【完結】キャット・トリップ・ワールド シーズン2 宇宙旅行編

夜須 香夜(やす かや)

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11話 アカリ

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 ライブが始まる。
 ステージ袖から、歌手のアカリが登場した。見た事のある顔だった!灯子だ。
「灯子じゃない?」
 私は皐月に問いかけた。
「似てるけど、耳が……」
 アカリの頭にはお団子の髪が二つ乗っているだけで、耳はない。しっぽもない。でも、顔は灯子にそっくりだった。
「みんな!今日は来てくれてありがとう!」
「アカリちゃーん」
「サイコー!」
 観客はとても盛り上がっている。熱気がすごい。
「こんな大きなライブは初めてで緊張してるけど、みんなの応援に答えるために頑張るね!では、聞いてください。ミスティック」
 アカリを囲う、演奏者たちが曲を奏で始めた。アカリの歌が始まると、観客は黙って聞き始める。アカリの歌声は澄んでいて、美しかった。
 歌詞の内容は、神秘的で情景が思い浮かぶようだ。きれいな森、輝く海を感じる。海は今日初めて見たけれど、太陽の光に反射してきれいだった。
 歌と曲が終わり、アカリがお辞儀をすると、拍手が巻き起こった。私も感動して、拍手をした。
「みんな、ありが……きゃ!」
 その時、アカリを突風が襲った。
「アカリちゃん!」
「大変!」
 観客が心配そうな声を上げた。
 アカリの周りを大きな風が覆ったと思ったら、頭のお団子が解かれた。
 そこには、動物族の証である三角の耳があった。
「灯子だ……」
 私が呟いたと同時に観客たちがどよめいた。
「アカリちゃんが、動物族?」
「騙していたのか!」
「なんてやつだ!」
「なんで……」
 アカリ……いや、灯子の顔は青ざめている。
「これは、みんな、これは」
 灯子は何か弁明しようとしているが、みんなの耳には届いてないようだった。観客たちの一人が紙くずを灯子に投げつけた。
「嘘つき!」
 灯子に当たる。
 それを契機に、観客たちは持っている物を灯子に投げつけ始めた。
「騙したな!」
「許せない!」
「や、やめて、私は、みんなに聞いてほしくて」
「アカリ!こっちに来て!」
 事務所の社長にユキと呼ばれていた女性が灯子をステージのそでに引っ張っていく。
「ユキちゃん……私……」
 灯子はステージから消えていったのに、観客たちは投げるのをやめない。
「やめてよ!」
 私は叫んだが、周りには聞こえていない。
 なんで、こんなことに? 灯子が動物族だった事実を隠していただけなのに。
「やめて、なんで」
 観客たちは暴言を吐き、灯子に出てこいと叫ぶ。
「やめなさいよ!」
 私が再び叫ぶと、私から風が出たような気がした。すると、観客たちが一斉にこちらを見た。なんで? さっき叫んだ時は何もなかったのに?
「なんだ?」
「フードを被ってるぞ」
「仲間なんじゃないか?」
 皐月とアキラが私を囲うように立った。
「姉さん、なんでいつもこうなるのかな」
「何よ。これはチャンスよ」
 私は息を大きく吸い、話した。
「なんでアカリが動物族ってだけで、こんな事をするの?」
「俺たちを騙したからだ!」
「そうよ、そうよ」
「騙していた理由も聞かずに?」
 観客たちは黙った。
「みんな、アカリの歌が好きなんじゃないの? それはアカリが動物族なのと何か関係あるの?」
「あ、あるに決まってるだろ!俺たちは……俺たちは」
「動物族なんて汚らわしい」
「動物なんかの歌を聞いてたと思うと吐き気がする!」
 観客たちはまた罵声をあげる。
「じゃあ、あなたたちは、アカリがヒュー族だから歌を聞いていたの?」
「そ、そうだよ」
「当たり前じゃない。動物族だって知っていたら聞いていなかったわ」
「……アカリだからじゃないの? アカリの歌だから聞いていたんじゃないの?」
 観客たちはまた黙った。
 私は、初めて、こんなにたくさんの人の前で話している。でも、不思議と怖くはなかった。皐月たちがいるから? それとも、灯子のためだから?
「アカリが好きだから、アカリの歌が好きだから聞いていたんでしょ。それと、種族が何か関係あるの?」
 それを言うと、一人の男性が私の前に来た。
「俺は、アカリちゃんのファンクラブナンバーワンの男だ。俺はアカリちゃんも、アカリちゃんの歌も大好きだ。ずっと応援していた。でも、種族を偽っていたのはゆるせない。騙されたのが嫌だったんだ」
 それには私も反論できなかったが、アキラが口を開いた。
「あなたは、アカリが動物族だったら歌を聞いていたか? 聞かなかったんじゃないか? だから、アカリはヒュー族だと偽って歌っていたんじゃないのか。ここの人たちが、この街が、この国が種族差別をするから、アカリは自分が動物族だと言えなかったんじゃないか」
「それは……確かに、アカリちゃんが動物族だと知っていたら、俺はファンにはならなかったかもしれない」
 アキラはため息をついた。
「でも、もうファンなんだろ。それなら、何を躊躇う必要がある?」
「どういうことだ?」
「自分の好きな人が、罵声を浴びせられて、物を投げつけられて、黙ってる男がいるのか? 守ってやれるのはあなたたちだけじゃないのか? ファンなら、やる事は一つだろ」
 ファンクラブナンバーワンの男は黙って、頭を垂れた。
 他の人たちはどよめき出した。
「私はアカリちゃんの歌が好きよ」
「俺も」
「でも、騙してた」
「それは俺たちが悪いのか。仕方ないじゃないか。俺たちはそういう教育を受けてきた」
 観客たちは思い思いの言葉を周りの人と共有し始める。
「俺は!」
 ファンクラブナンバーワンの男が、叫んだ。
「俺はアカリちゃんの歌が、アカリちゃんが、大好きだ!だから、動物族なんて関係ない。関係ないんだ……ずっと応援したい。それでいいのか?」
「良いと思うぜ」
 アキラが答えた。
「それなら、する事は」
「一つだ!」
 男は、また叫ぼうとして大きく息を吸った。
「アカリちゃーん! 出てきてくれ! 俺が悪かった! アカリちゃんを信じれなかった俺を許してくれー!」
 男は観客たちを掻き分けて、ステージの前まで行った。
「アキラ、ありがとう」
「いや、俺は普通のことを言っただけだよ。あの人が決めたことだ」
 男に触発されたのか何人かの人が灯子に呼びかけた。灯子を、アカリを呼ぶ声を。
 そして、ステージのそでから、灯子が出てきた。耳を隠さず、灯子の姿のままで。ユキと社長も一緒にいる。
「あつしさん、みんな……いいの?」
 ファンクラブナンバーワンの男はあつしと呼ばれた。
「私はみんなを騙してた。自分が動物族だったら、みんなに歌を聞いてもらえないから」
「それは私が悪いんだ」
 社長が頭を下げた。
「私の方針だ。貧民街にいたアカリの歌に聞き惚れ、動物族では売れないと思い、ヒュー族として売り出したのは私だ。ファンのみんなには本当にすまないことをした。申し訳ありませんでした」
「ごめんなさい」
 灯子も頭を深く下げた。ユキも。
「いいんだ。もういいんだよ。アカリちゃん。俺たちは変わらず、君のファンだよ。俺こそごめん。アカリちゃんをすぐ守ってやれなくて」
 男は鼻をすすりながら言った。泣いている?
 灯子は顔上げて、にっこりと笑った。
「ありがとう。あつしさん。……私、歌ってもいいかな?」
「もちろんだよ!」
 ステージ前の人たちが歓声をあげる。
 観客の数十人は、それを嫌そうに見て離れていったり、罵声をあげるが、あつしや他の人が灯子を守るように立った。それを呆れたように見て、罵声を浴びせていた人たちも帰っていく。
「灯子、良かったね」
 私も、あつしにつられて、泣きそうになった。
 差別は変わらずあるけど、それをぬぐい去る人たちもいるんだと感動してしまった。
「残ってくれた人たち、みんな、ありがとう。もう時間がないから、最後の歌になるけど聞いてください」
 演奏者も何人かいなくなっているが、残った人たちが曲を奏で始めた。灯子の歌が広場を覆う。
 歌は一曲だけだったが、とても長い時間に感じた。灯子の歌は人を幸せにするものだ。残った観客たちもきっとそう思っている。
 歌は終わり、アカリは頭を深く下げてから、頭を上げ、泣きながら笑みを浮かべた。
「みんな、ありがとう。本当にありがとう!」
 灯子はステージを後にした。観客たちは、拍手を盛大にして、ライブは終わった。
 観客たちが引き始めた頃、私たちは帰ろうとした。すると、目の前に金髪の女性が手を広げ立ち塞がった。
「ちょっと待って。さすがね。イヴ」
 彼女は私をイヴと呼んだ。
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