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第一章
1-3 あなただけに送る求人票
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ドクドクと全身に緊張が回っていく感覚が、若い頃の記憶を呼び覚ますようだった。ふっと短く熱を吐いてから、ハサミで慎重に端っこの一ミリカットを目指す。筒状になった封筒を覗き込むと、中に入っているのは紙一枚のようだ。指先に触れる厚手のそれを引っ張り出すと、ふわっと花が咲くように自然と開いた。
『あなたに贈る求人票』
まず目に飛び込んできたその文字の『あなた』とは、私で間違いないのか不安でしかない。
『職種: 日常の案内人』
ほう・・・?
『勤務地: ご連絡時にお伝えします。
勤務時間: 貴女のプライベートを揺るがさない範囲で調整可能(流動的な時間感覚が求められます)。』
なんとも曖昧でわかりづらい求人内容に自然と傾く首が止まらない。ここは一旦冷静に、落ち着いてレモンサワーを大きくひとくち分・・・流し込む。よし、続きだ。
『仕事内容:
普通のことを普通に、何事もなく行うこと。
生活の中で見落としがちな小さな喜びや驚きを見つけ出すこと。
一般的な感性を共有してもらうこと。
募集要項:
年齢: 25歳以上(特別な経験や資格は必要ありませんが、普通の視点を持っている方歓迎)。
必要スキル: 特殊な才能や知識は一切不問。むしろ「普通」であることが求められます。 』
なんだか冒頭の『あなた』が私であると感じてしまう。どう考えても怪しい求人だと思う。きっと私じゃなくても誰だって、怪しいし絶対に関わらないべきだと感じると思う。私だってそう思っている。
『給与:普通の生活は保障されます(具体的な金額は秘密ですが、心の余裕を持たせるものです)。
福利厚生:
完備。食事付(内容は日々変化しますが、特別な味わいを楽しめます)。
時折、特別な「普通の宴」に招待されます(参加は自由ですが、何が起こるかはお楽しみ)。
応募方法: この求人に興味がある方は、下記QRコードを読み取り『氏名』と『面接日時』をお送りください。 』
恥ずかしながら私の毎月の給料は手取りで十五万ほど。同じくらいの年齢で社会人を経験してきた人であれば、おそらく倍近くもらっている人が大半だと思う。しかし責任から逃げてストレスから逃げた結果、フリーターという道を選んだのは私自身だ。
もちろん不満なんかない、と言ったら嘘になる。きっとこれまでの三十二年間でチャンスの糸はたくさんあったんだろう。けれどそれがあまりにも細くて不安で、立ち止まって考えたかったのに人の波に流されてしまいここまできた。なんて、何も掴めなかった負け犬の言い訳でしかないんだけれど。
改めて求人を上から下まで眺めてみて、思うことがある。私に捨てられない何かがあるだろうか。どう考えても今よりも給料も待遇も良くなる。もしだめだったら元の生活に戻ればいい。この『チャンスの糸』は私にとってリスクがあるだろうか。
求人に視線を落とす。丁寧に折られた紙と心を奪われた封筒。指先に当たるのはただの紙のはずなのに、なんだか温かみを感じる。テーブルに置いていたスマホを握り、深呼吸。
「QRが読み込めたら信じてすすむ。読み込めなかったら悪戯だと思って・・・、諦める」
大昔にした花びら占いみたいに、自分に言い聞かせる。きっと悪戯か詐欺か何かで、読み込んだら変なサイトに飛んでバグが入ってきてピーピー音が鳴って大変なことになるんだ。これがチャンスの糸なわけがないんだ。
そう思うのに期待で高鳴る胸が、まるで純粋無垢に自分が『主役』の人生になるんだと信じていたあの頃の私が背中を押すの。
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あなただけに送る求人票
職種: 日常の案内人
勤務地: ご連絡時にお伝えします。
勤務時間: 貴女のプライベートを揺るがさない範囲で調整可能(流動的な時間感覚が求められます)。
仕事内容:
・普通のことを普通に、何事もなく行うこと。
・生活の中で見落としがちな小さな喜びや驚きを見つけ出すこと。
・奇妙な出来事に遭遇した際は、落ち着いて普通を保つことが重要です。
募集要項:
・年齢: 25歳以上(特別な経験や資格は必要ありませんが、普通じゃない視点を持っている方歓迎)。
・必要スキル: 特殊な才能や知識は一切不問。むしろ「普通」であることが求められます。
給与: 生活は保障されます(具体的な金額は秘密ですが、心の余裕を持たせるものです)。
福利厚生:
・完備。食事付(内容は日々変化しますが、特別な味わいを楽しめます)。
・時折、特別な「普通の宴」に招待されます(参加は自由ですが、何が起こるかはお楽しみ)。
応募方法: この求人に興味がある方は、下記QRコードを読み取り『氏名』と『面接日時』をお送りください。
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『あなたに贈る求人票』
まず目に飛び込んできたその文字の『あなた』とは、私で間違いないのか不安でしかない。
『職種: 日常の案内人』
ほう・・・?
『勤務地: ご連絡時にお伝えします。
勤務時間: 貴女のプライベートを揺るがさない範囲で調整可能(流動的な時間感覚が求められます)。』
なんとも曖昧でわかりづらい求人内容に自然と傾く首が止まらない。ここは一旦冷静に、落ち着いてレモンサワーを大きくひとくち分・・・流し込む。よし、続きだ。
『仕事内容:
普通のことを普通に、何事もなく行うこと。
生活の中で見落としがちな小さな喜びや驚きを見つけ出すこと。
一般的な感性を共有してもらうこと。
募集要項:
年齢: 25歳以上(特別な経験や資格は必要ありませんが、普通の視点を持っている方歓迎)。
必要スキル: 特殊な才能や知識は一切不問。むしろ「普通」であることが求められます。 』
なんだか冒頭の『あなた』が私であると感じてしまう。どう考えても怪しい求人だと思う。きっと私じゃなくても誰だって、怪しいし絶対に関わらないべきだと感じると思う。私だってそう思っている。
『給与:普通の生活は保障されます(具体的な金額は秘密ですが、心の余裕を持たせるものです)。
福利厚生:
完備。食事付(内容は日々変化しますが、特別な味わいを楽しめます)。
時折、特別な「普通の宴」に招待されます(参加は自由ですが、何が起こるかはお楽しみ)。
応募方法: この求人に興味がある方は、下記QRコードを読み取り『氏名』と『面接日時』をお送りください。 』
恥ずかしながら私の毎月の給料は手取りで十五万ほど。同じくらいの年齢で社会人を経験してきた人であれば、おそらく倍近くもらっている人が大半だと思う。しかし責任から逃げてストレスから逃げた結果、フリーターという道を選んだのは私自身だ。
もちろん不満なんかない、と言ったら嘘になる。きっとこれまでの三十二年間でチャンスの糸はたくさんあったんだろう。けれどそれがあまりにも細くて不安で、立ち止まって考えたかったのに人の波に流されてしまいここまできた。なんて、何も掴めなかった負け犬の言い訳でしかないんだけれど。
改めて求人を上から下まで眺めてみて、思うことがある。私に捨てられない何かがあるだろうか。どう考えても今よりも給料も待遇も良くなる。もしだめだったら元の生活に戻ればいい。この『チャンスの糸』は私にとってリスクがあるだろうか。
求人に視線を落とす。丁寧に折られた紙と心を奪われた封筒。指先に当たるのはただの紙のはずなのに、なんだか温かみを感じる。テーブルに置いていたスマホを握り、深呼吸。
「QRが読み込めたら信じてすすむ。読み込めなかったら悪戯だと思って・・・、諦める」
大昔にした花びら占いみたいに、自分に言い聞かせる。きっと悪戯か詐欺か何かで、読み込んだら変なサイトに飛んでバグが入ってきてピーピー音が鳴って大変なことになるんだ。これがチャンスの糸なわけがないんだ。
そう思うのに期待で高鳴る胸が、まるで純粋無垢に自分が『主役』の人生になるんだと信じていたあの頃の私が背中を押すの。
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職種: 日常の案内人
勤務地: ご連絡時にお伝えします。
勤務時間: 貴女のプライベートを揺るがさない範囲で調整可能(流動的な時間感覚が求められます)。
仕事内容:
・普通のことを普通に、何事もなく行うこと。
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・年齢: 25歳以上(特別な経験や資格は必要ありませんが、普通じゃない視点を持っている方歓迎)。
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給与: 生活は保障されます(具体的な金額は秘密ですが、心の余裕を持たせるものです)。
福利厚生:
・完備。食事付(内容は日々変化しますが、特別な味わいを楽しめます)。
・時折、特別な「普通の宴」に招待されます(参加は自由ですが、何が起こるかはお楽しみ)。
応募方法: この求人に興味がある方は、下記QRコードを読み取り『氏名』と『面接日時』をお送りください。
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