新人神様のまったり天界生活

源 玄輝

文字の大きさ
63 / 150

月光族の村

しおりを挟む
今日は月光族の村の方を観察する。

月光族の村は港町から西に少し行ったところにあるのどかな村だ。

港町の付近には狩猟に向いた森があるが、この辺りは広大な平地しかないので酪農が主な産業になっているようだ。

そのせいもあるのか人馬種をはじめ草食系の亜人種が港町より多い気がする。

特にここでは畜産が盛んで特産品の乳製品、チーズやバター等保存がきく物は結構な高値で取引されている。

そしてここにはそれ以外にもう一つ目を引く産物がある。

牛乳である。

ただの牛乳なら他の地域にもいる牛から搾ったものが流通しているが、ここのは、その、なんだ、牛人種の牛乳なのである。

つまり牛系の亜人種の女性の母乳だ。

最初これを売っているのを見たときは目を疑った。

オアシスの街で牛人種が乳を有効利用しているのは遠くから見たことがあったが、ここではある程度量が確保できるので一つの産物になっているのだ。

ちなみにどのようにしてるのか気になって見ようとしたら案の定望遠状態にされてしまった。くそぅ。

ただ、心配していた非人道的な方法ではないようなので安心した。

牛人の女性の一日を追ってみたが、朝起きる、顔を洗う、乳を搾る、朝食を食べるといったような感じで日常的に行われる作業の一つとなっていた。

詳しく牛人種の女性について調べると、子供が産める年齢になると自然と出てしまい、毎日出さないと体調を崩してしまうそうだ。

それで毎日廃棄していたのに目を付けた旅人が助言をしたのがきっかけで一つの産物になったそうな。

そしてこの助言をした旅人というのが恐らく勇者だろう。

何故そう思うかと言えば、ここで売ってる瓶の形が明らかに俺が知っている形をしていたからだ。

この助言以降村の人達の牛人の乳への見方が変わり、それまで他の人達と同じ酪農作業をしていたのが見直され、今では負担が掛からない生活をしているようだ。

また、これを機に亜人種でも向き不向きがあると言う事から全体の働き方の見直しがされ、村全体が安定したらしい。

これも勇者が行った功績の一つなんだろうな。

どういう意図で助言をしたかは不明だが、良い結果を生み出しているならそれでいいんだろう。

正直言えば俺もこの牛乳は気になるし飲んでみたい。

美味しそうに、特に男子が満面の笑みで飲んでる姿を見ると尚更だ。

しかし残念ながら下界とこちらで物のやり取りは出来ないので眺めてるしかない。口惜しや。

それにこれ以上これについて観察を続けるとサチの機嫌が悪くなりそうなので別の部分へ視点を移そう。

この村の主な交流は東の港町の他に南方面にあるようだ。

村から更に西に行った和人族の城下町とは余り交流がなく、たまに和人族が訪れる程度。

和人族との交流が最低限というのは和人族側の境遇を考えると仕方がない。

それより南側に何があるかが気になるな。

うーん、この村も信者が増える気配は当分無さそうだし、しばらくは保留かなぁ。



今日は造島師の浮遊島列島に来ている。

造島師に何か新たに依頼をしに来たというわけではなく、ヨルハネキシの爺さんの様子を見に来たのだ。

先日の大収穫祭の時に若い造島師達が最近熱心に色々作ってるという話をしていたのでちょっと気になっていた。

ブラブラと小島を見てまわってから塔のある中央の島へ。

建物の中に入ると受付口にレオニーナが居た。

「いらっしゃい、ソウ様、サチナリア様」

最初に来た時より口調が砕けたものになっているが彼女だとそれが逆に親しみを感じて嬉しくなる。

「やあ、レオニーナ」

「こんにちは」

「ジジイなら今風呂に入ってるから少し待ってください」

ほう、やはり風呂を作ったのか。

「わかった。最近どうだ?」

ヨルハネキシの事をジジイと呼ぶ事も気にしないで近況を聞く。

「そうっすね、若い連中が農園によく行くようになりましたね」

「あぁ、向こうで会ったよ」

「聞いてます。なんでも料理を振舞って貰ったとかで感激してましたよ、アイツら」

そうか、喜んで貰えたようでなによりだ。

「レオニーナは農園には行かないのですか?」

「受付の仕事がありますし、若いのが土産を持ってきてくれるので。・・・なんですか?サチナリア様」

「いーえ、そういえばあちらで彼も見ませんでしたしね」

サチが半眼になって口に悪い笑みを浮かべながらそんな事を言い出した。

「ななな、なんのことですか!?ま、まったくさっぱりです!」

それに顔を赤くして反応するレオニーナ。分かりやすいなぁ。

それをみてサチがツヤツヤした満足な笑みを浮かべている。こっちも分かりやすい。

「・・・コホン。それに今農園には情報館の天機人が来てるって話なので、あまり行きたくないんすよ」

「そうなの?」

「あー・・・情報館には、その、姉貴、姉妹機がいるんです」

へー、そうなのか。

俺の知ってる子かな。

「最近やっと固有名がついたって久しぶりに連絡してきましたよ」

「おー」

「アリスって名前を付けてもらえたって大層はしゃいでましたけど」

「アリス!?」

俺とサチの声がはもる。

「な、なんすか二人して」

「いや、アリスって言ったら情報館の総館長じゃないか。レオニーナの姉だったのか」

意外だ。あのアリスとレオニーナが姉妹だったとは。

「ソウ様は情報館に行った事あるんですね」

「うん。名前付けたの俺だし」

「え!?本当っすか!?」

今度はレオニーナが驚いてる。

そして立ち上がって直立から勢い良く礼をしてきた。

「ソウ様!ありがとうございました!」

「あ、うん。どういたしまして?」

「急にどうしたのです?」

俺もサチも急な事についていけてない。

「いや、私の方が姉貴より先に名前を貰ったんで悪いなと思ってたんですよ」

「そうだったのか」

「えぇ。久しぶりに明るい姉貴の声を聞いた気がします」

「よかったじゃないか」

「はい。感謝してます」

心底嬉しそうにしているレオニーナを見ると元々の姉妹の仲は良かったようだ。

ただ、レオニーナが一歩先に進んでしまってたので姉妹間の関係がギクシャクしてしまってたのかもしれないな。

それが解決したとすると一つ疑問が浮かぶ。

「でもそれなら何故関わり合いになろうとしないのですか?」

サチも俺と同じ疑問を持ったようで代わりに聞いてくれた。

「あー・・・姉貴はああ見えて結構過保護なんです。連絡して来た時も鬱陶しい程あれこれ言われましたし、私が農園に現れたと知ったら飛んできそうで」

「ははは、愛されてるな」

最近見た天機人の姉妹の様子がアリスとレオニーナで変換されて微笑ましくなる。

「まぁそのうち時間を見つけてうかれた姉貴を直接見に行きますわ」

「あぁ、それがいい」

過保護なアリスか。

ちょっと見てみたい気もするな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます

わたなべ ゆたか
ファンタジー
高校一年の音無厚使は、夏休みに叔父の手伝いでキッチンカーのバイトをしていた。バイトで隠岐へと渡る途中、同級生の板林精香と出会う。隠岐まで同じ船に乗り合わせた二人だったが、突然に船が沈没し、暗い海の底へと沈んでしまう。 一七年後。異世界への転生を果たした厚使は、クラネス・カーターという名の青年として生きていた。《音声使い》の《力》を得ていたが、危険な仕事から遠ざかるように、ラオンという国で隊商を率いていた。自身も厨房馬車(キッチンカー)で屋台染みた商売をしていたが、とある村でアリオナという少女と出会う。クラネスは家族から蔑まれていたアリオナが、妙に気になってしまい――。異世界転生チート物、ボーイミーツガール風味でお届けします。よろしくお願い致します! 大賞が終わるまでは、後書きなしでアップします。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

処理中です...