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39.カメオ・ネックレス
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崚介を愛している。
妊娠してアメリカから逃げるように帰国して、五年。別れも言えなかった。言わなかった。娘を産んでからはとにかく毎日が必死で、娘が沙羅の世界の中心だった。崚介を思い出さない日も多かった。娘の成長を見ていられれば幸せだった。そうして崚介とのことはだんだん過去になっていった。
けれど成長するにつれ父親に似ていく娘に、懐かしさを覚えずにはいられなかった。育児に手がかからなくなっていくほど、彼を思い出した。忘れていたのではなく思い出す暇がなかっただけだった。
再会したとき、もう消えたと思っていた恋心がまだ胸にくすぶっていることを知った。それでも今の沙羅に怜以上に大切なものはない。怜を危険に晒すくらいならこのまま隠したままでいいと、もう二度と会えなくてもいいと思った。本心だったはずだ。それなのに。
五年以上の長きにわたり裏社会に潜入する忍耐力。悪に染まりもせず真摯に沙羅を守ろうとしてくれる正義感。傷ついた沙羅を慰めてくれた優しさも、ドーナツをほおばりながら見せた笑顔も。すべてが沙羅の胸を焦がす。
沙羅はカメオ・ネックレスに触れた。不安な時に触れていると指摘されたことも昨日のように思い出せる。これをつけてくれたとき、首筋に触れた唇の感触も。
「……ルイス。容疑者は誰だと思う?」
沙羅の言葉に、ルイスは迷わずその名を告げた。
「ジョン・パターソン」
沙羅も同じ考えだった。
思わず触れていたカメオを握りしめた。そのとき、鈍い音がしてチェーンが切れた。
「あっ」
「どうした?」
「チェーンが切れてしまった」
沙羅にとっては母の形見で、大事なものだ。崚介はそれを知って、大事に保管してくれていた。古い物だけれど、不吉の予兆のようで気を重くする。
ネックレスを確認していた沙羅は、もうひとつ良くないものを見つけてため息をついた。
「どうかした?」
「メッキが一部剥げてる。古いものだから仕方ないけれど」
このカメオは早坂晃が結婚するときにさおりに贈ったものだと聞いている。鑑定をしたことはないが、状況的にそう高額なものではないだろう。晃はさおりより二つ年下で、さおりの所属する大学研究室の後輩だった。学生時代からさおりの研究を手伝っていた晃は、大学院卒業と同時に結婚してさおりの渡米に随従したという。年齢的にも状況的にも、金銭に余裕はなかったはずだ。
「修理するのも、なんとなく両親の痕跡を消してしまうようでためらっていたんだ。劣化を防ぐには、もう身に着けない方がいいのかも……」
しれない、と続けるつもりだった言葉は、そこで消えた。剥げたメッキの内側が、きちんと金でコーティングされているのだ。これは普通なんだろうか。
沙羅ははっとしてマジックミラーに向かって声をかけた。
「カレン! いる? ウィルでもいい。ちょっと工具か何か貸して!」
返事はなかったが、いくらも経たずにカレンが姿をみせた。後ろからウィルも入ってくる。
「どうしたの」
「これ、ペンダントの縁。メッキが二重になってるみたい」
「本当だわ。ちょっと見せてくれる?」
沙羅はカレンにペンダントを渡した。
「思ったより軽いわ。これ、ロケットかもしれない。ごめんなさい、少し傷をつけても」
「構わない!」
食い気味で答えると、カレンは頷いて丁寧に外側のメッキをはがし始めた。劣化を心配していたが、今はそれどころではない。もし中に何かが隠されているなら重要なものに違いないのだから。
しばらくしてコーティングを剥がし終わった。カレンの言う通りロケットになっていて、カメオの蓋が開く。
「サラ!」
「カレン、これって」
「メモリーカードよ」
カメオの裏側から出てきたのは二枚のメモリーカードだった。小指の爪ほどの大きさのそれは、昔携帯電話のバックアップメモリーとしてよく使われていた。今ではクラウドサービスや携帯電話そのものの容量拡大により目にする機会は少ない。
「中身を確認できるか⁉」
「ちょっと待って。確か昔使われてたリーダーが私のオフィスにあったはず」
カレンがそう言うので、全員でカレンのオフィスへ移動した。
古いリーダーを探し出し、カレンが解析を始める。それを眺めながら、ウィルが懐かしそうに言った。
「このカード、当時は最新も最新だったんじゃないか」
「この製品が発売されたのは2005年だったはず。僕は使ったことないけど」
ルイスが世代を感じさせる発言をしたので、ウィルが複雑な表情をした。沙羅はそれよりも気づくことがあった。
「両親が亡くなった年だ」
「最新鋭の技術を使って、こんな風に隠して娘に持たせるだなんて。やっぱりご両親は身の危険を感じていたんじゃないか? だとしたら」
ウィルの言葉に沙羅は頷いた。これが手掛かりでないはずはない。
カードを解析していたカレンが、ほどなくして声を上げる。
「沙羅。こっちは映像が残ってる」
母の姿がモニターに映し出されている。沙羅は目を見開いた。
「もう一枚は英語の論文みたいだから、私は論文を確認するわ。映像は日本語のようだから、お願いできるかしら?」
カレンの言葉に、沙羅はぎこちなく頷いた。
2005年ごろ、カメラ付き携帯電話は一般的に普及していた。ただ現在ほどSNSが発達していなかったし、まだまだ記録媒体の容量の問題もあり、両親の映像や写真はほとんど残されていない。本人たちがそういうものに積極的でなかったというのもあるだろう。だからこれは生前以来初めて見る、生きた母の姿だった。
「サラ。日本語がわかる者を探してこようか」
なかなか再生ボタンを押せない沙羅に、ウィルが声をかける。
「いや、観るよ。なにか手掛かりが残されているかもしれない」
震える指で再生ボタンを押した。荒い画像の中で、母さおりが話し出す。
『沙羅。お前がこの映像を見ているとき、私は死んでしまったんだろうね。できれば晃が君の隣で笑っていることを祈るよ』
落ち付いた声音で紡がれた日本語。男勝りの口調に、薄れていた記憶が引き戻される。
ああそうだ。沙羅の口調は茂に似たのだと思っていたが、元々さおりもこういう口調だった。そんなどうでもいいことを思い出して、少し笑えた。
沙羅がそれを観終わった頃、カレンが興奮気味に解析した証拠をモニターに映し出した。
「ウィル、マイク。もう一枚のカードから証拠が見つかったわ。ジョン・パターソンがレヴィアタンよ!」
「証拠って一体」
「レヴィアタンは二十年前、ナーヴェ幹部を全員毒殺して唯一のボスになった。その指示書と、――アズモスの管理表よ」
「管理表って、じゃあまさか」
「ええ。毒殺には未完成なアズモス――アスモデウスが使われたんだわ。サオリは薬が盗まれたことに気づき、研究所から、ジョンから逃げようとしたのよ。だから殺されたんだわ」
そこからは早かった。裁判所に令状を取り、研究所とジョン・パターソンの自宅の家宅捜索の準備が進められた。
だが崚介の手がかりが得られないことが沙羅を焦らせた。それにジョンの犯罪の証拠は、崚介の潔白を証明するに至っていない。マイクが言うように人質にされるのだとしたら、なんの取引も持ち掛けられていないことが気にかかる。
それに。
「ジョン・パターソンの所在が掴めない」
ウィルが忌々しげに吐き捨てた。崚介が失踪してもうすぐ二日だ。誘拐から七十二時間を超えると、被害者の生存率がぐんと下がる。
「私が囮になる」
沙羅は迷わず告げた。
「馬鹿を言うな。俺たちには君を守る義務がある。崚介のためにも」
やはりウィルは本気で崚介を疑っていたわけではないのだ。
「私はそのためにこの国に来た。今は怖気づくときではないよ」
「しかし……」
ウィルの言葉は続かなかった。沙羅を止めたいが、他に有効な方法も思いつかないようだ。
沙羅は反論が止まったのをいいことに話を進めた。
「ジョンに面会を申し込むのはどうだ」
「なに言ってるの、サラ」
「母の研究資料を探していたのは、元々組織に対する取引のカードになるからだった。母の遺品を見つけたから解析してほしいと持ち掛けるんだ。ジョンが直接現れる可能性は高いと思う。それに私はFBIじゃない。警戒されにくいはずだ」
「君がFBIの捜査官と一緒にいたことはばれているんだぞ」
「だとしても私自身が取引材料になり得る。ジョンは無視できないし、簡単には殺せない」
ウィルはしぶしぶそれを了承した。崚介の安全を優先した結果だろう。今の沙羅は一般人だが、それでもDEAの元捜査官だ。その経歴から銃の所持と研究所への潜入を許された。
妊娠してアメリカから逃げるように帰国して、五年。別れも言えなかった。言わなかった。娘を産んでからはとにかく毎日が必死で、娘が沙羅の世界の中心だった。崚介を思い出さない日も多かった。娘の成長を見ていられれば幸せだった。そうして崚介とのことはだんだん過去になっていった。
けれど成長するにつれ父親に似ていく娘に、懐かしさを覚えずにはいられなかった。育児に手がかからなくなっていくほど、彼を思い出した。忘れていたのではなく思い出す暇がなかっただけだった。
再会したとき、もう消えたと思っていた恋心がまだ胸にくすぶっていることを知った。それでも今の沙羅に怜以上に大切なものはない。怜を危険に晒すくらいならこのまま隠したままでいいと、もう二度と会えなくてもいいと思った。本心だったはずだ。それなのに。
五年以上の長きにわたり裏社会に潜入する忍耐力。悪に染まりもせず真摯に沙羅を守ろうとしてくれる正義感。傷ついた沙羅を慰めてくれた優しさも、ドーナツをほおばりながら見せた笑顔も。すべてが沙羅の胸を焦がす。
沙羅はカメオ・ネックレスに触れた。不安な時に触れていると指摘されたことも昨日のように思い出せる。これをつけてくれたとき、首筋に触れた唇の感触も。
「……ルイス。容疑者は誰だと思う?」
沙羅の言葉に、ルイスは迷わずその名を告げた。
「ジョン・パターソン」
沙羅も同じ考えだった。
思わず触れていたカメオを握りしめた。そのとき、鈍い音がしてチェーンが切れた。
「あっ」
「どうした?」
「チェーンが切れてしまった」
沙羅にとっては母の形見で、大事なものだ。崚介はそれを知って、大事に保管してくれていた。古い物だけれど、不吉の予兆のようで気を重くする。
ネックレスを確認していた沙羅は、もうひとつ良くないものを見つけてため息をついた。
「どうかした?」
「メッキが一部剥げてる。古いものだから仕方ないけれど」
このカメオは早坂晃が結婚するときにさおりに贈ったものだと聞いている。鑑定をしたことはないが、状況的にそう高額なものではないだろう。晃はさおりより二つ年下で、さおりの所属する大学研究室の後輩だった。学生時代からさおりの研究を手伝っていた晃は、大学院卒業と同時に結婚してさおりの渡米に随従したという。年齢的にも状況的にも、金銭に余裕はなかったはずだ。
「修理するのも、なんとなく両親の痕跡を消してしまうようでためらっていたんだ。劣化を防ぐには、もう身に着けない方がいいのかも……」
しれない、と続けるつもりだった言葉は、そこで消えた。剥げたメッキの内側が、きちんと金でコーティングされているのだ。これは普通なんだろうか。
沙羅ははっとしてマジックミラーに向かって声をかけた。
「カレン! いる? ウィルでもいい。ちょっと工具か何か貸して!」
返事はなかったが、いくらも経たずにカレンが姿をみせた。後ろからウィルも入ってくる。
「どうしたの」
「これ、ペンダントの縁。メッキが二重になってるみたい」
「本当だわ。ちょっと見せてくれる?」
沙羅はカレンにペンダントを渡した。
「思ったより軽いわ。これ、ロケットかもしれない。ごめんなさい、少し傷をつけても」
「構わない!」
食い気味で答えると、カレンは頷いて丁寧に外側のメッキをはがし始めた。劣化を心配していたが、今はそれどころではない。もし中に何かが隠されているなら重要なものに違いないのだから。
しばらくしてコーティングを剥がし終わった。カレンの言う通りロケットになっていて、カメオの蓋が開く。
「サラ!」
「カレン、これって」
「メモリーカードよ」
カメオの裏側から出てきたのは二枚のメモリーカードだった。小指の爪ほどの大きさのそれは、昔携帯電話のバックアップメモリーとしてよく使われていた。今ではクラウドサービスや携帯電話そのものの容量拡大により目にする機会は少ない。
「中身を確認できるか⁉」
「ちょっと待って。確か昔使われてたリーダーが私のオフィスにあったはず」
カレンがそう言うので、全員でカレンのオフィスへ移動した。
古いリーダーを探し出し、カレンが解析を始める。それを眺めながら、ウィルが懐かしそうに言った。
「このカード、当時は最新も最新だったんじゃないか」
「この製品が発売されたのは2005年だったはず。僕は使ったことないけど」
ルイスが世代を感じさせる発言をしたので、ウィルが複雑な表情をした。沙羅はそれよりも気づくことがあった。
「両親が亡くなった年だ」
「最新鋭の技術を使って、こんな風に隠して娘に持たせるだなんて。やっぱりご両親は身の危険を感じていたんじゃないか? だとしたら」
ウィルの言葉に沙羅は頷いた。これが手掛かりでないはずはない。
カードを解析していたカレンが、ほどなくして声を上げる。
「沙羅。こっちは映像が残ってる」
母の姿がモニターに映し出されている。沙羅は目を見開いた。
「もう一枚は英語の論文みたいだから、私は論文を確認するわ。映像は日本語のようだから、お願いできるかしら?」
カレンの言葉に、沙羅はぎこちなく頷いた。
2005年ごろ、カメラ付き携帯電話は一般的に普及していた。ただ現在ほどSNSが発達していなかったし、まだまだ記録媒体の容量の問題もあり、両親の映像や写真はほとんど残されていない。本人たちがそういうものに積極的でなかったというのもあるだろう。だからこれは生前以来初めて見る、生きた母の姿だった。
「サラ。日本語がわかる者を探してこようか」
なかなか再生ボタンを押せない沙羅に、ウィルが声をかける。
「いや、観るよ。なにか手掛かりが残されているかもしれない」
震える指で再生ボタンを押した。荒い画像の中で、母さおりが話し出す。
『沙羅。お前がこの映像を見ているとき、私は死んでしまったんだろうね。できれば晃が君の隣で笑っていることを祈るよ』
落ち付いた声音で紡がれた日本語。男勝りの口調に、薄れていた記憶が引き戻される。
ああそうだ。沙羅の口調は茂に似たのだと思っていたが、元々さおりもこういう口調だった。そんなどうでもいいことを思い出して、少し笑えた。
沙羅がそれを観終わった頃、カレンが興奮気味に解析した証拠をモニターに映し出した。
「ウィル、マイク。もう一枚のカードから証拠が見つかったわ。ジョン・パターソンがレヴィアタンよ!」
「証拠って一体」
「レヴィアタンは二十年前、ナーヴェ幹部を全員毒殺して唯一のボスになった。その指示書と、――アズモスの管理表よ」
「管理表って、じゃあまさか」
「ええ。毒殺には未完成なアズモス――アスモデウスが使われたんだわ。サオリは薬が盗まれたことに気づき、研究所から、ジョンから逃げようとしたのよ。だから殺されたんだわ」
そこからは早かった。裁判所に令状を取り、研究所とジョン・パターソンの自宅の家宅捜索の準備が進められた。
だが崚介の手がかりが得られないことが沙羅を焦らせた。それにジョンの犯罪の証拠は、崚介の潔白を証明するに至っていない。マイクが言うように人質にされるのだとしたら、なんの取引も持ち掛けられていないことが気にかかる。
それに。
「ジョン・パターソンの所在が掴めない」
ウィルが忌々しげに吐き捨てた。崚介が失踪してもうすぐ二日だ。誘拐から七十二時間を超えると、被害者の生存率がぐんと下がる。
「私が囮になる」
沙羅は迷わず告げた。
「馬鹿を言うな。俺たちには君を守る義務がある。崚介のためにも」
やはりウィルは本気で崚介を疑っていたわけではないのだ。
「私はそのためにこの国に来た。今は怖気づくときではないよ」
「しかし……」
ウィルの言葉は続かなかった。沙羅を止めたいが、他に有効な方法も思いつかないようだ。
沙羅は反論が止まったのをいいことに話を進めた。
「ジョンに面会を申し込むのはどうだ」
「なに言ってるの、サラ」
「母の研究資料を探していたのは、元々組織に対する取引のカードになるからだった。母の遺品を見つけたから解析してほしいと持ち掛けるんだ。ジョンが直接現れる可能性は高いと思う。それに私はFBIじゃない。警戒されにくいはずだ」
「君がFBIの捜査官と一緒にいたことはばれているんだぞ」
「だとしても私自身が取引材料になり得る。ジョンは無視できないし、簡単には殺せない」
ウィルはしぶしぶそれを了承した。崚介の安全を優先した結果だろう。今の沙羅は一般人だが、それでもDEAの元捜査官だ。その経歴から銃の所持と研究所への潜入を許された。
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