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階層ゲーム前
7 残酷な真実3
しおりを挟む年配の店長の顔が曇っていた。何度も店内と外とを行ったり来たりと徘徊している。一体あの女店員はどこに行ったんだ。自転車を直しているには遅すぎる。それにしても、雨が一向に止む気配がない。
「あの日は、今のようによく雨が降っていた。」
「俺は、仕事で気に食わぬことがあり朝から苛立っていたんだ。」
「・・・」
「いや、違う。」
「そんなことじゃない。」
「前日の夜遅くまで美香が男友達と遊んでいたことに苛立っていたんだ。」
「あの子は素直で優しいから、誘われると断れない性格だった。」
「そうだとしても、中学生が夜の九時まで帰らないのはおかしいだろ!」
なぜ自分が怒鳴られているのか分からず少し腹が立ったが、これ以上火をつけさせてはなるまいと同情のふりをした相槌を打っておいた。
「それに、美香は私に女友達の家に行くと行きしなに言っていたんだ。」
「それにも関わらずカバンのairTagは佐竹という問題児野郎の家を指している。」
「え、」
「なんだ、?」
「娘さんのカバンにairTagを仕込んでたんですか?」
「当たり前だろ、もし犯罪に巻き込まれたらどうするんだ。」
「許可は、取らずに?」
「ああ、取ったら嫌がるに決まってるだろ」
「なるほど、」
どうやら、藤森は過保護だったらしくやっていることに少し不快感を感じたがスルーすることにした。
「わざと何度も電話をかけたが三度目から一向に出ない。」
「痺れを切らし、佐竹の家に押し入ってやろうと考えた時に帰ってきたんだ。」
「知らぬふりをし何してたのか尋ねると」
「あれよこれよと嘘を並べて、あれはショックだった」
「それに、制服スカートのすぐ下あたりに、あざのような傷がついていたからそれは何かと尋ねてもこけて擦りむいたなんてすぐバレる嘘つくんだ。」
「佐竹の野郎と喧嘩でもして暴力を振るわれたんじゃないかと心配でその日は眠れなかったんだ。」
「それで、美香さんはなぜいじめを受けたのですか?」
そろそろ時間も迫っている。藤森の話が長くなってきたので本題へ戻した。
「ああ、その次の朝あまり美香と話したくなくてすぐに出勤したんだ。」
「だか、その日事件は起こった。」
「その日の朝、強力なウイルスの実験サンプルを運んでいたエボルヴのトラックが事故を起こし美香と接触した。」
「どうやら目撃者によると、運転手が心臓麻痺を起こしたらしく100キロを超える速度で加速し出したらしい。」
「幸いトラックは道路に駐停車していた何台もの無人の車と衝突し電柱を三本折って横転したおかげで、美香と接触した時はほとんどスピードが出ていなかった。」
「周りの歩行者も小さなガラスが刺さるなどと言った軽傷で済んだ。」
「でもな、一つまずいことが起きていたんだ。そのトラックが積んでいたウイルスサンプルの一つが破損し、美香のすぐ近くの道路に飛び出していた。」
「それから美香は一ヶ月病院で隔離生活を強いられ、事故を起こした道路一体は国によって立ち入り禁止区域とされた。」
「その間に、学校ではいくつもの噂に尾鰭がつき、美香はウイルス保持者などと恐れられた。」
「退院した後も美香は今まで仲良くしていた友人から無視され、酷い奴には水をかける、体育倉庫に閉じ込めるなどと嫌がらせを受け続けた。」
「そんなことが、」
「ああ、」
先程から徘徊していた店長が、妙に大人しくなった。そして、ずっとうつ伏せて座っている。気分が悪いのだろうか。
時刻は午後七時半。
刻一刻と時間は迫っている。
「色々お話しありがとうございました、」
「あの、自分この後予定がありまして、」
「まだ、全部話してないぞ。」
「いや、でももう時間が、」
まだ、一時間半ある。だが、ここから駅までの距離、乗車時間、駅を降りてからの距離を考えるとそろそろ出た方が良い。それでもやはり、その後美香さんがどうなったかはどうしても気になる。
「じゃあ、あの、目的地まで時間があるので電話で聞かせてもらえないでしょうか?」
藤森は一度下を見てから軽く頷いた。
藤森が自分のルイボスティーの分まで会計を済ませている時、妙な視線を感じた。
「おい、店長お釣り間違えてるぞ」
「店長、?」
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