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15.男の嫉妬
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ベッドに横たわると馴染みのない、けれど柔らかな香りが鼻腔をくすぐった。それが沙羅の香りだと気づくまでにそうはかからない。毎晩このベッドで眠っていたのだと実感し落ち着かなくなる。崚介は寝返りを打った。
初めて沙羅――シズカに会ったとき、裏社会に似つかわしくない女性だと思った。
「Hey! チャイニーズだろ?」
下卑た構成員の男二人が、女性に絡む場面に遭遇した。体格のいい男二人に阻まれて、女性の姿はよく見えない。かろうじて男の肩越しに黒髪が見えた。
やれやれと足を向けると、はっきりとした「No」が聞こえて開きかけた口を閉じた。
「私は日本人だ」
落ち付いた声音、凛としたたたずまい。胸まで伸ばした、シルクのように艶やかな黒髪。アメリカ人女性と比較するとどうしても細身に見えるが、姿勢がいいためか出るところはきちんと主張していて、男を誘う色香があった。男たちが彼女に引き寄せられたのも無理からぬことだろう。
とはいえ崚介の目に、彼女は高貴さを持っているように映った。裏稼業の人間らしくない気品を漂わせていて、安易に触れられない雰囲気がある。
男たちは彼女をからかいながら、どうにかしてベッドに引きずり込めないかと画策している。にやにやと鼻の下を伸ばす構成員に嫌悪感を覚えた。この二人はドラッグを使って女性に乱暴した前科がある。
崚介は嫌悪感を笑顔で隠し、親し気に話しかけた。
「おい、その辺にしといてやれ。彼女は新人だろう?」
「ようリック、あんたか」
崚介はこの世界でリチャードと名乗っている。リックは愛称だ。崚介は二人に言った。
「いつものダイナーにジェシカがいたぜ。今日は暇そうだった」
「マジか。おい、行こうぜ」
女への興味はほかの女で逸らす。
男二人がいそいそと出ていくのを見送ると、彼女が話しかけてきた。
「ジェシカというのは?」
それは流暢なアメリカ英語だった。日系人なのか、在米期間が長いのか。
「このビルの向かいにあるダイナーのウェイトレスだよ。夜は娼婦をしてて、あいつらのお気に入りってわけさ」
そもそもダイナーの裏の顔が、娼婦の斡旋業だ。そしてセックスとドラッグは切っても切り離せない。組織の顧客のひとつという訳である。
「なるほど」
そのあたりを察しているのかいないのか、彼女はあっさりと頷いた。
手を差し出して名乗る。
「リチャード。『商品』のブローカーだ。一応外の人間なんだが、出向ってやつかな。まあほとんどナーヴェにいる。ここは俺の一番のお得意サマってわけだ。『今後ともご贔屓に』」
最後だけ日本語で言うと彼女は少しだけ驚いたように瞬いて、握手に応じた。
「『こちらこそ』。日本語が上手いな」
日本語は複雑で、同じ意味でも表現がいくつもある。特に敬語は外国人が苦労するひとつだ。敬語の言い回しが聞き取れているということは、他のアジア人による身分偽装の線はなさそうだ。
身分を隠すため、出身を敢えて偽装する者がいる。特に日本人は経済力や勤勉さに対しての信頼感があるためか、アジア人から偽装に選ばれやすい。
潜入捜査官の崚介にとって何が有利な情報に繋がるかわからない。こうして会話の中で相手の素性の手がかりを探すのはもはや癖になっていた。
「俺は日系人なんだよ。祖父母は日本語を使っていたから、簡単な日常会話はできるぜ」
「いや十分だよ。驚いたな」
「君は日本人なんだろ? さっき聞こえた」
「シズカ・キサラギだ。会えて嬉しいよ」
「どうしてナーヴェに?」
「なぜそんなことを聞く?」
「いや、君はあまりこういうところが似合わないなと思ってね」
「金のためだよ。不法滞在者だから、カードも作れやしない」
「不法滞在とは穏やかじゃないな」
「ここはそういう人間の集まりだろう?」
「違いない」
崚介は煙草を咥えながら笑った。火をつけ終えると、ふーっと煙を吐き出す。
彼女の言う通り、過去に後ろ暗いことしかない人間の集まりだ。不法滞在くらい可愛いもの。ほかの構成員なら気にもしない。これ以上突っ込んで聞くのも不自然かと、話題を変える。
「ナーヴェの人間とはいえ、この辺りを女一人で歩くのは感心しない。拠点の中でもな。ジャンキーも多いし、油断すればあっという間に連れ込まれるぞ」
「じゃあ、あなたとこうして二人きりでいるのは危険なのかな」
真面目な顔をしてシズカが言う。
一瞬虚を突かれて反応が遅れると、シズカがふっと口元を緩ませた。
からかわれたのだと気づいて、なんだか面白くない。日本人は若く見えるがそれを加味して考えても、おそらくシズカは年下だ。そんな彼女に上手いように転がされたままでは終われない。
踵を返そうとしたシズカの腕を掴み振り返らせると、壁に手をついて追い詰める。大きな黒目がまっすぐに崚介を見た。咥えていた煙草を手に持ち替えて、唇を寄せる。彼女の足の間に膝を割り込ませて逃げられないようにすると、まるでキスするかのように顔を傾けた。
崚介はシズカの様子を伺っていたが、多少緊張は見せてもうろたえる様子もない。まっすぐに崚介を見据え、相手がどう動くかを伺っている。随分度胸が据わった女性のようだ。
崚介はキスする代わりにふっと息を彼女の唇に吹きかけた。薄く開いた唇に煙が入り込む。
「……危険な男の方がお好みか?」
低く囁くようにいうと、彼女が観念したというように両手を上げた。
「やめておくよ。忠告どうもありがとう」
「分かればよろしい」
それで戯れは終わりだった。崚介は体を離し、煙草を咥え直す。そのまま別れるかと思ったが、彼女は意外な提案をしてきた。
「この辺りで美味い店を知らないか? 向かいのダイナー以外で」
「いいぜ。日本食の店はこの辺りにはないが、うまいバーガーの店がある」
相棒というほどでもないけれど、それから何かにつけて一緒に行動することが増えた。日本人と日系人。ともにいるのは自然だったようで、疑問に持つ者はいなかった。シズカとしても崚介が忠告するまでもなく、安全に過ごすための仲間を探していたのかもしれない。ほかの人間と行動しているところも見かけたが、穏健派ばかりでそれぞれいい人選だった。
シズカは留学中に友人に連れられてドラッグパーティに参加し、逮捕されたと話した。自身は使用していなかったが退学になり、親にも勘当されてそのままアメリカに不法滞在することになったという。
今はその経歴は嘘だったとわかるが、シズカからはなんとも言い難い哀愁のようなものを感じることがあった。彼女はとても日本人然としていて祖国を愛してもいるようなのに、何故だか日本を遠ざけていたからだ。
それは両親を亡くし、親戚の家で育った複雑な家庭環境がそうさせていたのかもしれない。経歴は嘘でも彼女が時折見せる寂しそうな横顔は、彼女の――沙羅のものだった。
そんな彼女を、いつしか抱きしめたいと思うようになっていた。
五年後に再会した彼女は以前にも増して気高く美しく、強く、そして脆く見えた。それは娘という宝物を手に入れたからこそ。それを与えた娘とその父親に、子どもじみた嫉妬を覚えた。
この五年男とベッドをともにしていないと打ち明けた彼女を抱きしめた。キスをしたいと、あの白い肌を暴きたいと思った。あのまま電話が鳴らなかったら、彼女も受け入れてくれたんじゃないか――。
ベッドの残り香が、崚介の欲望のドアをノックする。抱きしめた体の柔らかさを思い出しながら、崚介は股間に手を伸ばした。
ザックに触れられたことに傷つく沙羅が弱さを見せてくれたのは、崚介を信頼しているからだ。それなのに彼女を欲望の対象にして己を慰めることに罪悪感が込み上げてくる。そんな背徳感すら性欲を刺激して興奮を誘った。
このベッドで彼女はどんな風に眠っていたのだろう。崚介に抱かれたらどんな顔をするのだろう。感じる場所を探して、どろどろに甘やかして、崚介から離れられないようにしてしまいたい。彼女の中に出して、自分の色に染めてやりたい。ほかの男が手出しできないように。
「……っ」
ペニスから欲望を吐き出すと、冷静さが戻ってくる。己のあさましい欲望に嘲笑が漏れた。
――愛していたよ。彼のこと。
沙羅の言葉が、迷いのない視線が蘇る。罪悪感とともに湧き上がる黒い感情。
これは、嫉妬だ。
初めて沙羅――シズカに会ったとき、裏社会に似つかわしくない女性だと思った。
「Hey! チャイニーズだろ?」
下卑た構成員の男二人が、女性に絡む場面に遭遇した。体格のいい男二人に阻まれて、女性の姿はよく見えない。かろうじて男の肩越しに黒髪が見えた。
やれやれと足を向けると、はっきりとした「No」が聞こえて開きかけた口を閉じた。
「私は日本人だ」
落ち付いた声音、凛としたたたずまい。胸まで伸ばした、シルクのように艶やかな黒髪。アメリカ人女性と比較するとどうしても細身に見えるが、姿勢がいいためか出るところはきちんと主張していて、男を誘う色香があった。男たちが彼女に引き寄せられたのも無理からぬことだろう。
とはいえ崚介の目に、彼女は高貴さを持っているように映った。裏稼業の人間らしくない気品を漂わせていて、安易に触れられない雰囲気がある。
男たちは彼女をからかいながら、どうにかしてベッドに引きずり込めないかと画策している。にやにやと鼻の下を伸ばす構成員に嫌悪感を覚えた。この二人はドラッグを使って女性に乱暴した前科がある。
崚介は嫌悪感を笑顔で隠し、親し気に話しかけた。
「おい、その辺にしといてやれ。彼女は新人だろう?」
「ようリック、あんたか」
崚介はこの世界でリチャードと名乗っている。リックは愛称だ。崚介は二人に言った。
「いつものダイナーにジェシカがいたぜ。今日は暇そうだった」
「マジか。おい、行こうぜ」
女への興味はほかの女で逸らす。
男二人がいそいそと出ていくのを見送ると、彼女が話しかけてきた。
「ジェシカというのは?」
それは流暢なアメリカ英語だった。日系人なのか、在米期間が長いのか。
「このビルの向かいにあるダイナーのウェイトレスだよ。夜は娼婦をしてて、あいつらのお気に入りってわけさ」
そもそもダイナーの裏の顔が、娼婦の斡旋業だ。そしてセックスとドラッグは切っても切り離せない。組織の顧客のひとつという訳である。
「なるほど」
そのあたりを察しているのかいないのか、彼女はあっさりと頷いた。
手を差し出して名乗る。
「リチャード。『商品』のブローカーだ。一応外の人間なんだが、出向ってやつかな。まあほとんどナーヴェにいる。ここは俺の一番のお得意サマってわけだ。『今後ともご贔屓に』」
最後だけ日本語で言うと彼女は少しだけ驚いたように瞬いて、握手に応じた。
「『こちらこそ』。日本語が上手いな」
日本語は複雑で、同じ意味でも表現がいくつもある。特に敬語は外国人が苦労するひとつだ。敬語の言い回しが聞き取れているということは、他のアジア人による身分偽装の線はなさそうだ。
身分を隠すため、出身を敢えて偽装する者がいる。特に日本人は経済力や勤勉さに対しての信頼感があるためか、アジア人から偽装に選ばれやすい。
潜入捜査官の崚介にとって何が有利な情報に繋がるかわからない。こうして会話の中で相手の素性の手がかりを探すのはもはや癖になっていた。
「俺は日系人なんだよ。祖父母は日本語を使っていたから、簡単な日常会話はできるぜ」
「いや十分だよ。驚いたな」
「君は日本人なんだろ? さっき聞こえた」
「シズカ・キサラギだ。会えて嬉しいよ」
「どうしてナーヴェに?」
「なぜそんなことを聞く?」
「いや、君はあまりこういうところが似合わないなと思ってね」
「金のためだよ。不法滞在者だから、カードも作れやしない」
「不法滞在とは穏やかじゃないな」
「ここはそういう人間の集まりだろう?」
「違いない」
崚介は煙草を咥えながら笑った。火をつけ終えると、ふーっと煙を吐き出す。
彼女の言う通り、過去に後ろ暗いことしかない人間の集まりだ。不法滞在くらい可愛いもの。ほかの構成員なら気にもしない。これ以上突っ込んで聞くのも不自然かと、話題を変える。
「ナーヴェの人間とはいえ、この辺りを女一人で歩くのは感心しない。拠点の中でもな。ジャンキーも多いし、油断すればあっという間に連れ込まれるぞ」
「じゃあ、あなたとこうして二人きりでいるのは危険なのかな」
真面目な顔をしてシズカが言う。
一瞬虚を突かれて反応が遅れると、シズカがふっと口元を緩ませた。
からかわれたのだと気づいて、なんだか面白くない。日本人は若く見えるがそれを加味して考えても、おそらくシズカは年下だ。そんな彼女に上手いように転がされたままでは終われない。
踵を返そうとしたシズカの腕を掴み振り返らせると、壁に手をついて追い詰める。大きな黒目がまっすぐに崚介を見た。咥えていた煙草を手に持ち替えて、唇を寄せる。彼女の足の間に膝を割り込ませて逃げられないようにすると、まるでキスするかのように顔を傾けた。
崚介はシズカの様子を伺っていたが、多少緊張は見せてもうろたえる様子もない。まっすぐに崚介を見据え、相手がどう動くかを伺っている。随分度胸が据わった女性のようだ。
崚介はキスする代わりにふっと息を彼女の唇に吹きかけた。薄く開いた唇に煙が入り込む。
「……危険な男の方がお好みか?」
低く囁くようにいうと、彼女が観念したというように両手を上げた。
「やめておくよ。忠告どうもありがとう」
「分かればよろしい」
それで戯れは終わりだった。崚介は体を離し、煙草を咥え直す。そのまま別れるかと思ったが、彼女は意外な提案をしてきた。
「この辺りで美味い店を知らないか? 向かいのダイナー以外で」
「いいぜ。日本食の店はこの辺りにはないが、うまいバーガーの店がある」
相棒というほどでもないけれど、それから何かにつけて一緒に行動することが増えた。日本人と日系人。ともにいるのは自然だったようで、疑問に持つ者はいなかった。シズカとしても崚介が忠告するまでもなく、安全に過ごすための仲間を探していたのかもしれない。ほかの人間と行動しているところも見かけたが、穏健派ばかりでそれぞれいい人選だった。
シズカは留学中に友人に連れられてドラッグパーティに参加し、逮捕されたと話した。自身は使用していなかったが退学になり、親にも勘当されてそのままアメリカに不法滞在することになったという。
今はその経歴は嘘だったとわかるが、シズカからはなんとも言い難い哀愁のようなものを感じることがあった。彼女はとても日本人然としていて祖国を愛してもいるようなのに、何故だか日本を遠ざけていたからだ。
それは両親を亡くし、親戚の家で育った複雑な家庭環境がそうさせていたのかもしれない。経歴は嘘でも彼女が時折見せる寂しそうな横顔は、彼女の――沙羅のものだった。
そんな彼女を、いつしか抱きしめたいと思うようになっていた。
五年後に再会した彼女は以前にも増して気高く美しく、強く、そして脆く見えた。それは娘という宝物を手に入れたからこそ。それを与えた娘とその父親に、子どもじみた嫉妬を覚えた。
この五年男とベッドをともにしていないと打ち明けた彼女を抱きしめた。キスをしたいと、あの白い肌を暴きたいと思った。あのまま電話が鳴らなかったら、彼女も受け入れてくれたんじゃないか――。
ベッドの残り香が、崚介の欲望のドアをノックする。抱きしめた体の柔らかさを思い出しながら、崚介は股間に手を伸ばした。
ザックに触れられたことに傷つく沙羅が弱さを見せてくれたのは、崚介を信頼しているからだ。それなのに彼女を欲望の対象にして己を慰めることに罪悪感が込み上げてくる。そんな背徳感すら性欲を刺激して興奮を誘った。
このベッドで彼女はどんな風に眠っていたのだろう。崚介に抱かれたらどんな顔をするのだろう。感じる場所を探して、どろどろに甘やかして、崚介から離れられないようにしてしまいたい。彼女の中に出して、自分の色に染めてやりたい。ほかの男が手出しできないように。
「……っ」
ペニスから欲望を吐き出すと、冷静さが戻ってくる。己のあさましい欲望に嘲笑が漏れた。
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