経理将校と5年戦争

翔鳳

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入隊前の京都旅行

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「もうあと一週間で自衛官かぁ。」

 卒業論文を提出してから、完全にお休みモードに入っていたが、入隊日から逆算して、残りの日付を見て余裕を持っていた。
 だけど、あっという間に日付は過ぎていき、気が付けばもうあと一週間で入隊になっていた。

「そんなこと言うなよ、ショウホウ。俺だって寂しいんやぞ。」

 大親友のヨシタケが、そんなことを言ってくれる。ヨシタケとは最近狂ったように遊んでいて、一週間のうち、6日は一人暮らしの我が家に来て遊んでいる。最初はふざけあって、残り2か月もあるから余裕とか、まだ1か月あるから余裕とか言っていたけど、もう1週間しか残っていない。

「ヨシタケさぁ、もしかしたら死ぬかも知れんもんな。なんかあったら、真っ先に駆け付けて戦わなあかんところやもんな。でも市役所とかでも、災害とかあったら真っ先に駆け付けて頑張ってはるからな、そういう意味では市役所とも変わらんかもしれん。」

「そういう意味では変わらんかもしれんけど、ベクトルが違うやろ。災害と敵は全然ちゃうで、一緒にしたらあかんわ。」

「俺よりもヨシタケの方が自衛隊を詳しいんとちゃうか。」

 つい笑ってしまう。自衛隊の一般幹部候補生に受かったくせに、自衛隊のことを全然知らないのだ。
 そもそも、なんで受験したのかというと色々理由があるが

1 やりたい仕事がなかったから。

2 T大やW稲田大、K大といった、日本でもレベルの高い大学を出ている人達も受験していると聞いて、Dランの自分が受けてみたらどうなるのだろうかという肝試しで受けた。
  せっかく就職する前に、合法的に色々と体験できるなら、やってみたかったのだ。

3 恐れを知らぬような面接の受け方をしたら、まさか受かっちゃったし、給料もいいので。

4 他の就職活動がめんどくさい(一番の理由かもしれない)

 こんないい加減な理由で入隊するのだ、まともに調べているはずがない。

「お前さ、そんなんで大丈夫か、今更やけども違うところに就職しようや。」

「もう遅いて、3月中旬過ぎとるんやぞ。それに、あかんかったらあかんかったで、辞めたらええんやって。その時はバイトしながらでも就活するよ。」

 ヨシタケは諦めてしまったような、本当は行って欲しくないんだけどなとブツブツ言いながら不貞腐れていた。

「まあ、もうええやんか。そんなことより、今日は何しよか。水族館でも行こか、それとも、【そうだ、京都へ行こう】をするか。」

「そういえば京都行ってないな、清水寺でも行くか。」

 ヨシタケと遊べる日がもう少なくなってしまっている。いつもヨシタケが自分の家から出て行って、見送るんだけども、悲しげな歌を歌いながら本気で泣かせに行っている悪い自分がいた。
 2か月前から毎日のように繰り返していたから、歌が自然と上手くなっていき、そして残り遊べる期間が短くなってしまっていることから、最近威力が増しているらしい。今日こそ泣かせてやる。
   ・
   ・
   ・
「最後の京都旅行・・・」

 聞こえるか聞こえないかの声でボソッとつぶやいてやる。そうすると、

「やめろっ!!」

ヨシタケは必ずツッコんでくれる。信用しているから安心してボケることが出来る信頼関係が本当に心地よい。こんな幸せな毎日が過ぎていけばいいのにな。

「ヨシタケ見て見て、あと2回しか寄ることのない京都駅やで。」

「やめろっ、最後のとか回数を入れるのは止めるんだ。」

「ラスト清水寺・・・」

「ラストもやめろ!!」

 こんなことを言いあいながら、京都駅にたどり着く。随分と人が多い場所だ、観光地だから当然だな。」

「ショウホウさ、清水寺の行き方知ってんの。」

 そう言えば勢いで来たから、ろくに調べてないわ。

「大丈夫だって、看板見るのと、坂道になっているお土産屋さんがあったら、その坂道を上り続けていたら清水寺だよ。どうせお土産道の先には清水寺があるんだよ、そうに決まっている。」

「あまりにも暴論やけど、面白そうやからそうするわ。」

 方向音痴2人が、京都の町を適当に散策する。京都の街並みはやはり綺麗だ、梅田の町も好きだが、あれはビジネス街だし、ホワイティ梅田は迷宮だし、ぶっちゃけヨドバシカメラにしか行かない。あの目の前にヨドバシカメラがあるにもかかわらず、絶妙にたどり着かない道順は、悲しみを覚える。

 歩いていると、大きな川が見えてきた。京都だからとりあえず鴨川なんだろう(適当)と思っていたら、本当に鴨川だった。川を渡る橋ですらも美しさを感じる。本当に観光地なんだなと改めて思う。

「おいヨシタケ、あの交番見て見ろよ、大仏前交番って書いてあるぞ。」

「うわっほんまや、でも大仏が見当たらん!!」

「名前だけやん!!」

 知能指数の低い22歳の男二人が、文化的な町を闊歩する情けない姿があった、というか俺だった。
 こんなバカなことを言いながら、適当に歩いていると、やはりお土産道についた。カラフルな八つ橋や、抹茶祭りになっている。明太子は福岡では実はあまり食べないみたいな話を聞いたことがあるけども、京都の人は意外と抹茶を飲まなかったり、八つ橋を食べなかったりするかもしれんね。

「帰りにでも買うか、それとも違うもんでも買うか?」

「う~ん、せっかくやしおじいちゃんとおばあちゃんにお土産買ってあげたいな。それにそんな金ないから、いっぱい買えんしな。それにしても、八つ橋の味えらい多いな。ニッキ味ってあれやろ、シナモンのことやろ。
 シナモンなぁ・・・あれ苦手やねん。」

「ショウホウお前、人気って書いてあんねんぞ。そんな言ったらあかん。」

「シナモンがな、芳香剤で売っていたら納得できるけど、口に入れる物とは思えんのよ。あれは自分の中ではラベンダーと同類よ。もしラベンダーの香りが口の中でしてみ、気持ち悪いやろ。鼻の中から入るから心地いいのであって、口から入るのは受け付けられんわ。シナモンロールなんて、芳香剤ロールやぞ。芳香剤を巻き込んでロールにして、練りこんであるんやぞ。」

「急なシナモンディスりやめろぉ!!」

 軽く京都の人から怒られそうなことを言いながら、町を闊歩する。そして気が付いたら、清水寺にたどり着いてしまった。

「おっ、清水寺って金取るんやな。」

「せやねん、ずいぶんと前に弟が高校の課題で必要やって言うから連れてきたことあるやけど、金かかるって知って、入り口前で止まってな。それでどうすんねんって聞いても中に入ろうともせえへんし、結局休憩所でゲームして時間潰して帰ったわ。
 だから何気に2回目なんやけども、中に入るのは初めてかもしれん。」

 中に入ると、金を取るだけあって・・・金を取るだけあって綺麗だ。清掃も行き届いているし、建物たちも雰囲気を感じるいい場所だ。

「ヨシタケ、やっぱり綺麗やわ。見てみ、またひとり、またひとり入ってきたやろ。」

「おん?そうやな、それがどうした。」

「あれだけで宗教法人で非課税やから、ストレート8,000円や。坊主丸儲けってやつや。」

「おう、一人当たり400円で数えんのやめーや。」

 中を歩いていると、あの場所にたどり着いた。今年の漢字1字を発表するところやんか。

「ヨシタケ、たどり着いてしまったぞ。今年の漢字を発表する場所や。漢字1文字発表するだけで、見に来た人から400円をむしり取るシステムや。」

「言い方ぁ!!」

「それにあのお坊さん、最初は丁寧に書いていたはずやのに、注目され始めてから書く時の動作が少しずつ大げさになっている気がするぞ。完全にエンターテインメントやな。それに、絶対練習しているやろ。」

「まあ、それが風流ってことやろ。まああれがないと寂しいからな。」

「じゃあ、ここで、俺が今年の漢字やったるよ。」

「おう、見たるわ。」

 お坊さんの真似をして、大げさに動作を加えながらエア習字をやる。ヨシタケは見ていてくれているが、何の時なのかは分からない様だ。

「んで、結局は何を書いたんや。」

「離れるの【離】です!!」

「やめろっ!!いや、本気で悲しくなるから。」

「今日食べるしば漬けは、少し塩味が強いでありんす。」

「色々と混じっているなぁ。」

 ここが清水の舞台かぁとか言いながら、やはり散策をする。散策は楽しい、400円の価値があるからな。
 なんか道順に進んでいると、水がじょろじょろと流れていて、それを飲むためにか、人が多く並んでいる。

「ヨシタケ見て見ろよ、どうやらここは深刻な水不足のようだ。」

「なんでや?」

「あれ見て見ろよ、水を少し飲むためにあんなに多くの人が並んでいるんだ、きっとここは水不足で、枯渇しているんだよ。」

「ちゃうて、あれはご利益があるから飲んでるんよ。行くか?」

「行かんよ、あほらしい。奈良の東大寺の柱すらカッコつけてくぐらなかった男が、今更ご利益なんてもらいに行きたいなんて言うのはなんというか・・・おこがましいよ。
 あんまり運否天賦に作用されないように行きたいもんやね。」

「でもお前さ、高校受験の時に北野天満宮の鉛筆使ってるし、お前の実家、一億円札を逆さまに飾ってるやんけ、ええ加減やのぉ。」

「本音を言うと、並ぶのめんどくさい。」

「最初からそう言え・・・」

 普通に論破されてしまったが、とりあえずは清水寺を満喫できた。そして適当にまた散策しながら、京都駅へと帰る。気が付くと空が暗くなってきた。もうこれで一日が終わってしまった、あっという間だ。
 帰りに、祖父母へのお土産としてしば漬けだけ買った。喜んでくれると嬉しいな。母子家庭で、祖父母宅がよく晩御飯をご馳走してくれていた。だからお土産とかあったら、よく祖父母に持って行っていた。その残りでお母さんに上げていた。自分のために働いてくれているのに、今思えば、親不孝者だ。

「なあヨシタケ、あと今日終わってあと6日になるけどさ、最終日は準備とかいろいろしないといけないと思うねん。だから実質あと5日やな。」

「寂しいな、ホンマにあっという間やん。2か月前から思っているけどホンマにあっという間やわ。」

「ちなみに、毎日12時間遊んでいると計算したら、あと60時間でお別れや。」

「うわっ・・・リアル。時間計算はちょっときついわ。」

「ちなみに、今日帰る時間を含めると、あと62時間です。あと、これを自分で言いながら、自分で傷ついています。」

「なら言うのをやめろぉ!!」

「でもネタとして面白いので継続します。自らの身を削ってでもボケる。これぞ自虐ギャグというやつやな。たぶん意味間違っているけど。」

「確かにあっているかわからんな。」

「でも、明日から時報のように、1時間経つと残りの時間をアナウンスしてあげるね。」

「グロいって、心をえぐり取るようなことしてくるな!!」

 電車の移動時間を長いと思ったことは無い。いや、一人きりだといつも時間が長いが、2人で会話しながら移動していると、あっという間に時間が過ぎる。だけど、今日ぐらいは長く感じて欲しかった。



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