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第四話「ノインという名の影」
しおりを挟む“南の荒野”と呼ばれる場所は、地図の上ではただの空白だった。そこに道はなく、村も町も描かれていない。ただ一面の灰色に塗りつぶされた、存在しない“何か”。
「こんな場所、ほんとに存在するのかよ……」
リクは地図を睨みながらつぶやいた。ユメはその隣で、風に舞う砂を手で払いのけながら前を見つめている。
「でも、コンパスが震えてる。きっと、ここに“何か”があるはず」
二人は慎重に足を進める。空は濁った雲に覆われ、太陽の輪郭さえ曖昧だった。辺りには植物もなければ、鳥の影さえない。ただ乾いた大地と、風の音だけが支配している。
そして。
――ギィ……ン。
不意に、金属を引きずるような音がした。
二人が足を止めた瞬間、その音はさらに近づいてくる。砂煙の向こうから、ゆっくりと歩いてくる人影。いや、それは“人”とは呼べない何かだった。
黒ずんだマントを纏い、顔を覆う仮面。右手には細長い剣、左手には古びた鞄。そして、仮面の隙間から覗く眼――赤く、揺れるような光。
「……ノイン」
ユメがぽつりとつぶやいた。
「知ってるのか?」
「噂だけ。でも、本当に存在するなんて……“地図を狩る者”、それがノイン。ウソの地図を持つ者を見つけては、それを奪い、燃やし、消す。彼が現れた町は、例外なく――記録から消える」
リクの背筋に冷たいものが走る。
「なぜ……そんなことを」
ユメはわずかに首を横に振った。
「誰も知らない。ただ一つ言えるのは、彼が“真実”を嫌う者ではなく、“嘘”を否定する存在だってこと」
ノインが、立ち止まった。砂を踏みしめる音も、風も、すべてが止まったように思えた。
そして――
「その地図を、渡せ」
しわがれた声が、仮面の奥から響いた。
リクは無意識に一歩、ユメの前に出る。
「嫌だ。これは、俺の地図だ」
「それは“世界を壊す道具”だ。お前には扱えない」
「そんなの、あんたが決めることじゃない!」
ノインの剣が、かすかに揺れた。だが次の瞬間、ユメが叫ぶ。
「リク、描いて! 地図に“壁”を!」
その言葉に反応するように、リクの手が動いた。地図を広げ、小さな鉛筆で一線を走らせる。
「ここに――鉄の壁を!」
ビリ、と地図が光った。
その直後、二人の目の前に鋼の塀が現れた。ノインの剣が、金属に打ち付けられる音。火花が散る。
「今のうちに、逃げるよ!」
ユメが手を引く。リクは地図を握りしめながら、ただ走った。背後から、再びノインの声が響く。
「逃げても、嘘は真実にならない」
その言葉は、呪いのようにリクの心に突き刺さった。
――彼は知っている。
この地図が、単なる“願い”を映すだけでなく、やがて世界そのものを書き換えていくことを。
“ウソの地図”が、ただの道具ではないことを。
そしてリクも、ようやく気づき始めていた。
自分が何を手に入れ、これから何を失うのか――その意味を。
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