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7.囚われの身
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その後予想に反して、沙羅はラボへ移送されなかった。拠点の独房に監禁されている。手錠をはめられたが、室内ならば動き回れる程度に長い鎖で繋がれた。食事も不便だができなくはない。
沙羅はザックの命令通り、八時間おきにアスモデウスを飲まされた。想像通りとはいえ、やはり効かなかったことには安心した。いくら耐性があるといっても、連続して与えられるとどうなるかわからなかったからだ。だがこの様子なら、ジャンキーになる危険は限りなく薄いだろう。
症状が出ている偽装は必要だった。部屋の前に監視は常にいたし、どこにあるかわかりにくくされているがカメラもある。我慢しきれずに自慰をする演技を何度か繰り返した。
元DEA捜査官として、ジャンキーになる過程は熟知している。規則的にならないように気をつけて演技をした。
あれから五日ほど経っただろうか。沙羅はすることがないまま放置された。ドラッグを拒んでいたため強引に飲ませるものが入室してきたが、性的な意味では誰も沙羅に触れない。独房の小窓から見張り以外に、時折研究者らしき人間に観察されていることもあったが、それだけだ。
言葉通りなら沙羅が男を求め屈服するのと待っているはずだ。そうなったとき、どういう扱いを受けるのだろう。ただ犯されて殺されるだけなのだとしたら意味がない。せめてラボに移送されれば少しはFBIに有利な情報になる。
今のままでは状況に変化がなさすぎるし、アスモデウスという強力なドラッグに対して耐性がありすぎることが知れてしまう。沙羅は行動に出ることにした。
時間になり、独房に入ってきた見張りの手にはトレイがあった。食事と、水と、そしてアスモデウスの錠剤。トレイのドラッグを凝視する。もう欲しくてたまらないのに、なんでもないふりを装う。
トレイを置いて見張りが退出するのはいつものことだ。そして小窓のついた扉の向こうから、沙羅の様子を伺う。沙羅はいつものように食事だけとり、食べ終わった後はトレイに背を向けて粗末なベッドに横たわった。
少しして見張りが室内に入ってくるのもいつものこと。粗野な男はトレイの錠剤を掴み、乱暴に沙羅の肩を掴むと強引に振り向かせた。ベッドに組み敷き、口に錠剤を押し込む。嗜虐心を煽られたように、男はその顔に愉悦を浮かべている。沙羅は男の目を見据えたまま、口に押し込まれたその指を舐めた。
男の顔色が変わる。指が離れると同時に熱を帯びた吐息を漏らすと、男の目に欲情が映った。これまで抵抗ばかりしていたけれど、ベッドに体を預けて脱力する。そのまま足を投げ出すふりをして太ももを男の足に擦り付けた。
男は誘惑に乗ってきた。シャツ越しに沙羅の胸を鷲掴みにする。
「あんっ」
痛みと不快感で飛び出しそうな拒絶の言葉を、大袈裟な喘ぎ声で封じる。それを聞いた男は口の端を吊り上げ、沙羅のブラウスに手をかけた。背筋に走る悪寒。嫌悪感を無視するように目を閉じると、瞼の裏によぎる顔があった。
未練がましい己の弱さに嫌気が差す。これは沙羅が自分で選んだこと。嫌悪感を封じることは容易にはできない。ならばせめて、自分の選択から目をそむけたくない。
そう決意して目を開けた時だった。
「……待て」
冷静沈着な声が場に割り込む。声がした方を見ると、眼鏡をかけた白衣の男性が戸口に立っていた。背はさほど高くない。男性にしては華奢でいかにも研究者といった風貌だった。ミルクティーベージュの髪は綺麗な色なのに、セットされておらず全体的に野暮ったい印象を受ける。よく見ると白衣もしわだらけだ。
「邪魔すんじゃねえ! インテリ野郎が」
見張りの男の恫喝に動じず、その研究者は眼鏡を左の中指で押し上げた。
「あんたのために言ってるんだよ。その女にザックより先に手を出したとなれば、殺されかねない」
「そんなこと言って、羨ましいだけだろ」
「僕は研究ができればそれでいい。でもあんたが彼女に手を出して、貴重な研究対象が処分されるのは困る」
「てめぇが黙ってればバレねぇだろ。いいからヤらせろ! ……ああ、それとも混ざりてえのか? なら最初からそう言えよ」
「僕は生身の女に興味はない」
いっそすがすがしいほどに言い切った研究者に、見張りの男が大きく舌打ちする。
「ちっ、変態が」
「僕は彼女が男を求め始めたら報告するように言われる。正確なデータのためにも、カルテは正しく書くよ。そうすればザックは遠からずここへ来るだろうね。目ざとい彼のことだ。すぐに気づくよ。彼女の体に残る男の痕跡に」
負けを悟ったのか、見張りの男がまた舌打ちをして沙羅から離れた。研究者にわざと肩をぶつけて部屋を出ていく。
研究者もちらと沙羅に視線をやると、なんの感慨もないように背を向けて部屋を出ていった。
犯されずに済んだことに少しほっとしながら、沙羅は計画が進んだことを悟った。遠からず、ザックはここへ来るだろう。沙羅を犯すために。
沙羅はザックの命令通り、八時間おきにアスモデウスを飲まされた。想像通りとはいえ、やはり効かなかったことには安心した。いくら耐性があるといっても、連続して与えられるとどうなるかわからなかったからだ。だがこの様子なら、ジャンキーになる危険は限りなく薄いだろう。
症状が出ている偽装は必要だった。部屋の前に監視は常にいたし、どこにあるかわかりにくくされているがカメラもある。我慢しきれずに自慰をする演技を何度か繰り返した。
元DEA捜査官として、ジャンキーになる過程は熟知している。規則的にならないように気をつけて演技をした。
あれから五日ほど経っただろうか。沙羅はすることがないまま放置された。ドラッグを拒んでいたため強引に飲ませるものが入室してきたが、性的な意味では誰も沙羅に触れない。独房の小窓から見張り以外に、時折研究者らしき人間に観察されていることもあったが、それだけだ。
言葉通りなら沙羅が男を求め屈服するのと待っているはずだ。そうなったとき、どういう扱いを受けるのだろう。ただ犯されて殺されるだけなのだとしたら意味がない。せめてラボに移送されれば少しはFBIに有利な情報になる。
今のままでは状況に変化がなさすぎるし、アスモデウスという強力なドラッグに対して耐性がありすぎることが知れてしまう。沙羅は行動に出ることにした。
時間になり、独房に入ってきた見張りの手にはトレイがあった。食事と、水と、そしてアスモデウスの錠剤。トレイのドラッグを凝視する。もう欲しくてたまらないのに、なんでもないふりを装う。
トレイを置いて見張りが退出するのはいつものことだ。そして小窓のついた扉の向こうから、沙羅の様子を伺う。沙羅はいつものように食事だけとり、食べ終わった後はトレイに背を向けて粗末なベッドに横たわった。
少しして見張りが室内に入ってくるのもいつものこと。粗野な男はトレイの錠剤を掴み、乱暴に沙羅の肩を掴むと強引に振り向かせた。ベッドに組み敷き、口に錠剤を押し込む。嗜虐心を煽られたように、男はその顔に愉悦を浮かべている。沙羅は男の目を見据えたまま、口に押し込まれたその指を舐めた。
男の顔色が変わる。指が離れると同時に熱を帯びた吐息を漏らすと、男の目に欲情が映った。これまで抵抗ばかりしていたけれど、ベッドに体を預けて脱力する。そのまま足を投げ出すふりをして太ももを男の足に擦り付けた。
男は誘惑に乗ってきた。シャツ越しに沙羅の胸を鷲掴みにする。
「あんっ」
痛みと不快感で飛び出しそうな拒絶の言葉を、大袈裟な喘ぎ声で封じる。それを聞いた男は口の端を吊り上げ、沙羅のブラウスに手をかけた。背筋に走る悪寒。嫌悪感を無視するように目を閉じると、瞼の裏によぎる顔があった。
未練がましい己の弱さに嫌気が差す。これは沙羅が自分で選んだこと。嫌悪感を封じることは容易にはできない。ならばせめて、自分の選択から目をそむけたくない。
そう決意して目を開けた時だった。
「……待て」
冷静沈着な声が場に割り込む。声がした方を見ると、眼鏡をかけた白衣の男性が戸口に立っていた。背はさほど高くない。男性にしては華奢でいかにも研究者といった風貌だった。ミルクティーベージュの髪は綺麗な色なのに、セットされておらず全体的に野暮ったい印象を受ける。よく見ると白衣もしわだらけだ。
「邪魔すんじゃねえ! インテリ野郎が」
見張りの男の恫喝に動じず、その研究者は眼鏡を左の中指で押し上げた。
「あんたのために言ってるんだよ。その女にザックより先に手を出したとなれば、殺されかねない」
「そんなこと言って、羨ましいだけだろ」
「僕は研究ができればそれでいい。でもあんたが彼女に手を出して、貴重な研究対象が処分されるのは困る」
「てめぇが黙ってればバレねぇだろ。いいからヤらせろ! ……ああ、それとも混ざりてえのか? なら最初からそう言えよ」
「僕は生身の女に興味はない」
いっそすがすがしいほどに言い切った研究者に、見張りの男が大きく舌打ちする。
「ちっ、変態が」
「僕は彼女が男を求め始めたら報告するように言われる。正確なデータのためにも、カルテは正しく書くよ。そうすればザックは遠からずここへ来るだろうね。目ざとい彼のことだ。すぐに気づくよ。彼女の体に残る男の痕跡に」
負けを悟ったのか、見張りの男がまた舌打ちをして沙羅から離れた。研究者にわざと肩をぶつけて部屋を出ていく。
研究者もちらと沙羅に視線をやると、なんの感慨もないように背を向けて部屋を出ていった。
犯されずに済んだことに少しほっとしながら、沙羅は計画が進んだことを悟った。遠からず、ザックはここへ来るだろう。沙羅を犯すために。
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