コーデリア魔法研究所

tiroro

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 目が覚めて、白い天井をぼーっと見上げる。
 せっかくの夢の一人暮らしが、初日からこんなことになるなんて……。
 ため息をつきながら、ふと昨日の夢を思い出してしまった。
 なんであんな夢を見たんだろう……。

 そう思っていると、ノックの音がして、ユリウスさんが入ってきた。

「目は覚めたか。体調はどうだ?」

 真面目な声でそう言いながら、ユリウスさんは私の方をじっと見ている。

「……ブフッ!」

「何がおかしい?」

 ユリウスさんが首をかしげる。

「い、いえ! な、なんでもないです!」

 笑いを噛み殺して答える私に、ユリウスさんは一瞬眉をひそめた。

「まあいい……それより、体調はどうだ?
 立てそうか?」

「あ、あの……はい、多分!」

 慌ててベッドから降りる。
 足元が少しフラついたけど、どうにか立てた。
 これならもう大丈夫かな。

「無理はするな。必要があれば呼べ」

 そう言い残して、ユリウスさんは部屋を出ていった。  
 その背中を見送ったあと、私はこらえきれずにブッと吹き出してしまった。

 だって、あんな夢卑怯じゃん!
 ……命の恩人に酷い態度取っちゃったな。
 そんなことを思いながらも、とりあえず荷物をまとめて研究所を出る準備を始めた。


***


「本当にお世話になりました。
 それでは──」

「ミア君、少し待ちなさい」

 玄関まで来たところで、所長さんが優しい笑みを浮かべながら私を呼び止めた。

「はい?」

 その一言になんとなく嫌な予感がしたけど、所長さんの目がじっと私の髪を見ていることに気づいて緊張する。

「君の髪色、珍しいね。
 これほどの輝きを持つ色は、なかなか見ることはない」

「えっ、髪ですか?」

 髪、髪って……また髪? 昨日からそればっかり……。
 私の髪がなんだっていうの? トリートメントしろっていうの?

「もしかすると、特別な魔力の資質があるかもしれん。
 少し調べさせてもらえないかな?」

「……ま、魔力?」

 予想外の言葉に驚く私をよそに、所長さんはにっこり微笑む。
 そしてユリウスさんを呼び出した。

「ユリウス、彼女を『秘晶の間』へ案内してくれ」

「承知しました」

 ユリウスさんに導かれ、私は研究所の奥へと向かう。
 うわぁ……なんか、偉そうな人や貴族みたいな人がいっぱいいるよ。
 それにしても、秘晶の間って、名前からして何かすごそう……。
 不安に思いながらも、私はユリウスさんの後ろをついていく。
 その美しい赤みがかった髪を見ながら、なんとなく昨日の夢をまた思い出してしまい──

「……プッ!」

「大丈夫か?」

「なんでもないです……」

 あぁ、ユリウスさんには絶対に夢のことは言えないな。
 心の中でそう決意しながら、私は深呼吸をした。


***


 秘晶の間とかいう場所に着いた。
 黒塗りの壁に、目の前には怪しげな水晶。

「私に魔力なんて無いと思いますけど……。
 昨日だって、ユリウスさんが助けてくれなかったら、私……」

 すると、横に立っていたユリウスさんが口を開いた。

「確かに助けたのは俺だが、君の怪我があんなに早く回復したのは、君自身の魔法の影響もある」

「へっ……!?」

 目を見開く私に、彼はさらりと続ける。

「気づいてないかもしれないが、君は無意識に回復魔法を使っていた。
 それも無詠唱でな」

 無詠唱──魔法が使える人でも、そんなのはかなり難しいって聞いたことがある。それを、私が?
 そんなわけないじゃん、何言ってんのこの人。

「だから所長が、念のため検査してみようと言い出したんだ」

 まぁ……そういうことなら診てもらった方がいいか。
 魔法なんて使った覚えないし、なんか勘違いされてるだけのような気もするけど……。

 そしてもう一人、この検査に立ち会うために来た女性が不機嫌そうに鼻を鳴らす。

「フンッ、無駄な時間だと思いますけどね。
 こんな庶民くさい子に魔力なんてあるわけないじゃありませんか」

「私もそう思います」

「リシテア、なんて言い方をするんだ」

 長いブロンドの髪、紺色のローブを着た彼女──リシテアさんと言うらしい。


 ドレスを着ていたら、見た目はまるでおとぎ話に出てくるお姫様そのものだ。
 不機嫌なのか、発言になんか棘がある。



「さっさとその水晶に手をかざして結果を出してくださらない?
 早く研究に戻りたいの」

 リシテアさんに急かされ、私は仕方なく水晶の前に立つことに。

 水晶は丸くて透明で、表面がキラキラしてる。
 ただのガラス玉にしか見えないけど、これが本当に魔力を測る道具なの?

 恐る恐る手をかざしてみると──

「わっ!?」

 水晶が突然、眩しい黄色の光を放ち始めた。
 その光は、部屋中を包み込むほど強烈で、この場の全員が一瞬言葉を失ったほどだった。

「この色……光属性だな」

 驚いたような表情で、ユリウスさんがつぶやく。
 その声で我に返った私は、慌てて手を引っ込めた。

「光属性……?」

 私の問いに、所長が静かに頷いた。

「こりゃまた珍しい。滅多に見ない属性が出たな。
 特にこの地域では、ほとんど報告がない」

「もしかして……ミアは聖女、なのか?」

 ユリウスさんが私を見ながら言った言葉に、思わず「いやいやいや!」と手を振る。
 孤児院出の私が聖女だなんて、そんな大層な存在なわけないでしょ!

 所長は苦笑しながら首を横に振った。

「聖女とは更に珍しい聖属性を持つ者だ。
 光属性もなかなか見ないが、それとはまた別だよ」

 その時、リシテアさんがまたフンッと鼻を鳴らした。

「珍しいからって浮かれている場合じゃなくてよ。
 この子がどれだけの実力を持っているかなんて、まだ分からないでしょう?」

 いやいやいや、浮かれてないです!
 急にいろいろ言われて訳がわからないってだけで。
 なんか、会ってからずっと、目の敵にされてないですか?

「さっきからお前、言い方が少しきついぞ」

 ユリウスさんの鋭い言葉。
 その声にリシテアさんは少しだけたじろいでいたけど、すぐに顔を背けてしまった。

 そんなやり取りを眺めていた所長が、柔らかい声で話しかけてきた。

「ミア君、どうだね。この研究所で働いてみる気はないかい?」

「私が……?」

 そりゃ、新生活に向けて職は探してたけど……。
 魔法の研究所なんて、頭のいい人たちが働く場所で、庶民の私がやっていけるわけ……。

「こんな庶民に務まるわけないでしょ!」

「ですよねー」

「研究員として、君の魔力をぜひ活用してもらいたい。
 もちろん待遇は保証するよ」

 待遇の話を聞いて、思わず目を丸くする。
 研究所で働くなんて、全然考えたことなかったけど……たぶん、花屋さんで働くよりはよっぽどいいんだよね?

「えっと……や、やってみようかしら……」

 待遇に釣られてそう答えた私に、所長は満足そうに頷いた。

「ようこそ、コーデリア魔法研究所へ!」

 どうしよう……私、本当にここでやっていけるのかな……。
 不安でいっぱいだけど、それでも少しだけ、私に魔力があると知ってワクワクしている自分がいた。


***


 家に帰る途中、私は思わず魔法を試してみたくなった。

「炎の力よ、灼熱の焰となりて燃え上がれ──ファイア!」

 ──しかし、何も起こらなかった。

 魔法なんて出ないじゃんよ!
 しかも、誰もいないと思ってたら、なんかおじさんがこっち見てポカンとしてるし!


 私は早歩きでアパートに帰った。
 そして、部屋に着いてから、肝心な買い物を忘れていたことに気づいた。
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