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〜追放編〜

12 (イグリス)

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 俺の名はイグリス・カルフダ・リョースアールヴ・イグドラシル。アルフヘイムのエルフ騎士団で騎士団長を務めている。

 リョースアールヴからスヴァルトアールヴへ落ちた者の処刑は今までは騎士団で位の低い者が3名で組んで行っていた。
 機密事項だが何回か失敗し下界へ逃げられてしまった事例がある。つい30年ほど前のスヴァルトアールヴ処刑も、あと少しと言うところで逃げられたと報告があった。
 俺が団長に任命される前の大昔は騎士団の新米が1人で担当していたらしく、割と頻繁に逃げられたり絆されたりして逃げられていたらしい。
 そんな経緯があり、今回からスヴァルトアールヴ処刑の任は騎士団長、又は副団長が、王の従者立ち会いの元行う事となった。

 今回の任務は処刑ではなく、スヴァルトアールヴの要素を持つ少年の羽を切り落とし、下界へ追放する事だ。

 今、俺の目の前には顔に布を掛けられ、手足を拘束寝台に固定された1人の少年がいる。まだ成人前という事もあり、体格も小柄で細っそりとしていて頼りない感じだ。
 先程この拷問棟までの距離を歩いた時も、俺の鳩尾あたりまでしか背丈が無かった。
 俺はエルフの中では珍しく大柄で197センチもあり、ガタイも良い部類だが、それにしても…。

 (78歳の少年とはこんなにも、小さく守らねばと思わせる様な存在だったであろうか…。)

 現在のイグドラシルでは成人前の子供は6人、うち2人はまだ赤子だったはずだ。
 俺にはまだ子供どころか恋人もいない。部下達にはよく、団長もそろそろ恋人ぐらい作っても良いのでは?なんて酒の席で軽口をたたかれている。

 (俺だって、エルフにしては大柄で筋肉質で綺麗というよりは厳つめな顔つきでも、俺の事が好きだと言ってくれる様な女性が居ればお付き合いや結婚、出来るなら子供だって作りたいと思っているさ。)

 …話が逸れたが、すっかり仕事エルフになってしまった俺の身の回りに子供など居ないし、俺は割と昔から体格が良くガキ大将的な存在で、守られる様な立場とは無縁だった。

 (だがこの少年は…。いや、守らなくてはと思わせる様な少年だろうが、決まりであり王名だ。肌色も黒ければまだ諦めもついただろうが…。痛ましい事だが…しっかり任務をこなさねば。…覚悟を決めよう。)

 俺は深く息をはき、心を無にすると、羽の根元付近を鷲掴み、逆の手で持ったナイフを肩甲骨と羽の間へ滑り込ませる様に突き立てた。


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