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2 演劇部のユーラスくん
4 口直し
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◆ ◆ ◆
「すみません……」
果てながら泣いてしまったボクに、ユーラスくんはシーツに手を付き、ペコペコと頭を下げる。
「久しぶりで、たまんなくて……あのっ……調子乗りました」
「なんで噛むの?」
「ごっ、ごめんなさい」
「痛かったのに」
「こ……、声が、可愛くて、つい」
「ちゃんと脱がせてくれないから下着も汚れちゃったし」
「あとでオレの貸しますんで……」
正座しているユーラスくんは、半笑いで、足をもぞもぞさせている。
「だから……あの、もっとしましょ?」
果てたのはボクだけ。
自分のはまだ中途半端だと言いたいらしい。
「ばかっ」
ボクは服をみんな脱いでしまうと、彼の顔面に投げつけた。
「ぶわっ!」
「まったく、もぉ……」
ボクはタオルで体を隠しながらベッドサイドに置かれた袋へ手を伸ばす。
いっぱい喘いだせいで喉がカラカラだった。
さっき買ってきてもらったものを取り出す。くびれたボディの瓶に黒い液体。
――冬季限定、クラーケンの墨汁。
精力増強ドリンクだ。
ほのかな甘みと海の生臭さがあいまって地獄――と、学園内ではかなりの悪評。瞬く間に罰ゲームの定番品となって、売店では連日品切れ状態なのだ。
噂を聞いたときから、一度試してみたくてたまらなかった。
「絶対美味しくないですよね、それ」
「試してみなきゃ分からないよ」
ぷしっ、と炭酸が抜ける。
「うわ……、なんか変なニオイ」
後ろからボクを抱きすくめているユーラスくんは、やめたほうがいい、と無言のオーラを放っている。
ボクは構わず、一口。
「……うん。悪くないな」
「エエッ」
「飲んでみる?」
「はぃい……」
飲まされる運命なのは分かっていたのだろう。
ほっぺをヒクつかせ、とてつもなく嫌そうながらも彼はボトルを受け取る。
ボクとの間接キスを断わるユーラスくんではない。
「ううっ……」
飲み口に舌を這わせ、怖々と傾けていく。
そのあまりのスローモーションっぷりにじれったくなって、ボトルの底を指で押し上げた。
黒き液体が一気に彼の喉へと押し寄せる。
「ゲハァッ!」
予期せぬ量を大量に飲んでしまったらしい。炭酸だったこともあって、ゲホゲホと大袈裟なくらいにむせた。
「があああっ、なにっ、これっ……口の中が、ヘドロの海ッ……」
「そうかな?」
正直、ボクはそれほど不味いとは思えない。気分的にはイカを食べながら炭酸水を飲んでいるのと同じだ。
「トキさんってなんでも美味しく食べちゃうんですね」
「変な味も美味しさのうちだよ」
「……ですかねぇ……」
ユーラスくんがほっぺたをくっつけてきたので、ボクも唇を押しつけた。いつもの流れならそのまましばらくじゃれ合っただろうけど、急に彼が「ん!」と顔をそむかけた。
「ううっ、せっかくのチューがっ……台無し……」
よっぽど不味かったらしい。
半ベソをかきながら、お茶で口をゆすいでいる。
首をかしげて見ていると、ボクにもお茶を飲ませてくれた。
「はぁ。ゲテモノ好きもほどほどにしてくださいね」
「じゃあ、口直し、する?」
「えっ……」
すべてを察した彼の目がパッと輝いた。
エサを目の前にしての「待て」の合図が今、「よし」に変わったと言わんばかりに。
「今日はいっぱいするんでしょ?」
「はいっ!」
「先にイった方が墨汁の一気飲み!」
「うわっ、オレ不利じゃないですか」
口は嫌がりながらも、体は嬉しそうなユーくんは颯爽と裸になった。
腕を絡ませながら抱き合い、互いの体を擦り合わせる。
「トキさんっ!」
「ゆぅ、んんっ……ふぁ……」
ボクは肩口を甘噛みされながら、彼の髪に鼻をうずめる。
香水も何もつけていない――クシすら通しているとは思えない――癖っ毛。うっすらと汗ばんだその香りは、ボクに男を感じさせる。
「すみません……」
果てながら泣いてしまったボクに、ユーラスくんはシーツに手を付き、ペコペコと頭を下げる。
「久しぶりで、たまんなくて……あのっ……調子乗りました」
「なんで噛むの?」
「ごっ、ごめんなさい」
「痛かったのに」
「こ……、声が、可愛くて、つい」
「ちゃんと脱がせてくれないから下着も汚れちゃったし」
「あとでオレの貸しますんで……」
正座しているユーラスくんは、半笑いで、足をもぞもぞさせている。
「だから……あの、もっとしましょ?」
果てたのはボクだけ。
自分のはまだ中途半端だと言いたいらしい。
「ばかっ」
ボクは服をみんな脱いでしまうと、彼の顔面に投げつけた。
「ぶわっ!」
「まったく、もぉ……」
ボクはタオルで体を隠しながらベッドサイドに置かれた袋へ手を伸ばす。
いっぱい喘いだせいで喉がカラカラだった。
さっき買ってきてもらったものを取り出す。くびれたボディの瓶に黒い液体。
――冬季限定、クラーケンの墨汁。
精力増強ドリンクだ。
ほのかな甘みと海の生臭さがあいまって地獄――と、学園内ではかなりの悪評。瞬く間に罰ゲームの定番品となって、売店では連日品切れ状態なのだ。
噂を聞いたときから、一度試してみたくてたまらなかった。
「絶対美味しくないですよね、それ」
「試してみなきゃ分からないよ」
ぷしっ、と炭酸が抜ける。
「うわ……、なんか変なニオイ」
後ろからボクを抱きすくめているユーラスくんは、やめたほうがいい、と無言のオーラを放っている。
ボクは構わず、一口。
「……うん。悪くないな」
「エエッ」
「飲んでみる?」
「はぃい……」
飲まされる運命なのは分かっていたのだろう。
ほっぺをヒクつかせ、とてつもなく嫌そうながらも彼はボトルを受け取る。
ボクとの間接キスを断わるユーラスくんではない。
「ううっ……」
飲み口に舌を這わせ、怖々と傾けていく。
そのあまりのスローモーションっぷりにじれったくなって、ボトルの底を指で押し上げた。
黒き液体が一気に彼の喉へと押し寄せる。
「ゲハァッ!」
予期せぬ量を大量に飲んでしまったらしい。炭酸だったこともあって、ゲホゲホと大袈裟なくらいにむせた。
「があああっ、なにっ、これっ……口の中が、ヘドロの海ッ……」
「そうかな?」
正直、ボクはそれほど不味いとは思えない。気分的にはイカを食べながら炭酸水を飲んでいるのと同じだ。
「トキさんってなんでも美味しく食べちゃうんですね」
「変な味も美味しさのうちだよ」
「……ですかねぇ……」
ユーラスくんがほっぺたをくっつけてきたので、ボクも唇を押しつけた。いつもの流れならそのまましばらくじゃれ合っただろうけど、急に彼が「ん!」と顔をそむかけた。
「ううっ、せっかくのチューがっ……台無し……」
よっぽど不味かったらしい。
半ベソをかきながら、お茶で口をゆすいでいる。
首をかしげて見ていると、ボクにもお茶を飲ませてくれた。
「はぁ。ゲテモノ好きもほどほどにしてくださいね」
「じゃあ、口直し、する?」
「えっ……」
すべてを察した彼の目がパッと輝いた。
エサを目の前にしての「待て」の合図が今、「よし」に変わったと言わんばかりに。
「今日はいっぱいするんでしょ?」
「はいっ!」
「先にイった方が墨汁の一気飲み!」
「うわっ、オレ不利じゃないですか」
口は嫌がりながらも、体は嬉しそうなユーくんは颯爽と裸になった。
腕を絡ませながら抱き合い、互いの体を擦り合わせる。
「トキさんっ!」
「ゆぅ、んんっ……ふぁ……」
ボクは肩口を甘噛みされながら、彼の髪に鼻をうずめる。
香水も何もつけていない――クシすら通しているとは思えない――癖っ毛。うっすらと汗ばんだその香りは、ボクに男を感じさせる。
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