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第8章
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しおりを挟む優しく背中を押されて入り口の方を見ると、そこにはスーツをすらりと着こなした青年が立っていた。前までは自然なまま下ろしていた黒髪が、綺麗にセットされて凄くカッコよかった。手を差し伸べられて、無意識のまま駆け寄っていた。
「ほら、転ばないようにね。___変わらないね、沙也加さんは」
優しく微笑む顔は少し大人びたみたいだ。喉の奥のほうがぎゅっと締め付けれられるような感覚があり、涙が零れるギリギリだった。鼻を赤くした沙也加を見て、くしゃりと困ったように笑う。
「泣かないで。せっかく綺麗なんだ、見たのが俺だけだなんてもったいないですよ? ほら」
「だって、___げ、元気でしたか? 海外は、つらくっ、ないで_すか?」
司くんにハンカチで目のきわを拭かれると、尚更涙が溢れてくる。”あぁあ”と残念そうに言う司くんからは変わらぬバニラの匂いがした。
「俺は元気にやってますよ。さあ、沙也加さん、会場までエスコートします」
司は背筋を伸ばして肘を綺麗に九十度に折り曲げると、内肘に沙也加の手を乗せた。子供のように瞳を潤ませながら、慣れないヒールで司につかまりながら進んだ。
開けた場所に着くと、大きく扉が開かれた向こう側には多くの人がお酒を手にして会話を楽しんでいた。司に促されて足を踏み入れると、セレブリティな雰囲気に気圧されて足取りが重くなる。沙也加はパーティなんて初めてだった。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」
「あ、りがとうございます。今日って「司、こっちよ」
向こうから駆け寄ってくる人を見て心臓が跳ねた。また、会う事があるとは思わなかった。ぐっとドレスを握り締める。
「沙也加さん・・・彼女はもう大丈夫だよ」
司の隣に到着したその人は、優しく申し訳なさそうに微笑みかけてきた。
「水谷さん、久しぶりね。その・・・兎に角、何から何まで全て私が悪かったわ。本当にごめんなさい」
毒気を抜かれた沙也加は呆然としていた。いつも刺々しかった雰囲気は無くなり、マットなオレンジのルージュを付けた藤本はとても美しかった。
「私、凄く必死だった。彼に振り向いて貰うために、たくさんの罪を犯したわ。___でも、もう、無理しなくていいよって、ね?」
「あ、__うん」
藤本さんに笑いかけられた司くんは照れているようだった。二人を取り巻く雰囲気は甘く、お似合いだと思った。
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