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第三章 記憶の影、そして真実のカケラ
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影は地を滑るように迫ってくる。形は曖昧で、だがどこか人間めいていた。腕のようなものが揺れ、顔のような部分には、ひび割れた時計盤が張り付いている。そこには、止まったままの時刻——“6時6分”が記されていた。
「……あれ、動いてるって言えるのか?」
リクの問いに、ユメはすぐに答えなかった。代わりに地図を覗き込む。
「見て。さっきは空白だった場所に、なにか書かれてる」
リクも目を凝らす。文字は滲んでいるが、確かにそこには一文が刻まれていた。
「この街に眠る者、過去を抱き、今を拒む。」
「……“今を拒む”?」
「つまり、過去に囚われてるってことよ。あの影は“記憶の怪物”。この街の誰かが、忘れたくなかったことを——忘れられなかったことを、形にしてしまったの」
そのとき、影が呻いたように声をあげた。重く、擦れるような音。それはまるで、夢の中で誰かが叫ぶような、掠れた悲鳴。
そして——
影の体から、“何か”が落ちた。小さな、光るかけら。欠けたガラスのように、空中でふわりと浮かんでいる。
「……あれ、真実のカケラ?」
リクが近づこうとすると、影が激しく揺れた。風が逆巻き、時計塔の鐘が鳴らぬまま震える。
「リク、あのカケラは“記憶の断片”よ! でも、不完全なまま触ると——!」
ユメの警告は届かず、リクの指先がカケラに触れた。
その瞬間、視界が反転した。
——真っ白な部屋。
——机の上のノート。
——「リク」と呼ぶ声。
——少女が笑う。「約束だよ、リク。いつかきっと、真実を——」
「っ……!?」
リクは膝をついた。頭が割れそうに痛い。だが、今の映像は確かに——自分の記憶だった。
「見た……知ってる、あの声……」
カケラはリクの掌の中で砕け、光となって消えた。
ユメが傍に駆け寄り、静かに言った。
「一つ、戻ったんだよ。“真実のカケラ”は、記憶の破片。それを集めることで、あんたが失った“本当の自分”に近づいていける」
リクはゆっくり頷いた。
地図を見れば、今、空白だった部分に一つ、新しい道が描かれている。
それは“エレシア”から外へと伸びる、細く、けれど確かな道。
「……この街の嘘は、記憶の上にあった。なら、この先も、そうなんだろうな」
「そう。でも同時に、希望でもあるの。記憶が残ってるってことは、誰かが“真実”をまだ、忘れていないってことだから」
影はゆっくりと崩れ、まるで塵となって風に消えていった。止まっていた時計塔の針が、わずかに——“6時7分”へと動いた気がした。
街はまだ、目覚めの途中にある。
リクは地図を胸にしまい、静かに歩き出す。
「ユメ、行こう。次の“嘘”を、見つけに」
「うん。次は、東の“ガラスの谷”だって。そこには“透明な嘘”が眠ってるらしいよ」
二人の影が、かつて眠りに落ちた街を後にした。
そしてその背中を、誰かが見送っていた。
瓦礫の陰に立つ、黒いコートの人物。
その目に浮かぶ、意味深な笑み。
「——始まったな。地図が、本気を出し始めた」
「……あれ、動いてるって言えるのか?」
リクの問いに、ユメはすぐに答えなかった。代わりに地図を覗き込む。
「見て。さっきは空白だった場所に、なにか書かれてる」
リクも目を凝らす。文字は滲んでいるが、確かにそこには一文が刻まれていた。
「この街に眠る者、過去を抱き、今を拒む。」
「……“今を拒む”?」
「つまり、過去に囚われてるってことよ。あの影は“記憶の怪物”。この街の誰かが、忘れたくなかったことを——忘れられなかったことを、形にしてしまったの」
そのとき、影が呻いたように声をあげた。重く、擦れるような音。それはまるで、夢の中で誰かが叫ぶような、掠れた悲鳴。
そして——
影の体から、“何か”が落ちた。小さな、光るかけら。欠けたガラスのように、空中でふわりと浮かんでいる。
「……あれ、真実のカケラ?」
リクが近づこうとすると、影が激しく揺れた。風が逆巻き、時計塔の鐘が鳴らぬまま震える。
「リク、あのカケラは“記憶の断片”よ! でも、不完全なまま触ると——!」
ユメの警告は届かず、リクの指先がカケラに触れた。
その瞬間、視界が反転した。
——真っ白な部屋。
——机の上のノート。
——「リク」と呼ぶ声。
——少女が笑う。「約束だよ、リク。いつかきっと、真実を——」
「っ……!?」
リクは膝をついた。頭が割れそうに痛い。だが、今の映像は確かに——自分の記憶だった。
「見た……知ってる、あの声……」
カケラはリクの掌の中で砕け、光となって消えた。
ユメが傍に駆け寄り、静かに言った。
「一つ、戻ったんだよ。“真実のカケラ”は、記憶の破片。それを集めることで、あんたが失った“本当の自分”に近づいていける」
リクはゆっくり頷いた。
地図を見れば、今、空白だった部分に一つ、新しい道が描かれている。
それは“エレシア”から外へと伸びる、細く、けれど確かな道。
「……この街の嘘は、記憶の上にあった。なら、この先も、そうなんだろうな」
「そう。でも同時に、希望でもあるの。記憶が残ってるってことは、誰かが“真実”をまだ、忘れていないってことだから」
影はゆっくりと崩れ、まるで塵となって風に消えていった。止まっていた時計塔の針が、わずかに——“6時7分”へと動いた気がした。
街はまだ、目覚めの途中にある。
リクは地図を胸にしまい、静かに歩き出す。
「ユメ、行こう。次の“嘘”を、見つけに」
「うん。次は、東の“ガラスの谷”だって。そこには“透明な嘘”が眠ってるらしいよ」
二人の影が、かつて眠りに落ちた街を後にした。
そしてその背中を、誰かが見送っていた。
瓦礫の陰に立つ、黒いコートの人物。
その目に浮かぶ、意味深な笑み。
「——始まったな。地図が、本気を出し始めた」
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