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第7章
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しおりを挟む「貴兄、本当に反対なの?」
『わざわざ電話してきて、それか? ___反対に決まっている。女など、くだらん』
「あの人、百合さんって言うんだ。百合って名前なのに、向日葵みたいに笑うんだよ? 僕には・・・、あの人が悪い人には思えないんだ」
『・・・』
「娘がいるって言ってた。本当に偶然なんだけど、うちで働いているみたいだよ。水谷沙也加ってなま『切るぞ』___あ、うん」
静かなリビングで切られた電話の音が響いていた。部屋は明るくて暖かい。けれど匠の心は冷えて、凍えるように寒かった。
波乱の結婚宣言から三か月程が経過していた。お父さんたちは長期戦を覚悟していたようで、あれ以来百合さんはうちに来ていない。
「え? なんでそのことを知っているんですか? え? 兄さんが・・・、ええ、わかりました。俺がなんとかしますから、___泣かないで」
リビングの向こうから司兄の声が聞こえていた。誰かと話しているようだが、受話器の向こう側は容易に想像出来た。司兄があんなに甘い声を出す相手は藤本さんしかいない。
「匠・・・、行こう」
電話を終えた司兄がリビングに入ってきた。もちろん僕は何も聞いてないフリをして立ち上がる。今日は、貴兄が話があると言って僕らを呼び出していた。
車に乗り込むと、司兄は苛立った様子で膝を揺らしていた。触らぬ神に祟りなし。見ざる聞かざる言わざるを決め込もうと、窓から外を眺めた。
「___先に話しておく。兄さんは百合さんの娘を誘拐したそうだ」
「えっ? なんでそんな事に・・・」
「さあ、わからない。ただ、あの時以来藤本さんや探偵を使って、その人の近辺を探り監視していたらしい。その・・・、藤本さんが言うには、兄さんがその人を見る目が何かおかしかったらしい。一体、何を考えているんだ」
司兄は酷く怒っているようでいて、悲しい目をしていた。僕は司兄が藤本さんを好きなことを知っていた。貴兄が泣かせていた藤本さんに始めは正義感から守っていたのだろうが、今は違っていた。僕にはそんな風に人を愛すなんて事は理解できなかった。
これまでの事を鑑みると、藤本さんはその人・・、沙也加さんに嫉妬しているのだろう。人に執着しない貴兄が長い間興味を示している相手に。___沙也加さんをどうにかしろとでも言われたのかな。司兄も馬鹿だな。・・・一人を本気で愛するなんて。
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