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第八話 高くなった空の下で
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第八話 高くなった空の下で
風呂場での一件以降、ノアの押しが増して来ているように伊織は感じていた。ノアを抱いていても、時折見せる視線にドキリとする。まるで、大きな犬に押し倒されるウサギの様に、こちらが獲物になったような―――
「ぁっ、はぁ‥‥伊織?」
布団の上に横たわり、荒く息をするノアが、はにかむように伊織を見上げる。
「何でもない」
ぞくりと腰が震え、ノアを追い詰めていく。
「ぁっ、あぁっ!」
お互いの熱を吐き出し、布団に横たわり荒い息を整える。
「伊織‥‥」
蔽いかぶさって来たノアを見上げる伊織。見下ろすノアの視線に、鼓動が跳ねた。
「どうした? まだ足りなかったか?」
頬に触れる伊織の手にノアの手が重なり、頬を摺り寄せる。
「ううん‥‥」
何か言いたげにしながら、言葉を飲み込むように伊織に口づけをするノア。その日はそれ以上何も聞けず、二人で眠りについた。
暑さも和らぎ、朝夕の風が少し冷たくなって来た頃。扇風機の前でだらけていたノアが、ふとした瞬間に遠くを見つめているような顔をするようになった。視線の先には、今までよりも少し高くなった空が広がっていた。
「ノア」
「‥‥何?伊織」
一拍置いて振り返るノアの顔は、いつもの様に人懐っこい笑顔だった。
「昼飯、偶には外で食うか?」
「珍しいね。 うん、行こう!」
二人揃って家を出る。外にいるのに、まるで家の中のような距離感。伊織がふと身を引くと、ノアがキョトンとした顔で覗き込んだ。
「‥‥近い」
ノアの顔を押しのけようとする伊織。
「いつもと同じだよ? もしかして、照れてる?」
「違う」
伊織の手を取ろうとしたノアの手を避けるように、着物の袖に手をしまい込む。
「アメリカじゃどうか知らないが、ここは日本だ。外で引っ付くんじゃねぇ」
「はぁ~い‥‥あれ?」
商店街を歩いていると、ノアが不思議そうに店先を見ていた。
「どうした?」
「前は、ここに「ふわふわかき氷」の看板があったのに‥‥なくなっちゃったんだ」
「ああ、昼間はまだ少し暑いが、随分と涼しくなって来たからな」
「そっか‥‥」
少し寂しそうにしているノアを見て、伊織がくすりと笑う。
「また腹壊して、トイレから出て来れなくなるぞ」
「ちょ! それは言わないでよ、伊織! まだ根に持ってるの⁉」
顔を赤くして抗議するノア。
「日本のご飯ってヘルシーだし、つい「あと一口」がとまらないんだよね」
「ヘルシーつったって、限度があんだろ。それに、脂っこいもんもあるんだから、調子にのると腹が‥‥」
「う‥‥だ、大丈夫! ちゃんと腹筋してるし! 柔らかいのは仕様だよ!ぷにってない!」
「‥‥知ってる」
少し照れたようにそっぽを向く伊織の耳が、少しだけ赤い。
「‥‥もしかして、思い出した? お風呂での‥‥」
ニヤリと口角を上げて、伊織の耳元で囁くノア。そのノアの額を掴み、押しのける伊織。
「うるせぇ! 顔が近ぇって、何度言わせんだ」
「あはは、伊織はシャイだなぁ」
定食屋でご飯を食べた後、川辺を散歩しながら帰る二人。ふと空を見上げたノアが、懐かしそうに目を細めた。
「花火、綺麗だったね」
「ん? あぁ、祭りの時のか。綺麗だったな」
「また‥‥見れるかな‥‥」
「来年も、また見にくればいいだろ?」
「うん‥‥そうだね」
遠くを見ながらほほ笑むノアに、少し陰を見る伊織。
「ノア、お前――」
「伊織、あれ何⁉」
伊織が言いかけた瞬間、ノアが大きな声で指をさす。その方向を見ると、石焼き芋の旗を付けたトラックがゆっくりと走っていた。
「へえ、焼き芋か。もう出てんだな」
「い~しや~いも~」
ノアがスピーカーから流れて来る台詞を真似る。
「「いしやいも」じゃ、「き」が一個足んねぇぞ。いしやきいも、だ」
「石で芋を焼くの? ステーキみたいに?」
「説明するより、見た方が早いな」
二人でトラックに近付き、焼き芋を購入する。熱せられた小石の中から取り出された芋に感動するノア。
「えへへ、おまけしてもらっちゃった」
「良かったな」
伊織が紙袋の中から小さめの芋を取り出し、半分に割る。
「わぁ、甘くていい匂い!」
「ほら」
半分をノアに差し出す。
「歩きながら食べて良いの?」
「こういうのは、熱い内に食べた方が美味いんだよ」
芋を受け取ったノアが一口齧ると、目を輝かせた。それを見て、伊織も一口齧る。
「めっちゃ美味しい! え、これ、芋だよね⁉」
「真冬に食べた方が美味いが‥‥ん、甘いな」
唇を舐めた後、自分の親指を一舐めした伊織を見て、ノアの喉が鳴る。
「美味いんだが、喉乾くんだよなぁ」
「うん、直ぐ帰ろう!」
残りの芋を口に放り込み、速足になるノア。
「お、おい、急にどうしたんだよ」
急いで家に戻り、伊織が玄関の戸を開ける。伊織を押し込むように入ったノアが、後ろ手に鍵をかけた。
「まったく‥‥トイレでも我慢してた‥んんっ」
草履を脱ぎかけていた伊織の肩を掴んで壁に押し付け、そのまま唇が重なった。押し付けるようなキスではなく、それでいて逃がすつもりもない、熱を帯びた深いキス。
舌先が絡み、焼き芋の残り香が混ざり合う。
「んっ‥‥バカ、焼き芋の味‥‥すんだろ‥」
息も絶え絶えに文句を言う伊織に、ノアは少し笑った。
「うん、だから‥‥甘くて、もっと欲しくなる」
伊織の顎をそっと持ち上げ、今度は角度を変えて深く口づける。
「‥‥っん、ふぅ‥‥」
壁際でほんろうされながらも、伊織は力を抜けずにいる。
「お外ではいい子でいたでしょう‥‥? ご褒美、欲しいな」
ノアの視線に、伊織の腰がぞくりと震える。二人はもつれ合うように玄関から上がると、伊織の部屋へとなだれ込む。伊織の低い声と、掠れた吐息だけが残った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
週一更新予定です。続きも楽しんでいただけると嬉しいです。
風呂場での一件以降、ノアの押しが増して来ているように伊織は感じていた。ノアを抱いていても、時折見せる視線にドキリとする。まるで、大きな犬に押し倒されるウサギの様に、こちらが獲物になったような―――
「ぁっ、はぁ‥‥伊織?」
布団の上に横たわり、荒く息をするノアが、はにかむように伊織を見上げる。
「何でもない」
ぞくりと腰が震え、ノアを追い詰めていく。
「ぁっ、あぁっ!」
お互いの熱を吐き出し、布団に横たわり荒い息を整える。
「伊織‥‥」
蔽いかぶさって来たノアを見上げる伊織。見下ろすノアの視線に、鼓動が跳ねた。
「どうした? まだ足りなかったか?」
頬に触れる伊織の手にノアの手が重なり、頬を摺り寄せる。
「ううん‥‥」
何か言いたげにしながら、言葉を飲み込むように伊織に口づけをするノア。その日はそれ以上何も聞けず、二人で眠りについた。
暑さも和らぎ、朝夕の風が少し冷たくなって来た頃。扇風機の前でだらけていたノアが、ふとした瞬間に遠くを見つめているような顔をするようになった。視線の先には、今までよりも少し高くなった空が広がっていた。
「ノア」
「‥‥何?伊織」
一拍置いて振り返るノアの顔は、いつもの様に人懐っこい笑顔だった。
「昼飯、偶には外で食うか?」
「珍しいね。 うん、行こう!」
二人揃って家を出る。外にいるのに、まるで家の中のような距離感。伊織がふと身を引くと、ノアがキョトンとした顔で覗き込んだ。
「‥‥近い」
ノアの顔を押しのけようとする伊織。
「いつもと同じだよ? もしかして、照れてる?」
「違う」
伊織の手を取ろうとしたノアの手を避けるように、着物の袖に手をしまい込む。
「アメリカじゃどうか知らないが、ここは日本だ。外で引っ付くんじゃねぇ」
「はぁ~い‥‥あれ?」
商店街を歩いていると、ノアが不思議そうに店先を見ていた。
「どうした?」
「前は、ここに「ふわふわかき氷」の看板があったのに‥‥なくなっちゃったんだ」
「ああ、昼間はまだ少し暑いが、随分と涼しくなって来たからな」
「そっか‥‥」
少し寂しそうにしているノアを見て、伊織がくすりと笑う。
「また腹壊して、トイレから出て来れなくなるぞ」
「ちょ! それは言わないでよ、伊織! まだ根に持ってるの⁉」
顔を赤くして抗議するノア。
「日本のご飯ってヘルシーだし、つい「あと一口」がとまらないんだよね」
「ヘルシーつったって、限度があんだろ。それに、脂っこいもんもあるんだから、調子にのると腹が‥‥」
「う‥‥だ、大丈夫! ちゃんと腹筋してるし! 柔らかいのは仕様だよ!ぷにってない!」
「‥‥知ってる」
少し照れたようにそっぽを向く伊織の耳が、少しだけ赤い。
「‥‥もしかして、思い出した? お風呂での‥‥」
ニヤリと口角を上げて、伊織の耳元で囁くノア。そのノアの額を掴み、押しのける伊織。
「うるせぇ! 顔が近ぇって、何度言わせんだ」
「あはは、伊織はシャイだなぁ」
定食屋でご飯を食べた後、川辺を散歩しながら帰る二人。ふと空を見上げたノアが、懐かしそうに目を細めた。
「花火、綺麗だったね」
「ん? あぁ、祭りの時のか。綺麗だったな」
「また‥‥見れるかな‥‥」
「来年も、また見にくればいいだろ?」
「うん‥‥そうだね」
遠くを見ながらほほ笑むノアに、少し陰を見る伊織。
「ノア、お前――」
「伊織、あれ何⁉」
伊織が言いかけた瞬間、ノアが大きな声で指をさす。その方向を見ると、石焼き芋の旗を付けたトラックがゆっくりと走っていた。
「へえ、焼き芋か。もう出てんだな」
「い~しや~いも~」
ノアがスピーカーから流れて来る台詞を真似る。
「「いしやいも」じゃ、「き」が一個足んねぇぞ。いしやきいも、だ」
「石で芋を焼くの? ステーキみたいに?」
「説明するより、見た方が早いな」
二人でトラックに近付き、焼き芋を購入する。熱せられた小石の中から取り出された芋に感動するノア。
「えへへ、おまけしてもらっちゃった」
「良かったな」
伊織が紙袋の中から小さめの芋を取り出し、半分に割る。
「わぁ、甘くていい匂い!」
「ほら」
半分をノアに差し出す。
「歩きながら食べて良いの?」
「こういうのは、熱い内に食べた方が美味いんだよ」
芋を受け取ったノアが一口齧ると、目を輝かせた。それを見て、伊織も一口齧る。
「めっちゃ美味しい! え、これ、芋だよね⁉」
「真冬に食べた方が美味いが‥‥ん、甘いな」
唇を舐めた後、自分の親指を一舐めした伊織を見て、ノアの喉が鳴る。
「美味いんだが、喉乾くんだよなぁ」
「うん、直ぐ帰ろう!」
残りの芋を口に放り込み、速足になるノア。
「お、おい、急にどうしたんだよ」
急いで家に戻り、伊織が玄関の戸を開ける。伊織を押し込むように入ったノアが、後ろ手に鍵をかけた。
「まったく‥‥トイレでも我慢してた‥んんっ」
草履を脱ぎかけていた伊織の肩を掴んで壁に押し付け、そのまま唇が重なった。押し付けるようなキスではなく、それでいて逃がすつもりもない、熱を帯びた深いキス。
舌先が絡み、焼き芋の残り香が混ざり合う。
「んっ‥‥バカ、焼き芋の味‥‥すんだろ‥」
息も絶え絶えに文句を言う伊織に、ノアは少し笑った。
「うん、だから‥‥甘くて、もっと欲しくなる」
伊織の顎をそっと持ち上げ、今度は角度を変えて深く口づける。
「‥‥っん、ふぅ‥‥」
壁際でほんろうされながらも、伊織は力を抜けずにいる。
「お外ではいい子でいたでしょう‥‥? ご褒美、欲しいな」
ノアの視線に、伊織の腰がぞくりと震える。二人はもつれ合うように玄関から上がると、伊織の部屋へとなだれ込む。伊織の低い声と、掠れた吐息だけが残った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
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