / 51
二章

しおりを挟む
 男っ気のないままララが二十歳を超えた頃から、カリアはめっきり旅に同行することが少なくなってしまった。
 シンをララに貸し出し――と言うか、シンはカリアかララ以外の人間を背中に乗せることを嫌うので、最近はもっぱらひとり旅だ。
 現地に着いてからは白馬の姿に変身してくれるのだが、目立たず旅ができるかと言うとそうでもなく、一言で言ってララが乗るにはシンの白馬は立派すぎるのである。
 実際、何度か馬を狙う盗賊に襲われた。
 幼い頃から仕込まれた体術とナイフ術でなんとか凌いだが、それでもダメならシンの出番となるわけで、そうなるとシンは尻尾のひと薙ぎか、鋭い蹄――こういう時はナイフのように鋭く尖った鉤爪になっている――で皆殺しにしてしまうので、これはできるだけ避けたい。
 その遺体の有様たるや、惨憺たるものなのである。

 大体、シンの変身は案外雑で、よく見ると胴体のところどころが鱗になっているし、尻尾が龍のままになっていることもある。
 稀に耳の後ろにはさりげなくツノが付いていたりするので誤魔化すのが大変だ。
 カリアと一緒の時は完璧なのに、自分の時はどうも気を抜いているらしい。
 次期王候補なのに、舐められたものである。
 シンに文句を言ってもどこ吹く風なので、もう諦めた。
 胴体の鱗や尻尾は鞍の下に粗末な布をかけたりして、なんとか誤魔化しながら旅をしている始末だ。
 ツノを見咎められた時は「おもしろい仮装でしょう? 子供が喜ぶんですよ」と笑って誤魔化すことにしている。
 まさか目の前の馬が神龍とは誰も思わないので、わりとみんなアッサリ騙された。

 そんなわけで、最近では白馬のシンに乗るのは避けているのだが、それだとカリアが旅を許してくれないので、もっぱら上空で待機させている。
 シンの白銀の鱗は周囲の景色を写し撮り、空にうまく紛れてしまうのだ。
 だけど今回の旅だけは、本当に共のない一人旅だ。カリアの具合がいよいよ悪くシンが側を離れない。
 本当は自分もそばに居たかったが、カリアの弱った心臓に効く薬草が、ゴダールの外れにあるタリサ村でしか採れないので、無理やり出かけることにした。

「どうしたの、ケリー、浮かない顔して? 何か心配事?」

 仲良くなったローラという村娘だ。ララより2歳年上で、結婚して今はお腹に赤ちゃんがいる大事な時期だ。
 ララが来るといつもこの家のご厄介になっている。

「ああ、なんでもない。天気が悪くなってきたから、薬草採りはここらで切り上げようかと考えてた」
「そう? 帰る?」
「うん、行こう。雨になりそうだ。手伝ってくれてありがとう」
「いいのよ、いつも村のみんながお世話になってるもの」

 ローラと二人、薬草の入った籠を持って村に引き上げた。
 おばあさまの死期が近づいている。神龍の加護を持つと言えども王は不死ではない。わかってはいたが辛い。
 
 夜半から降り続いた雨は、明け方にタリサ村の西外れで土砂崩れを起こし、午後遅く、黒髪の美しい王子を連れてきた。
 王都から遠く離れた僻地での遠征に駆り出されるぐらいなのだから、それほど王に近くないのかもしれない。
 王に近ければ近いほど龍王色がよく現れるが、稀に遠縁でもポツンと生まれることがあるし、近くとも一般庶民の茶髪に茶色の目ということもあるので一概には言えない。
 でもまぁ、そんなことより今は、目の前で起きたことに激怒し、騒ぎを起こして王子に囚われてしまったことの方が問題だ。
 あの場では、ローラのために膝に乗せようとしたとしか言わなかったが、あのアベリとかいうケダモノは、あろうことか嫌がるローラのスカートの中に手を入れ、汚らわしい手で執拗にまさぐっていたのだ。
 それを見た瞬間、激しい嫌悪と怒りで全身が総毛立った。考える前に身体が動いていた。怒りに我を忘れ、広間にいたゴダール兵士全員を敵に回すつもりになっていた。いざとなったらシンで皆殺しだと思ったのだ。
 いい加減にしろと王子に止められて、やっとシンがそばにいないことを思い出した。
 我ながらどうかしていると言わざるを得ない。

 何をやっているんだ私は――

 黒髪の王子に言われるままに一仕事させられて、部屋に戻ってきて寝台に倒れ込んで眠ってしまった。
 ここ最近、レイチェルに私たちがいるから大丈夫だと言われているのに、おばあさまの傍につききりで寝不足が続いていたのだ。
 久しぶりに懐かしい夢を見た、
 黒髪黒目の幼い少年とシン王宮の庭で遊んでいる夢。幼い頃から何度も見る夢だ。必ず覚えていようと思うのに、目がさめるといつも忘れてしまう。
 この子は同じ寝台で眠る時はララの寝間着のどこかをぎゅっと掴んで眠る。首のところに怪我をしているけれど、あどけない寝顔がかわいい。

 誰なんだろう。

 今考えてみればゴダール王族に違いないが、幼い頃の自分にはわからなかった。
 初めて外国に行ったのは12の時だった。赤い髪に紅い目の赤龍の王族を見た時は随分驚いた。
 ゴダールに行ったのは13かそこらだったと思う。今の自分に神龍色は珍しくもないが、久しぶりにこの夢を見たのは、同じ黒髪黒目のあのラウルとかいう王子のせいだと思う。
 妙な気配を感じてハッと目を覚ますと、一瞬、その少年が突然大人の男になって自分の体をまさぐっているのかと思った。
 胸を掴んで手のひらで感触を確かめるように揉んでくる。

「な、なななな何をするっ!」
「何って、男と女のすることなど決まっているだろう?」

 戸惑っているうちに、キスされてさらに身体を撫でられ、剥き出しにされた胸を柔らかい舌が這う。

「――…っ!?」

 痺れるようなその快感に、下腹部がズキッと疼くのを感じた。身体が熱くなる。
 男のもたらす刺激にそんな風に反応してしまう自分が嫌だった。

「いやっ!」

 思わず頬を叩いていた。
 でも結局、王子は嫌だといえば楽しそうに笑ってそれ以上のことはしなかった。
 心底ほっとした。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...