魔法少女なんていなければよかったのに

天野蒼空

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 その日は、梅雨の間の珍しく晴れた日だった。蒸し暑い風が、もうすぐ夏本番だ、ということを教えてくれている。昨日の晩に降った雨が、コンクリートで固められた道路に水溜りを作る。その水面に映る空の色は、突き抜けた青だった。
 教室の一番窓側の席、後ろから二番目。校庭のよく見えるこの席が、私の席。クラスにいる女子生徒のセーラー服の袖は、数日前に短くなったし、男子生徒は暑苦しい学ランから開放された。それと同時に、少しだけ、皆のテンションが高くなったような気がする。
 そんなクラスメートの様子を横目で見ながら、私は鞄の中から文庫本を取り出した。残念なことに、このクラスには一緒にはしゃげるような人は居ないし、もともと私は、いわゆる「陽キャ」というような人たちの空気が苦手だ。残念なことに、クラスの半分以上は「陽キャ」なので、私にはどうすることもできない。
 今日も教室の端で時間を浪費して一日を終えることになるだろう。

「席につけー。ホームルーム始めるぞ」

 担任の先生が教室に入ってくると、教室は少しだけ静になる。

「今日は欠席、いないな」

 先生は紙に書かれてある連絡事項を読み上げたあとに、こう続けた。

「そうそう、今日の朝、服を着た猫を見たんだよ」

「先生、最近は犬でも服着せられているよ。」

 クラスの中で騒がしくしているうちの一人が言った。

「いや、ペットショップで売っているようなのじゃなくて、もっとしっかりしたものだったんだよ。スーツみたいなのを着ていたんだ。それに、飼い主らしき人も見当たらなかったし。」

「先生、寝ぼけていたんじゃないんですか?」

 クラスの中でどっと笑いが起きる。先生は、「そうなのかなぁ」と言いながら頭を掻き、教室から出ていった。
 一時間目は移動教室だったから、クラスの中の人数は段々と少なくなり、やがて教室の中は空っぽになった。
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