魔法少女なんていなければよかったのに

天野蒼空

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 奇跡を起こすというのは、思ったより簡単だった。何をすればいいかは魔法の書に浮かび上がってくる。奇跡って言ったって、とても小さいことのほうが多い。ほんの少しだけ、誰かが笑顔になれる魔法。小さな奇跡でも、それが起こせることがちょっとだけ誇らしかった。
 奇跡を思い浮かべながら、私は杖を振る。知らない人の奇跡を、今日も私は叶えるのである。
 奇跡がかなったとき、少しだけ世界の色が輝く。淡い色の空の青が、優しさに溢れた木々の緑が、温かな太陽の赤が、全てが鮮明になる。見えない色も見えてくる。知らない人の笑顔の灯りが、風の匂いが、色づく。世界はこんなにも色で溢れていたってこと、私は今まで知らなかった。
 何度杖を振ったか、最初の頃は数えていたけれど、いつしか数えることをやめてしまった。多分、宇宙の星の数ほど振ったのではないだろうか。

 時間はどんどん過ぎていった。

 私は学校に行くのをやめてしまった。家にも帰らなくなった。
 魔法少女になったことで、私という存在が世間から消えてしまったらしいのである。なんでも、魔法少女は普通の人の住む世界の外側から奇跡を起こすかららしい。普通の人と違う世界に立つことで、魔法というものは使えるようになるらしい。「神様と人間の間のような存在だよ」と、ルイズリーは説明してくれた。確かに、神様と人間は同じ世界にはいない。
 魔法少女の奇跡の力がうまい具合に働いて、私は「元からいなかった」ということになっている。だから、学校に行かないのではない。行けないのだ。家に帰らないのではない。帰れないのだ。

 その代わり、ルイズリーは小さな館を用意してくれた。なんでも、昔の魔法少女が住んでいたところらしい。
 その館は、魔法を使わないと入れない空間の中にある、森の中にぽつんと建っていた。

 レトロな雰囲気のある、レンガ造りの二階建ての建物。その外建物は、「館」と呼ぶにふさわしい建物だった。
 黄味がかった赤や茶色の壁の所々には蔦で覆われている部分もある。屋根は青みがかった黒色。玄関前には青銅の帽子をかぶったライト。重たそうな黒いドアには、ライオンの顔がついた真鍮のノッカーがついている。中にはいくつもの部屋があり、猫脚のついた浴槽のあるバスルームや、煙突のついた暖炉、広々とした大広間に、大きな長机の置いてある食堂などもあった。それらには、古くから使い込まれたような跡が残っていて、魔法少女が昔いたということを肌で感じさせられた。

 私はその中の一部屋を自分の部屋として使った。その部屋にいると、不思議と一人でいても一人じゃないような気がした。

 毎朝、魔法を使って魔法少女の姿に着替え、元いた世界に「出勤」し、夕方になればその世界を「退勤」して館に帰ってくるような生活が私の毎日になった。
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