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二本の傘
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今朝の天気予報は夕方から雨だと言っていたが、雨は予報よりも早く、午後の授業が始まる前からぽつりぽつりと降り出した。そして、授業が終わる頃には少し雨脚が強くなっていた。
今日は部活も委員会もないから早く帰れる日だと言うのに日直の仕事があって、その上こんな天気だなんて最悪だ。まるで今雨をふらしている雲と同じくらいどんよりとした気分だ。
薄暗い廊下を滑らないように注意しながら昇降口へと向かう。この時間はもう部活のない生徒はほとんど下校したあとのようで、昇降口は静かだった。しとしとと、雨の音だけが聞こえる。
靴を履き替える段差のところに、ぽつんと誰か、男子生徒が座っている。この後姿には、見覚えがある。
くしゃくしゃの髪型、がっしりとした肩幅、赤いラインの入った黒いリュックサック。先輩だ。
「先輩、何してるんですか?」
最悪な日じゃなかったかもしれない。こんなところに先輩がいるのだから。
「見れば分かるだろ、雨宿りだよ」
「傘、忘れたんですか?」
「そうゆうこと。折りたたみ傘をかばんの中に入れたと思っていたのに、入っていなかったんだよ。遊佐は傘持っているか?」
「もちろんですよ。先輩みたいなヘマはしません」
左手に持っている赤い花柄の傘を軽く掲げる。
「そんなふうに言われると傷つくな。いや、傘を持っているなら頼みがある」
「入れてくれ、なんていうんですか?」
「ああ。入れてくれ」
「嫌です」
きっぱりと断る。ふい、と、そっぽを向いて目の端でがっくりと項垂れている先輩を観察する。
「そうだよな……。遊佐ってなんかいつも俺と距離置くからな……。いや、気にしているわけではないんだけど……」
ぶつぶつとそう言い続ける先輩をみて、思わず笑いそうになってしまう。
「どうしても、だめか?」
「諦めの悪い先輩ですね。先輩と相合い傘なんてしていたら、明日校内にどんな噂が広まっているかわかります?」
「どんなって……あ、そういうことか。いや、俺は構わんよ」
「私が良くないんです!まったくもう、欲張りな先輩ですね」
だって、そんな噂が広まったら、恥ずかしすぎて学校にいけなくなってしまうし、今以上に先輩のことを意識してしまって、もっと先輩とうまく離せなくなってしまうではないか。それに相合い傘はお互い近寄らないと雨に濡れてしまう。そんな状態で駅までの距離を歩くのに心臓が持つ気がしないのだ。
「昔は可愛げのあるヤツだったのに」
「昔っていつの話ですか」
「赤ちゃんとか?」
「そんな時に先輩と会っていません。初めて先輩にあったのは入学してからです」
本当は先輩と一緒に帰りたい。先輩と話すのは面白いし、先輩と一緒にいると楽しくなる。こんな時間がずっと続けばいいのになんて思うけれど、ふとした瞬間に先輩と二人きりであるということを意識してしまって、ぶっきらぼうな言い方になってしまう。こんな話し方の女の子なんて可愛くないって思うのに、先輩はいつも変わらず私に話しかけてくれる。
「傘が一本しかないなんて言ってないんですけどね」
「もう一本あるのか?」
「私、用意周到ってやつなんです」
かばんの中から水色の折りたたみ傘を取り出す。
「頼む!貸してくれ!」
「先輩が雨に濡れて風邪を引いてしまうといけないので貸してあげますが、その代わり、いちごみるく奢ってください」
「わかったよ。駅前のコンビニに売っていたよな」
「あ、あと、肉まんとメロンパンとキャラメルも追加で」
「俺を破産させる気?!」
「ほら、先輩。行きますよ」
私は赤い傘を差して、雨の中を歩き出した。
今日は部活も委員会もないから早く帰れる日だと言うのに日直の仕事があって、その上こんな天気だなんて最悪だ。まるで今雨をふらしている雲と同じくらいどんよりとした気分だ。
薄暗い廊下を滑らないように注意しながら昇降口へと向かう。この時間はもう部活のない生徒はほとんど下校したあとのようで、昇降口は静かだった。しとしとと、雨の音だけが聞こえる。
靴を履き替える段差のところに、ぽつんと誰か、男子生徒が座っている。この後姿には、見覚えがある。
くしゃくしゃの髪型、がっしりとした肩幅、赤いラインの入った黒いリュックサック。先輩だ。
「先輩、何してるんですか?」
最悪な日じゃなかったかもしれない。こんなところに先輩がいるのだから。
「見れば分かるだろ、雨宿りだよ」
「傘、忘れたんですか?」
「そうゆうこと。折りたたみ傘をかばんの中に入れたと思っていたのに、入っていなかったんだよ。遊佐は傘持っているか?」
「もちろんですよ。先輩みたいなヘマはしません」
左手に持っている赤い花柄の傘を軽く掲げる。
「そんなふうに言われると傷つくな。いや、傘を持っているなら頼みがある」
「入れてくれ、なんていうんですか?」
「ああ。入れてくれ」
「嫌です」
きっぱりと断る。ふい、と、そっぽを向いて目の端でがっくりと項垂れている先輩を観察する。
「そうだよな……。遊佐ってなんかいつも俺と距離置くからな……。いや、気にしているわけではないんだけど……」
ぶつぶつとそう言い続ける先輩をみて、思わず笑いそうになってしまう。
「どうしても、だめか?」
「諦めの悪い先輩ですね。先輩と相合い傘なんてしていたら、明日校内にどんな噂が広まっているかわかります?」
「どんなって……あ、そういうことか。いや、俺は構わんよ」
「私が良くないんです!まったくもう、欲張りな先輩ですね」
だって、そんな噂が広まったら、恥ずかしすぎて学校にいけなくなってしまうし、今以上に先輩のことを意識してしまって、もっと先輩とうまく離せなくなってしまうではないか。それに相合い傘はお互い近寄らないと雨に濡れてしまう。そんな状態で駅までの距離を歩くのに心臓が持つ気がしないのだ。
「昔は可愛げのあるヤツだったのに」
「昔っていつの話ですか」
「赤ちゃんとか?」
「そんな時に先輩と会っていません。初めて先輩にあったのは入学してからです」
本当は先輩と一緒に帰りたい。先輩と話すのは面白いし、先輩と一緒にいると楽しくなる。こんな時間がずっと続けばいいのになんて思うけれど、ふとした瞬間に先輩と二人きりであるということを意識してしまって、ぶっきらぼうな言い方になってしまう。こんな話し方の女の子なんて可愛くないって思うのに、先輩はいつも変わらず私に話しかけてくれる。
「傘が一本しかないなんて言ってないんですけどね」
「もう一本あるのか?」
「私、用意周到ってやつなんです」
かばんの中から水色の折りたたみ傘を取り出す。
「頼む!貸してくれ!」
「先輩が雨に濡れて風邪を引いてしまうといけないので貸してあげますが、その代わり、いちごみるく奢ってください」
「わかったよ。駅前のコンビニに売っていたよな」
「あ、あと、肉まんとメロンパンとキャラメルも追加で」
「俺を破産させる気?!」
「ほら、先輩。行きますよ」
私は赤い傘を差して、雨の中を歩き出した。
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読ませて頂きました。
可愛らしい恋だなと思いました。
コメントありがとうございます。
青くてキュンとなって頂けたら嬉しいです