​転生したら最強辺境伯に拾われました

マンスーン

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17話

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 ​屋敷に帰り着くと、ルカはさっそく、皆が集まっている食堂へと足を運んだ。

 ​「うわっ、すげえ! これ、王都の職人が作ったっていう高い獣毛ブラシじゃないっすか!」

 お土産のブラシを受け取ったディーが、目を輝かせてピョンピョンと跳ねた。

「ありがとうございます、ルカ様! 大事に使います! ……あーあ、でも俺も一緒に街へ行きたかったっす! 次は絶対に俺も連れてってくださいね!」
 ​「こらディー、ルカ様を困らせるな。……ルカ様、わざわざ俺のために選んでくださって、本当にありがとうございます」

 アランは大きな手でスパイスの小瓶を大切そうに包み込み、満面の笑みを浮かべた。

「よし! 今夜の夕食は、これを使ってとびきり美味い肉料理を作りますからね! 期待しててください!」

 ​そして、執事のエルザさんは、繊細なガラスペンが入った小箱を両手で受け取ると、ピタリと動きを止めた。

 ​「……エルザさん? あの、あまり趣味じゃなかったですか……?」
「……いえ」
 エルザさんは眼鏡をクイッと押し上げ、相変わらずの全くの無表情のまま、俺に向かって深々と一礼した。
「ルカ様。お気遣い、心より感謝いたします」
 ​顔こそ無表情だが、心做しか嬉しそうだ。
 気に入ってくれて良かった。

 ​「みんな、いつもありがとう」

 ​賑やかに笑い合うディーとアラン、そして静かにペンを見つめるエルザさん。少し離れた場所では、メイとガルドが「私のヘアピンの方が絶対可愛い!」「砥石の実用性には敵わねぇだろ!」とまだ言い争っている。
 そんな騒がしくも温かい屋敷の日常を、俺は心の底から愛おしく思いながら見つめていた。



 夕方。
 窓の外が茜色に染まる頃、ルカはラーク様の執務室の前に立っていた。
 ポケットに入った小さな包みをそっと握りしめ、小さく深呼吸をしてからノックをする。

 ​「ラーク様、俺です。入ってもいいですか?」
「あぁ、ルカか。入ってくれ」

 ​分厚い扉を開けると、デスクに向かっていたラーク様が、少しだけホッとしたような柔らかい顔でこちらを振り向いた。

 ​「今日も、魔力を流しに来ました」
「すまない、いつも君に甘えてしまって。……街歩きで疲れていないか?」
「全然平気ですよ。すごく楽しかったです」

 ​いつものように、ラーク様の向かいのソファに腰を下ろした。
 ラーク様が向かい合わせに座り、俺の手に触れようと大きな手を差し出してくる。だが、俺はその手を取る前に、ポケットから小さな包みを取り出した。

 ​「ラーク様。魔力を繋ぐ前に……これ、受け取ってください」
「……これは?」
「今日、職人通りで買ったんです」

 ​俺が包みを開けると、中から漆黒と銀色の糸が美しく編み込まれた、大剣用の飾り組紐が現れた。

 ​「あんまり高価なものじゃないんですけど……。ラーク様の瞳と、黒い軍服にすごく似合うと思って」
「……」

 ​ラーク様は、その組紐と俺の顔を交互に見つめ、恐る恐る、震える大きな手でその組紐を受け取った。

 ​「俺に……買ってくれたのか。あの時、隠れて……俺のために」
「はい。いつも俺を守ってくれて、優しくしてくれるお礼です。……迷惑、じゃなかったですか?」

 ​俺が少し不安になって上目遣いで尋ねると、ラーク様はハッと息を呑み、そして、泣きそうなほど切なく、ひどく甘い表情で微笑んだ。

 ​「迷惑なはずがないだろう。……嬉しい。本当に、俺の生涯の宝にする」
「ふふっ、大袈裟ですよ」
「大袈裟なものか。君が俺のことを考えて選んでくれたんだ。これ以上の喜びなど、この世に存在しない」

 ​ラーク様は組紐を胸元で大切そうに握りしめると、空いたもう片方の手で、俺の右手をそっと取った。
 いつもの『魔力共有』のための接触だと思った、その時。
 ​ラーク様はそのままゆっくりと身を屈め、俺の右手を自分の顔の高さまで引き上げた。
 そして、まるで女神に祈りを捧げる騎士のように恭しく目を伏せ――俺の手の甲に、そっと柔らかい唇を落とした。

 ​「……えっ、」

 ​ちゅっ、という微かな音。
 手の甲に触れた、ラーク様の熱い唇の感触。
 ​ドクンッ!! と、俺の胸の奥で、今まで感じたことのないほど大きな音が鳴った。
 全身の血が一気に沸騰したように、顔がカッと熱くなる。

「ラー、ク様……?」
「あ……っ!!」

 ​俺の震える声に、ラーク様は弾かれたように顔を上げた。
 その銀色の瞳が見開かれ、彼自身の顔も耳の先まで真っ赤に染まっている。

「す、すまない!! あまりにも嬉しくて、つい、その……! 決して君を不快にさせるつもりでは……ッ!!」

 ​パニックを起こして狼狽えているラークの言葉に返事をすることもできず、ただ自分の手の甲に微かに残る熱に、呆然としていた。

 ​(なんだろう……顔が、すごく熱い。心臓が、うるさい……)

「ルカ……? 大丈夫か、顔が赤いぞ」
「あ、えと……魔力、流しますね!!」

 ​俺は爆発しそうな心臓を誤魔化すように、組紐を握っていないラーク様のもう片方の手を両手でギュッと掴み、慌てて光の魔力を流し込んだ。

 静かな執務室の中、窓から差し込む夕日が二人を照らしている。

 ​(なんでこんなにドキドキしてるんだ……)

 ​繋いだ手から伝わる互いの熱と、言葉にできない甘い空気。
 俺は下を向いたまま、このドクドクと高鳴る鼓動を必死に落ち着かせようと、ただひたすらに温かい魔力を送り続けるのだった。
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