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8 静かなる番犬

5 そういう性癖

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 湿気を帯びた淫らな空気がだんだんと部屋全体を満たしていく。

「……っ! ぎん、が、く……、やめて……」

 彼は一通り舐め終えると、ベルトをずらしながら下腹部にキスをしてきた。挨拶みたいに何度も何度も。
 強く吸い付いて、ちゅっ、ちゅるっ、と音を立てる。もつれるような振動は、もう少し下の熱い部分にまで伝わる。
 たまらなくなって逃れようとすれば、腰を抱く指に力がこもった。肉に食い込ませるようにグッと。

「あっ、あはっ、ん……あ……」

 ただキスされてるだけなのに、おかしくなるくらい反応してしまう。
 例のところが期待感でヒクついているのに、彼はそれを無視してキスばかりする。絶対気づいてるくせに。


「――ふーっ、ふーっ」


 時々、ボクの不規則な呼吸に重なるようにして熱い吐息が聞こえる。
 潜んでいるマシューくんのものだ。
 ついさっきまで無気力だった目が一転してらんらんと輝き、食い入るようにボクを見ている。

 マシューくんは自警団の犬。
 そして、究極のド変態である。

 ボクのことが猛烈に好きで好きでたまらないくせに、直接触れるより、他の男に抱かれているのを遠くから眺めるのが大大大好きなのだ。
 俗にいう、“寝取られフェチ”ってやつ。


「……ふあっ」


 ボクはもちろんそれを知っている。
 だから、ギンガくんに『マシューくんからボクを引き剥がし、無理やり寝取ろうとする男』になりきってもらうように頼んだのだ(これも演技の一つ。彼の得意分野だろう)。
 そうすれば、マシューくんはギンガくんを追い払おうとはしないはずだから――。

「ふーっ、ふーっ……」

 彼はまんまと罠にかかったのだ。でも、大喜びだから罪は無いだろう。
 鼻息もさることながら、いつもカサカサの唇がうるおいを持ち、笑みを隠しきれずにいる。
 普段の下がりきった口角からは想像できないくらい、にやにやと笑っている。

「ふーっ、ふふ……」

 学園自警団の強い使命感があるからこそ、“討伐対象である男に愛しい人を奪われる”というシチュエーションに最高に興奮してしまうはず――と、いうボクの目論見は見事に的中した。

 でも一つだけ誤算だったのは、

「んっ、や、だ……アアッ!」

 ギンガくんの方があまりにも容赦無いってこと。
 ボクのことを本気で寝取ろうとしているのだ。これが演技なのか否かはもう本人にしか分からない。

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