アスモデウスの悪戯

ミナト碧依

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22.誘惑

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 無骨な手から伝わる熱が、自分でも驚くほど心地よかった。弱った心が、泣きたいくらいこの熱を求めた。
「……このまま、あなたが温めてくれないか」
 誘惑を言葉にすると、青い瞳が揺れた。少し迷うような沈黙。戸惑いながら「いいのか」と問う。
「君は、今も彼を」
 その言葉を遮るように、沙羅さらは自分から崚介りょうすけと唇を重ねた。唇を押し付けるだけの幼稚なキス。崚介が一瞬体を強張らせたのが伝わった。拒まれるならそれ以上を求めるつもりはなかった。けれど。
 崚介はそれ以上言わなかった。
 押し付けた沙羅の唇を貪るようにキスが返される。息継ぎのために唇を開くと、厚い舌が滑り込んできた。唾液が混ざり合う卑猥な音がする。
 大きな手がバスローブ越しに沙羅の体を撫でた。その下に下着をつけていないことを悟ると、手付きが少し性急になった。いくらもしないうちに腰ひもが解かれ、なにもつけていない素肌をなぞる。キスが中断され、肩からバスローブが落とされた。あっという間に一糸まとわぬ姿を崚介に晒す。
 崚介は少しだけ体を離し、上から下までうっとりと沙羅の体を見た。薄い唇が吐息を漏らし、喉をゴクリと鳴らす。ザックの視線には嫌悪感しかなかったのに、今は青い瞳が情欲を宿していることにほっとしている。
「こんなに美しいだなんて」
「私の裸を想像したことがある?」
 冗談のつもりだった。けれど崚介は「当然だろ」と焦れたように言った。
「触れたくてたまらなかった。君が眠った後こっそり抜いたことだってある。まるでティーンエイジャーみたいに、馬鹿みたいに抱きたくてたまらなかった」
 言い終わらないうちに、もう何度目とも知れないキスをされる。呼吸が苦しくなったころにようやく解放されて、体が浮いたような気がした。
 と思ったら本当に浮いていた。正確には崚介に横抱きにされていた。寝室に運ばれているのだと気づき、崚介の首に腕を回す。
 崚介は寝室のドアの前で囁くように言った。
「ドア、開けてくれるか」
 崚介の両腕が塞がっているからだが、最後の意思確認のようにも思えた。沙羅は迷わずドアノブに手をかけた。それぞれこの寝室を、ベッドを使ったことはある。けれどこうして二人でこの扉の向こうに入るのは初めてだった。
 ベッドに下ろされるのと同時に崚介が覆いかぶさってくる。崚介の首に回した腕に力を込めて顔を引き寄せ、キスの続きをする。
 絶えず体をまさぐられていると沙羅も彼の素肌に触れたくなって、腕を前に戻して彼のシャツのボタンを外した。キスをしながらだと上手くできなくて、たどたどしい沙羅の手付きに焦れたのか、崚介は自分でシャツを脱ぎ去った。
 触れ合った肌が熱い。かかる重みも温もりも、与えられるキスもすべてが心地よい。
 キスが唇から離れ、頬、喉、鎖骨へと下りていく。彼の両手がサラの乳房を包み込み、揉みしだかれる。キスが胸から乳首に落とされると、舌先が乳輪をなぞった。吸い付かれたときに思わず漏れた声を隠そうとすると、また唇にキスをされる。指で乳首への刺激が与えられ続け、キスの合間も声が漏れる。自分の体はこんなに敏感だっただろうか。
 崚介は沙羅の胸をもてあそびながら、キスをまた下へと落としていった。へその下にキスをされて、その次は急に足先に飛んだ。安心したような戸惑ったような気持ちでいると、両足を開かされて崚介の体を足で挟むような格好になる。もちろんヴァギナを崚介に晒すことになって、羞恥心でどうしていいかわからなくなった。
「崚介、この格好は」
「綺麗だ」
 抗議を封じるように言われてしまい、言葉が返せなくなる。崚介は片手で胸を揉みながら、片手で足を持ってキスを続けた。足の指の間を舐められて思いがけず感じてしまう。足を引っ込めたかったけれど、彼の力には適わない。
 やがてキスが上がってきた。足先、指の間、足の甲、ふくらはぎ、太もも。そして。
「あっ……」
 太ももを両腕で抱えこまれ、崚介の顔がその間に沈む。さっき沙羅の口内を蹂躙した厚い舌が、同じようにそこに入ろうとしている。沙羅の体も待ち構えていたようによだれを垂らしているのがわかる。
「あ、んっ……それ、だめ……」
 吐息のような声を漏らすと、崚介が満足げに笑った気がした。舌がより深く入った。身をよじって快感に耐えていると、指が入ってきた。ぐちゅぐちゅと中をいじられ、クリトリスが舌に包まれる。強いようで柔らかい刺激は、まだ耐えられた。強い刺激に戸惑っていたけれど、慣れてくると少し安心する。自分に触れているのが崚介だから。
「あっ、んんんっ……!」
 強く吸い付かれて、あっという間に果ててしまう。腰が跳ね、足がびくびくと痙攣した。
 足の間から顔を上げた崚介の唇が濡れている。羞恥心に顔が燃えそうだ。
「沙羅。もう」
 青い瞳が情欲に揺れている。炎のようだと思った。高い温度の火は青くなるという。
 沙羅は頷いた。
 それを見た崚介がサイドボードから避妊具を取り出して手早く着けた。持っていたことに安心と同時に少しだけ複雑な気持ちになる。自分の嫉妬めいた感情に気付かないふりをして、押し当てられたペニスが入りやすいように少し腰を浮かせた。
 崚介が腰を突き出し、少し遅れて質量が押し入ってくる。
「あっ……」
 ずっと閉ざされていた体が男に暴かれる。不慣れさから不安が生まれ、不安が体を閉ざそうとする。彼を受け入れたいのに、体は怖気付いて異物を押し返そうとしていた。
 自分自身をもどかしく思っていると、崚介に手を握られた。一本ずつ指に口づけられ、不安が少しずつ和らいでいく。徐々に体が開いていき、奥から滲み出た体液が寧ろ彼を誘い始める。
 やがて深いところに先端が触れた。すべてが入って、崚介が動きを止める。見上げた表情は少し怖いようで、けれどなぜか怖さよりも安心感が勝った。
「はっ……痛くないか」
 崚介が怖い顔のまま、絞り出すように尋ねる。沙羅は考えるより先に、うわ言のように答えていた。
「気持ち、いい」
「あんまり煽るな。優しくできなくなる」
「私はいいから。好きに動いて」
「煽るなと……っ」
 崚介が腰を動かし始める。
「あ、ああっ」
 何年かぶりの快楽に沙羅は翻弄された。自分を抱く男にしがみつくと、彼は応じるようにキスをした。
決して激しい動きではないけれど、沙羅の快楽を探すように少しずつあてる場所を変えた。優しくできないと言ったのが嘘のように、見下ろす青い瞳はどこか冷静で観察されているような気分になる。自分だけ快楽に飲まれているのが恥ずかしい。
「あっ」
 ある一点に彼が触れたとき、無意識に体がはねて中の彼を締め上げる。それを見逃さなかった崚介が、そこを執拗に攻め始める。
「ん、あああっ」
 沙羅の体が高められていくにつれて、動きが少し早くなった。強くなる快感に少しだけ不安が戻ってきて、男にキスを強請る。
「りょう、すけ。キス、欲しい」
 崚介はそれに応えてくれた。口づけられながら揺さぶられると、幸福感が波のように押し寄せる。
 沙羅の両目から涙が溢れる。どうして泣けてきたのか、自分でもよくわからなかった。崚介が気づいて心配そうにそれを拭う。悲しみと幸福感と安堵と怒り。おそらくそんなすべてがごちゃ混ぜになって涙が止まらなかった。崚介はそんな沙羅をただ抱きしめて、律動を緩めた。ゆっくりとした動きが気持ちよくて、泣きながら喘いで崚介に縋った。
 温かい。気持ちいい。頭のてっぺんからつま先まで、隅々まで快感が伝播していく。
「沙羅」
 再び快感の波が速くなる。安心も不安も飲み込んで、沙羅を溺れさせようとする。
「崚介」
 吐息混じりに呼ぶ。沙羅はそのまま波に身を委ねた。崚介が連れていってくれるなら、怖くない。
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