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14話From菜月
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「なんとかできるようになってよかった~」
公園に移動してきて幸人にみっちり練習を見てもらうこと三十分。お手本を何度も見せてもらい、一緒に踊ったりして、ようやく、ダンスの中で苦手だった難しい部分がなんとかできるようになった。
ヘナヘナとベンチに座り込む。首筋の汗をタオルで拭い、ペットボトルの中に入っているお茶をグビグビと飲み干す。
「リズム感はいいんだから、これくらい菜月はなんとかなるって思っていたよ」
幸人の首筋を伝う汗の粒すら、眩しく感じる。
さわ、さわ、さわ、さわ。
緑色の風が木と木の間を通って、汗で湿った私の髪を撫でていく。
チチチ、チチチ。
小鳥が楽しそうに歌いながら飛んでいく。
遠くにあるはずの空が、手を伸ばせば触れられそうなほど近かった。
「ねえ」
なにかあったわけではない。ただ、二人きりでいるこの時間で、黙ってしまっていることがなんだかもったいなく感じただけ。
「どうした?」
振り向いたときの笑顔はいつもどおりだけど、私服だからだろうか。やっぱりいつもよりも少しだけ近く感じる。
「幸人ってさ」
さて、何を言おう。本当に何も考えないまま声をかけてしまったのだから、頭の中はかっこいいな、ということしか考えていない。
「やっぱりモテるの?」
かっこいい人はやっぱりモテるのだろうな、くらいしか考えていない。でも、言ってしまってから気づいた。この答えを聞いてしまったら、もう夢は見れないんじゃないかと。
「モテては……多分ないかな」
その少しの間に、幸人は何を考えていたのだろうか。
もしかして。
最悪な状況が頭の中に浮かんでくる。
「彼女、いるの?」
恐る恐る聞いてみる。
でも、もしも居たなら休みの日につきっきりでダンスの練習に付き合ってくれるわけ無いだろうし。でも、彼女はそれに寛容なタイプかもしれないし。
でも、でも、でも、でも。
たくさんの「でも」が浮かんでは消し飛ばされ、また浮かんでくる。
「今は居ないよ」
「そっか。じゃ、元カノさんはたくさんなわけだ」
口元が緩みそうになるのを隠そうと、私は適当なことを言った。
「いや、一人。というか、たくさんいるわけ無いでしょ。だって、まだ俺ら高校生だよ?」
「ふーん。で、彼女候補とかは?」
「そんなの知るわけ無いじゃん」
つまり、それって今はそういう人の影すらないってことだよね。期待してもいいってことだよね。夢を見てもいいってことだよね。
ふい、と、幸人と反対側を向く。だって、こんなに緩みきった表情を見せられるわけないから。火照った頬を風が撫でる。
「そっか」
もう少しなにかいい方があるような気もしたが、今の私にはこの返事が精一杯だった。
もしも、もしも少しだけでも希望があるなら。
私、幸人と幸せになりたいな。
ずっとずっと二人きりで、今日みたいな毎日を、永遠に繰り返したい。
幸人と幸せになれたなら、きっと毎日が色鮮やかに輝くだろう。
公園に移動してきて幸人にみっちり練習を見てもらうこと三十分。お手本を何度も見せてもらい、一緒に踊ったりして、ようやく、ダンスの中で苦手だった難しい部分がなんとかできるようになった。
ヘナヘナとベンチに座り込む。首筋の汗をタオルで拭い、ペットボトルの中に入っているお茶をグビグビと飲み干す。
「リズム感はいいんだから、これくらい菜月はなんとかなるって思っていたよ」
幸人の首筋を伝う汗の粒すら、眩しく感じる。
さわ、さわ、さわ、さわ。
緑色の風が木と木の間を通って、汗で湿った私の髪を撫でていく。
チチチ、チチチ。
小鳥が楽しそうに歌いながら飛んでいく。
遠くにあるはずの空が、手を伸ばせば触れられそうなほど近かった。
「ねえ」
なにかあったわけではない。ただ、二人きりでいるこの時間で、黙ってしまっていることがなんだかもったいなく感じただけ。
「どうした?」
振り向いたときの笑顔はいつもどおりだけど、私服だからだろうか。やっぱりいつもよりも少しだけ近く感じる。
「幸人ってさ」
さて、何を言おう。本当に何も考えないまま声をかけてしまったのだから、頭の中はかっこいいな、ということしか考えていない。
「やっぱりモテるの?」
かっこいい人はやっぱりモテるのだろうな、くらいしか考えていない。でも、言ってしまってから気づいた。この答えを聞いてしまったら、もう夢は見れないんじゃないかと。
「モテては……多分ないかな」
その少しの間に、幸人は何を考えていたのだろうか。
もしかして。
最悪な状況が頭の中に浮かんでくる。
「彼女、いるの?」
恐る恐る聞いてみる。
でも、もしも居たなら休みの日につきっきりでダンスの練習に付き合ってくれるわけ無いだろうし。でも、彼女はそれに寛容なタイプかもしれないし。
でも、でも、でも、でも。
たくさんの「でも」が浮かんでは消し飛ばされ、また浮かんでくる。
「今は居ないよ」
「そっか。じゃ、元カノさんはたくさんなわけだ」
口元が緩みそうになるのを隠そうと、私は適当なことを言った。
「いや、一人。というか、たくさんいるわけ無いでしょ。だって、まだ俺ら高校生だよ?」
「ふーん。で、彼女候補とかは?」
「そんなの知るわけ無いじゃん」
つまり、それって今はそういう人の影すらないってことだよね。期待してもいいってことだよね。夢を見てもいいってことだよね。
ふい、と、幸人と反対側を向く。だって、こんなに緩みきった表情を見せられるわけないから。火照った頬を風が撫でる。
「そっか」
もう少しなにかいい方があるような気もしたが、今の私にはこの返事が精一杯だった。
もしも、もしも少しだけでも希望があるなら。
私、幸人と幸せになりたいな。
ずっとずっと二人きりで、今日みたいな毎日を、永遠に繰り返したい。
幸人と幸せになれたなら、きっと毎日が色鮮やかに輝くだろう。
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一言で言うなら”マジでこんな青春を送りたかった”ですかね。これ読んでる人の共通認識だと思いますが、通信制高校生の私は尚更そう思いました。
流石というかなんというか……天野さんの高校時代を元にしているだけあってVRで映像を見ているのか?くらいのリアリティがありますね。四捨五入で新手のVRシステムです。
筆圧の~から始まる一文で読者はまず学校生活をしていた時代にタイムスリップさせられ、そこからはまるで菜月と橋本、そして岩瀬ちゃんと同じ時間を過ごしているような……なんというか、実は同じ学校の同じクラスで……くらいの感覚で物語を読み進めることが出来ました。本当にこれは新手のVRシステムだと思います(2回目)
菜月の信じる”愛”、岩瀬ちゃんの気持ち、そして橋本の葛藤……その3つが今後どのように交わるのか、そして”だからきっとあの時の私がいなかったら、今ここで筆を執っている私は存在しなかっただろう”という一文の謎が明かされる日を待っています!
これからも頑張ってください!
感想、2回もありがとうございますm(*_ _)m
VRっていう褒め言葉は初めて頂きました。リアリティを出すことを意識しているだけあって、嬉しいですね。
これからどんどんこの3人の運命は複雑に絡み合っていきます。どうぞ続きもお楽しみに!
ps.忙しさで更新を放っていましたが、こんなふうに感想いただけてまた頑張ろうと思いました!本当にありがとうございます!!!!
率直に言うなら「こんな青春を一回でいいからやってみたかった……そんな高校生活でした。
天野さんは現役大学生ということは青空配信見てるので知っていますが……つまりは女子高生の時代もあったわけで……その経験からのリアリティ感がたまらない。とくに最初の筆圧の~の文は学校生活といえば……というもの、そこから紡がれる菜月と橋本の甘酸っぱい青春は見ていて飽きません。
「女子高生」という称号とありますが、私は通信高校生ですがどっちみちしろ高校生になったという優等感はあり、初めての電車通学で大人になった気分だったのも覚えてますね、懐かしい。
だからきっとあの時の私がいなかったら、今ここでこうして筆を執っている私は存在しなかっただろう……この1文の謎が解き明かされる日を待っています!
感想ありがとうございます。
この物語は特に自分の経験を元に書いている話なので、読者の方々が同じ目線に立てるように意識しました。
「あの時」がどの瞬間を指す言葉なのか……まだまだ先になりますし、解釈も色々できるかなと思います。
どうぞ続きもお楽しみください。