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21.震える/道連れ ※
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彼が現れた時点で、こうなることは分かっていた。
「言う通りにしてくれるなら響くんには手を出さない。約束するから」
「……」
俺はいつの間にか、例の指輪を胸の前で握り締めていた。
その小さな希望にすがりつかなければ、とても立ち続けてなんていられなかった。
「せっかくだし、響くんに龍広の本当の姿、見てもらいましょ」
「……くっ!」
「今日は電話越しじゃなく、生の喘ぎ声、たくさん聞かせてあげましょうよ」
頭のどこかでは覚悟していた。
それでも身体の端々は冷え切って、完全に血の気が引いていた。目の前にあるはずの物たちが遠くなり、虚ろになってゆく。
「さあ。いらっしゃい」
無意識のうちに首を横に振りかけていたが、寸前で堪える。
今、ケティの下には響がいるのだ。少しでも拒絶すれば、代わりに抱かれるのは――。
「ぐっ」
耳の奥で感じる鼓動に混じって、もう聞こえ始めているような気がした。
強制的に犯され、終わりのない苦痛に震え、泣き叫び、絶え間無く地獄を味わい続ける響の声が。
ただの幻聴ではない。現実になりかけている、声。
抗うことは、許されない。
込み上げている感情は胸の奥で潰し、ケティに近づいていく。
そのまま、響の方は決して見ぬようにひざまずき、
「今日はやけに素直ね、龍――」
楽しげな言葉を遮るよう、唇を押し付けた。
「んっ……」
「ふ、ぐっ、ぅん……」
彼の唇は、酒の味がした。
ふわりと鼻に抜ける芳醇な香り。それは意識にまで入り込み、俺を快楽へ誘おうとする。
だが、どんなことがあっても理性だけは保っていなければならない。
指輪を握りしめ、手のひらに爪を立てた。
――すべては、響を守るため。
何度も皮膚を擦り合わせた。息継ぎのたびに角度を変え、ときに舌を絡ませ、深くまで交わし合う。
音なんて立てたくないのに、ケティはわざとらしく吸い付き、ちゅっ、ちゅ、と湿り気まじりの音を鳴らす。
「ああっ! イイわ、龍広っ……」
「ぅふ」
「もっと頂戴……」
その瞬間、ケティはまるでスイッチが入ったかのように勢いよく動き出した。
響から離れ、俺の方へ全体重をかけてくる。
「あぅっ」
バランスが崩れ、仰向けに押し倒された。
そのまま腹の上にまたがると、アゴを掴み上げ、さらに激しく唇をむさぼり始める。
「……んっ、あふ、ぁ……」
俺は吐息をもらしながら、その広い背中に腕を回した。ぐっと力を入れ、抱き寄せる。
決して離れないように。
「っん、ふぅ……!」
願いに応えるかのように、ケティの欲望は激しさを増していく。
歯の間から舌をねじ込まれ、ざらついたものに口内を犯される。息継ぎはおろか、だらしなく垂れた唾液を拭う暇すら与えてくれない。
あまりにも乱暴なキス。
「んっ! ぅあ、ん……」
少しずつ、“俺”が壊れていく。
「言う通りにしてくれるなら響くんには手を出さない。約束するから」
「……」
俺はいつの間にか、例の指輪を胸の前で握り締めていた。
その小さな希望にすがりつかなければ、とても立ち続けてなんていられなかった。
「せっかくだし、響くんに龍広の本当の姿、見てもらいましょ」
「……くっ!」
「今日は電話越しじゃなく、生の喘ぎ声、たくさん聞かせてあげましょうよ」
頭のどこかでは覚悟していた。
それでも身体の端々は冷え切って、完全に血の気が引いていた。目の前にあるはずの物たちが遠くなり、虚ろになってゆく。
「さあ。いらっしゃい」
無意識のうちに首を横に振りかけていたが、寸前で堪える。
今、ケティの下には響がいるのだ。少しでも拒絶すれば、代わりに抱かれるのは――。
「ぐっ」
耳の奥で感じる鼓動に混じって、もう聞こえ始めているような気がした。
強制的に犯され、終わりのない苦痛に震え、泣き叫び、絶え間無く地獄を味わい続ける響の声が。
ただの幻聴ではない。現実になりかけている、声。
抗うことは、許されない。
込み上げている感情は胸の奥で潰し、ケティに近づいていく。
そのまま、響の方は決して見ぬようにひざまずき、
「今日はやけに素直ね、龍――」
楽しげな言葉を遮るよう、唇を押し付けた。
「んっ……」
「ふ、ぐっ、ぅん……」
彼の唇は、酒の味がした。
ふわりと鼻に抜ける芳醇な香り。それは意識にまで入り込み、俺を快楽へ誘おうとする。
だが、どんなことがあっても理性だけは保っていなければならない。
指輪を握りしめ、手のひらに爪を立てた。
――すべては、響を守るため。
何度も皮膚を擦り合わせた。息継ぎのたびに角度を変え、ときに舌を絡ませ、深くまで交わし合う。
音なんて立てたくないのに、ケティはわざとらしく吸い付き、ちゅっ、ちゅ、と湿り気まじりの音を鳴らす。
「ああっ! イイわ、龍広っ……」
「ぅふ」
「もっと頂戴……」
その瞬間、ケティはまるでスイッチが入ったかのように勢いよく動き出した。
響から離れ、俺の方へ全体重をかけてくる。
「あぅっ」
バランスが崩れ、仰向けに押し倒された。
そのまま腹の上にまたがると、アゴを掴み上げ、さらに激しく唇をむさぼり始める。
「……んっ、あふ、ぁ……」
俺は吐息をもらしながら、その広い背中に腕を回した。ぐっと力を入れ、抱き寄せる。
決して離れないように。
「っん、ふぅ……!」
願いに応えるかのように、ケティの欲望は激しさを増していく。
歯の間から舌をねじ込まれ、ざらついたものに口内を犯される。息継ぎはおろか、だらしなく垂れた唾液を拭う暇すら与えてくれない。
あまりにも乱暴なキス。
「んっ! ぅあ、ん……」
少しずつ、“俺”が壊れていく。
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