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16話
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職人通りは、大通りとはまた違う落ち着いた雰囲気だった。
並ぶ店舗の店先には、丁寧に作られた道具や小物が所狭しと並べられている。
「すごい……綺麗で、面白いものがたくさんありますね」
「あぁ。この通りには、辺境伯領でも特に腕のいい職人たちが集まっているんだ。見るだけでも退屈しないだろう」
俺が店先を珍しそうに覗き込むと、隣を歩くラーク様が、少しだけ得意げに教えてくれる。
その後ろでは、相変わらずメイとガルドが小声で言い争っていた。
「ちょっとガルド! あんた何でそんなデカい麻袋買ってんのよ! デートのムードが台無し!」
「あぁん? 園芸用の特製肥料だぞ! これを入れると庭のバラの 発色が全然違うんだよ。荷物持ちは俺がやってんだから文句ねぇだろ」
「そういう問題じゃないわよ! 肥料の匂いで旦那様とルカ様の甘い空気が霞んだらどうしてくれんのよこの筋肉だるま!」
「なんだとぉ!?」
(ふふっ、本当にあの二人は仲がいいな)
俺が後ろを振り返ってくすくす笑うと、ラーク様が困ったように眉を下げた。
「……あの二人は。せっかくの外出だというのに」
「二人とも面白くて、すごく楽しいです。俺、屋敷のみんなのそういう賑やかなところ、大好きですよ」
本心からそう言うと、ラーク様は少しだけ目を丸くした後、耳の先をほんのりと赤くして「……そうか」と静かに頷いた。
和やかな空気の中、俺はラーク様に案内してもらいながら、屋敷のみんなへのお土産を順番に選んでいった。
ディーには、毛並みを整えるための上質な獣毛のブラシを。
アランには、南国から輸入されたという珍しい香辛料のセットを。
そしてエルザさんには、執務で使える美しい細工の入ったガラスペンを選んだ。
「よし、これで三人の分は揃ったな。……あ、メイ、ガルド」
俺は振り返り、荷物を持ってくれている二人に声をかけた。
「はい! ルカ様、歩き疲れていませんか?」
「おう、どうかしたか?」
「これ、二人にも。いつも俺のお世話をしてくれたり、気にかけてくれてありがとう」
俺は、メイには可愛らしい赤い石のついたヘアピンを、ガルドには職人が打ったという手入れ用の高級な砥石を手渡した。
「えっ……私に?!ありがとうございます!、 一生大切にします! 毎日磨いて家宝にしますぅぅ!!」
「お、おいメイ、泣きすぎだ! ……ルカ様、気ぃ使わせちまって悪かったな。ありがたく使わせてもらうぜ」
メイは感極まってボロボロと大泣きし始め、ガルドも照れくさそうに笑いながら砥石を大事そうに懐にしまった。喜んでもらえて、俺の胸の奥もぽかぽかと温かくなる。
「……全員分、揃ったか?」
ラーク様が、泣き崩れるメイを少し遠い目で見ながら俺に尋ねてきた。
「あっ……いえ。あと一つ、買いたいものがあるんです」
俺はラーク様を見上げた。
ディーたちのお土産は無事に買えた。でも、一番感謝を伝えたい人への贈り物がまだ決まっていない。
ラーク様は領主であり、最強の騎士だ。俺が買えるようなもので、彼が喜んでくれるものなんてあるのだろうか。
そう思いながら視線を彷徨わせていると、ふと、ある小間物屋の店先に飾られていた『組紐』が目に留まった。
深い夜空のような漆黒の糸に、ラーク様の瞳と同じ、綺麗な銀色の糸が編み込まれている剣の飾り紐だ。これなら、ラーク様の黒い軍服や大剣にもよく似合うかもしれない。
「ラーク様」
「ん? どうした?」
「あの……ちょっとだけ、あっちを向いていてくれませんか?」
「あっち……?」
ラーク様は不思議そうに小首を傾げたが、俺が「お願いです」と両手を合わせると、「わ、わかった」と素直に背を向けてくれた。その後ろ姿が少し可愛くて、俺はまた小さく笑いそうになる。
「すみません、この飾り紐をください」
ラーク様にバレないよう、店主にこっそりと声をかけ、その銀と黒の綺麗な組紐を買い求めた。
(屋敷に帰ったら、渡そう。喜んでくれるといいな)
小さな包みをポケットにそっとしまい込み、俺は「お待たせしました、ラーク様」と、背を向けて待っていてくれた彼の大きな背中をトントンと叩いた。
「ん、もういいのか?」
「はい、買いたいものが買えました」
「そうか。それは良かった」
ルカを愛おしく見つめるラーク。
「はぁぁあいいわぁぁ…もう結婚しろよ…!!」
「お前情緒やばいぞ」
並ぶ店舗の店先には、丁寧に作られた道具や小物が所狭しと並べられている。
「すごい……綺麗で、面白いものがたくさんありますね」
「あぁ。この通りには、辺境伯領でも特に腕のいい職人たちが集まっているんだ。見るだけでも退屈しないだろう」
俺が店先を珍しそうに覗き込むと、隣を歩くラーク様が、少しだけ得意げに教えてくれる。
その後ろでは、相変わらずメイとガルドが小声で言い争っていた。
「ちょっとガルド! あんた何でそんなデカい麻袋買ってんのよ! デートのムードが台無し!」
「あぁん? 園芸用の特製肥料だぞ! これを入れると庭のバラの 発色が全然違うんだよ。荷物持ちは俺がやってんだから文句ねぇだろ」
「そういう問題じゃないわよ! 肥料の匂いで旦那様とルカ様の甘い空気が霞んだらどうしてくれんのよこの筋肉だるま!」
「なんだとぉ!?」
(ふふっ、本当にあの二人は仲がいいな)
俺が後ろを振り返ってくすくす笑うと、ラーク様が困ったように眉を下げた。
「……あの二人は。せっかくの外出だというのに」
「二人とも面白くて、すごく楽しいです。俺、屋敷のみんなのそういう賑やかなところ、大好きですよ」
本心からそう言うと、ラーク様は少しだけ目を丸くした後、耳の先をほんのりと赤くして「……そうか」と静かに頷いた。
和やかな空気の中、俺はラーク様に案内してもらいながら、屋敷のみんなへのお土産を順番に選んでいった。
ディーには、毛並みを整えるための上質な獣毛のブラシを。
アランには、南国から輸入されたという珍しい香辛料のセットを。
そしてエルザさんには、執務で使える美しい細工の入ったガラスペンを選んだ。
「よし、これで三人の分は揃ったな。……あ、メイ、ガルド」
俺は振り返り、荷物を持ってくれている二人に声をかけた。
「はい! ルカ様、歩き疲れていませんか?」
「おう、どうかしたか?」
「これ、二人にも。いつも俺のお世話をしてくれたり、気にかけてくれてありがとう」
俺は、メイには可愛らしい赤い石のついたヘアピンを、ガルドには職人が打ったという手入れ用の高級な砥石を手渡した。
「えっ……私に?!ありがとうございます!、 一生大切にします! 毎日磨いて家宝にしますぅぅ!!」
「お、おいメイ、泣きすぎだ! ……ルカ様、気ぃ使わせちまって悪かったな。ありがたく使わせてもらうぜ」
メイは感極まってボロボロと大泣きし始め、ガルドも照れくさそうに笑いながら砥石を大事そうに懐にしまった。喜んでもらえて、俺の胸の奥もぽかぽかと温かくなる。
「……全員分、揃ったか?」
ラーク様が、泣き崩れるメイを少し遠い目で見ながら俺に尋ねてきた。
「あっ……いえ。あと一つ、買いたいものがあるんです」
俺はラーク様を見上げた。
ディーたちのお土産は無事に買えた。でも、一番感謝を伝えたい人への贈り物がまだ決まっていない。
ラーク様は領主であり、最強の騎士だ。俺が買えるようなもので、彼が喜んでくれるものなんてあるのだろうか。
そう思いながら視線を彷徨わせていると、ふと、ある小間物屋の店先に飾られていた『組紐』が目に留まった。
深い夜空のような漆黒の糸に、ラーク様の瞳と同じ、綺麗な銀色の糸が編み込まれている剣の飾り紐だ。これなら、ラーク様の黒い軍服や大剣にもよく似合うかもしれない。
「ラーク様」
「ん? どうした?」
「あの……ちょっとだけ、あっちを向いていてくれませんか?」
「あっち……?」
ラーク様は不思議そうに小首を傾げたが、俺が「お願いです」と両手を合わせると、「わ、わかった」と素直に背を向けてくれた。その後ろ姿が少し可愛くて、俺はまた小さく笑いそうになる。
「すみません、この飾り紐をください」
ラーク様にバレないよう、店主にこっそりと声をかけ、その銀と黒の綺麗な組紐を買い求めた。
(屋敷に帰ったら、渡そう。喜んでくれるといいな)
小さな包みをポケットにそっとしまい込み、俺は「お待たせしました、ラーク様」と、背を向けて待っていてくれた彼の大きな背中をトントンと叩いた。
「ん、もういいのか?」
「はい、買いたいものが買えました」
「そうか。それは良かった」
ルカを愛おしく見つめるラーク。
「はぁぁあいいわぁぁ…もう結婚しろよ…!!」
「お前情緒やばいぞ」
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