無慈悲な正義と女難

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第三章 現代編(春美の才覚)

幕間 春美の妊娠

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知り合った当初から春美が強い妊娠願望を持っているのは隆之も気が付いていた。クラブ"グランデ"が危機的な状況に追い込まれ巷で廃業を噂されている頃は余り口に出さなかったが、店の経営状態が大幅に改善回復し始めると、他人の前では決して口にしないが"私、旦那さまの子供が欲しいの"と口癖のように囁くようになっていた。
今日は満37歳となる春美の誕生日、ティファニーにオーダーメイドで作らせたピンクダイアモンドの指輪とイヤリングは手元に用意してある。後は、本人に都合を聞きレストランを予約するだけと、春美の携帯に電話を掛けると
「旦那さま、前に排卵日だからいっぱい子種をくださいとお願いした日から生理が無いの。私のマンションに来て頂けるお時間が有れば、薬局で妊娠検査キットを買ってから来て頂けないかしら。里美と小百合にはギリギリまで秘密にして驚かしてやりたいから頼めないの、それに今日は身体が怠くてなんと無く動きたくないので」
誕生日には必ず隆之が誘いの電話を掛けるのを承知で待っていたのだろう。本当に妊娠していれば、良い誕生日祝いになるだろう程度の軽い気持ちで、承知したと伝え電話を切る。
薬局に立寄り検査キットを購入し、春美のマンションに向かう。春美は隆之を玄関から招き入れ、手に持つ薬局の袋を奪い取り
「トイレで調べますから、旦那さまはリビングで待っててください」
トイレの扉を開閉する音が聞こえ、数分後
「旦那さま、早く来てぇぇ!」
突然、春美が大声で呼ぶので、急いで駆け付けるとトイレの扉を開いたまま
「よ、陽性なの・・・」
洋式トイレに大股開きで腰を落としたまま、まだ湿っている妊娠検査キットをボーッと眺め、ボソッと呟く。驚いて動揺していると言うより、嬉しさの余り検査キットから目が離せないのだろう。
「あの日だと、妊娠2ヶ月目で計算が合うの、それに妊娠検査キットの精度は99%、間違い無く春美は旦那さまの子供を授かったのだわ」
目を潤ませながらも笑みを絶やさない春美の表情を見れば、彼女が心の底から妊娠を喜んでいるのが手に取るように判る。
そんな春美と違って極めて冷静な隆之は、懇意にしている総合病院の病院長に頼みこみ、産婦人科に今日の予約を無理矢理捻じ込ませた。
「櫻井さん、こちらの用紙に記入してください」
初診患者の問診表である。春美は名前、生年月日、住所、身長、体重、初潮年齢、最終月経日、妊娠経験の有無を記入し、診察用件欄の妊娠検査にチェックを入れ、その下の選択欄は出産を望むを躊躇なく丸で囲んでいた。問診表を提出して暫くすると
「お待たせしました。櫻井さん、診察室にどうぞ」
診察室には春美だけ入り、隆之は待合室に残された。産婦人科の待合室は居心地が悪いので、受付の女性に伝言を頼み、売店横の自販機でコーヒーを飲んで春美が診察を終えるのを待つ。
30分程待っていると、診察を終えた春美が満面に笑みを浮かべ隆之のところにやって来た。
「お目出度ですって、しっかり赤ちゃんの心臓が動いているのがモニターで見えたのよ」
春美の予想通り、現在は妊娠2ヶ月で出産予定日は3月中旬だなどと春美が帰りの車の中で教えてくれた。それと、安定期に入る妊娠6ヶ月までは基本セックスは避け、それ以降も出産するまでお腹を圧迫するような行為は絶対禁止と言われたらしい。
春美37歳の誕生日は、お摘みは春美の手料理のみ、招待客は隆之のみ、と言うシンプル且つ質素な誕生会ではあったが、隆之から最高のプレゼントを貰えた忘れられない日だと燥いでいた。
ピンクダイアモンドの愛人契約指輪とイヤリング、そしてお腹の子供、これが春美の言う隆之が用意したプレゼントらしいが、愛人契約指輪とはなんだろうと疑問はあるが、春美が喜んでいるのだからと、敢えて聴き流す事にした。
その翌々日、クラブ"グランデ"のママをすみれに譲り、春美は"グランデ"グループ社長業に徹する事を発表した。

春美の妊娠と暫くセックス禁止を知った里美と詩織が彼女に続けとばかりに中出しお強請り攻勢を掛けて来るので性欲処理は春美抜きでも不自由は無い。
ある日、里美から春美が体調悪そうだと聞き、マンションを訪ねインターフォンを鳴らしても反応が無いので、預かっている予備キーで玄関を開く。リビングに向かう途中、春美の寝室から喘ぐような声が聞こえ、そっと寝室の扉を開き覗くと、パンティを片足首に引っ掛け、ブラジャーを胸上まで跳ね上げた春美が夢中でオナニーに耽っていた。寝室の扉を閉め、扉を強めにノックしながら声を掛けると、バタバタ慌てふためく音を立て、顔を赤面させ少し乱れ気味にガウンを羽織った春美が扉を開いた。
「春美、体調が思わしくないと聞いたが、何をしていたんだ?」
春美はドキッと驚き顔で
「えっ、寝てたに決まっているでしょ。妊婦はとっても疲れ易いの」
春美が時々オナニーで飢えた身体を鎮めている事に気付きながら、隆之は敢えて知らない振りをしていた。

春美が妊娠5ヶ月頃、里美も妊娠2ヶ月目であると診断された。これを聞き、少し残念そうな顔見せるも隆之を当分独占出来ると詩織は喜んでいたが、新たに救出された志津江らが妊活に参画した為、糠喜びに終わったらしい。

妊娠6ヶ月を過ぎ、安定期に入った春美がセックス解禁とばかりに挑んで来るが、普段冷静な春美も半年足らずの禁欲生活は辛かったようで狂ったように乱れまくり母体に負担を掛ける体位も厭わなかった事からお腹の子供を第一とするよう説得し、出産まで半禁欲生活を続けて貰うことにした。

妊娠8ヶ月となった春美のお腹ははち切れんばかりに大きくなっていた。銀座を代表するクラブママとしてスタイル維持に努力していた春美だが、さすがに妊娠8ヶ月となるとマシントレーニングやエステに通うわけにはいかず、自宅でゴロゴロするしか無い上に、妙に食欲があり、摂取カロリーが消費を大幅にオーバーした事で体型的に太り気味となっていた。
本人はこのまま元の体型に戻れなかったら、隆之に嫌われてしまうとかなり悩んでいるが、何事も現状維持だけでは満足しない春美が太ったまま放置するなどあり得ない。更に、春美の体型が崩れたくらいで絶対嫌ったりしないと確信している隆之からすれば、些細な事で悩む春美が新鮮で可愛かった。

出産予定日前日から隆之は春美のマンションに詰めている。昨晩も不安そうな春美が寝付くまでずっと手を握り話し掛けていた隆之は、春美のベッド横に簡易ベッドを置き、そこで寝ていた。
入院準備は昨日既に終え車に載せてある。退院後に必要となるベビーベッドなど、諸々の物は明日と明後日にマンションに届くので小百合が受け取ってくれる事になっている。里美の分も同日に発送となっているので、こちらは本人が受け取ってくれるはずである。
一方、妊娠8ヶ月目の里美は出産までゴロゴロ過ごすのは勿体無いと言って新規店舗や各種イベント企画などを考えているらしい。
取り敢えず忘れ物が無いかを再確認し、春美を病院に送り総合受付で入院手続きをしている途中で陣痛が始まり破水したので春美は分娩室へ連れて行かれた。
入院手続きを終えた隆之は、産婦人科受付の事務員に出産が始まったら携帯に連絡をくれるよう依頼し駐車場の車で仮眠を取っていた。数時間後、
「おめでとうございます。可愛い女の子のお孫さんですよ」
担当看護師から連絡が来た。現時点で隆之はお腹の父親だと明らかにしていなので、年齢的に私生児を妊娠した娘に付き添う父親と思われてしまったのだろう。
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