上 下
142 / 174
21.震える/道連れ ※

1/7※

しおりを挟む
 彼が現れた時点で、こうなることは分かっていた。

「言う通りにしてくれるなら響くんには手を出さない。約束するから」
「……」

 俺はいつの間にか、例の指輪を胸の前で握り締めていた。
 その小さな希望にすがりつかなければ、とても立ち続けてなんていられなかった。

「せっかくだし、響くんに龍広の本当の姿、見てもらいましょ」
「……くっ!」
「今日は電話越しじゃなく、生の喘ぎ声、たくさん聞かせてあげましょうよ」

 頭のどこかでは覚悟していた。
 それでも身体の端々は冷え切って、完全に血の気が引いていた。目の前にあるはずの物たちが遠くなり、虚ろになってゆく。

「さあ。いらっしゃい」

 無意識のうちに首を横に振りかけていたが、寸前で堪える。
 今、ケティの下には響がいるのだ。少しでも拒絶すれば、代わりに抱かれるのは――。

「ぐっ」

 耳の奥で感じる鼓動に混じって、もう聞こえ始めているような気がした。
 強制的に犯され、終わりのない苦痛に震え、泣き叫び、絶え間無く地獄を味わい続ける響の声が。
 ただの幻聴ではない。現実になりかけている、声。

 抗うことは、許されない。


 込み上げている感情は胸の奥で潰し、ケティに近づいていく。
 そのまま、響の方は決して見ぬようにひざまずき、

「今日はやけに素直ね、龍――」

 楽しげな言葉を遮るよう、唇を押し付けた。

「んっ……」
「ふ、ぐっ、ぅん……」

 彼の唇は、酒の味がした。
 ふわりと鼻に抜ける芳醇な香り。それは意識にまで入り込み、俺を快楽へ誘おうとする。
 だが、どんなことがあっても理性だけは保っていなければならない。
 指輪を握りしめ、手のひらに爪を立てた。

 ――すべては、響を守るため。

 何度も皮膚を擦り合わせた。息継ぎのたびに角度を変え、ときに舌を絡ませ、深くまで交わし合う。
 音なんて立てたくないのに、ケティはわざとらしく吸い付き、ちゅっ、ちゅ、と湿り気まじりの音を鳴らす。

「ああっ! イイわ、龍広っ……」
「ぅふ」
「もっと頂戴……」

 その瞬間、ケティはまるでスイッチが入ったかのように勢いよく動き出した。
 響から離れ、俺の方へ全体重をかけてくる。

「あぅっ」

 バランスが崩れ、仰向けに押し倒された。
 そのまま腹の上にまたがると、アゴを掴み上げ、さらに激しく唇をむさぼり始める。


「……んっ、あふ、ぁ……」

 俺は吐息をもらしながら、その広い背中に腕を回した。ぐっと力を入れ、抱き寄せる。
 決して離れないように。

「っん、ふぅ……!」

 願いに応えるかのように、ケティの欲望は激しさを増していく。
 歯の間から舌をねじ込まれ、ざらついたものに口内を犯される。息継ぎはおろか、だらしなく垂れた唾液を拭う暇すら与えてくれない。

 あまりにも乱暴なキス。


「んっ! ぅあ、ん……」


 少しずつ、“俺”が壊れていく。
 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

友達のために女装

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:3

淫靡な指。

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:125

間抜けな体勢で男達は搾取される

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:9

ニューハーフな生活

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:305pt お気に入り:26

少年達は淫らな生け贄となる

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:12

Jewel/box

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:8

BLエロ小説短編集

BL / 連載中 24h.ポイント:1,002pt お気に入り:97

運命のつがい。

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:114

空想毒舌おとこ姫。

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:27

堕ちた犬達は仲間の精液をすする

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:17

処理中です...