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パンとゼリー
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今日は城下町ではなく月光族の港町を観察する事にした。
城下町は信者がいるが、月光族の街にはいないのでいずれ見れなくなってしまう。それなら先に見ておくべきはこちらだと判断。
それに城下町を長く見てるとまた変な気持ちになってしまいそうなので心構えを作る時間も兼ねている。
月光族の建築物は基本的に木造のようで、港町や村のほとんどが木造建築だ。
いや、石材建築も可能なのだが、かれらの生活様式を見ていると木造の方が理に適っていると言った方が正しい。
月光族の多くは亜人種なのだが、人間種と比べると力をはじめ、身体能力が高いのが特徴だ。
そうするとちょっとした喧嘩やいざこざですぐに物を破壊してしまうのだ。
あー、今も酒場の壁を突き破って人が外に飛び出てきてる。
こういう事があちこちで起こるので石材建築だと倒壊した場合の被害も大きいし、補修も大変になる。
そうなってくると木造建築の方が向いており、自然と街の建築様式が出来上がっていったのがわかる。
血気盛んな月光族だが、街の治安が悪いかと言えばそうでもない。
そりゃ暴力沙汰はそこかしこで起きてるが、それは彼らの上下関係の付ける方法なので仕方が無い。
それに必ず一対一の勝負で決着をつけているので必要以上に拡大する事は滅多にないようだ。
治安の悪さというのは他人を不幸に陥れる行為が横行している状態と思っているので、この街のこれは当てはまらないと思っている。
ただ、文化とはいえ頻繁に殴り合いだのしている映像ばかり見ていると気が滅入ってくるので別の場所を見ることにしよう。
ふむ、複数の厳つい男達が一人の女に詰め寄ってるな。
これもここでは良く見られる光景だ。
亜人種の女性は大きく分けて可愛い状態を維持した女性と色っぽさを全面に出した女性の二系統に分けられる。
老いた女性でもそれは同じであり、年相応の魅力というのが出ている。
そして月光族の文化では基本的に女性の方が上位であり、今回のように複数の男性が一人の女性に交際を申し出て、女性側が後はどうするかを決めるというのが一連の流れだ。
取り囲んだ男達が一斉にうなだれているところを見ると全滅か。既に決まった相手がいるようだ。
少し離れたところで今の状況を恐る恐る伺っている青年がいる。
見た感じ腕っ節も強く無さそうだし、体つきも亜人種の中では細身だ。
女性は振った男達をかき分けてその青年の元に行くと腕を取って半ば強引に連れていった。
なるほど、彼が決まった相手で、しかもこれは女性の方から気に入られたんだな。
一応男にも選ぶ権利はあるが、女に気に入られた男はまずその女から抜け出せなくなる。
というのも仮に男の好みが気に入った女では無い場合、女は男の好みの女性を探して宛がうのである。
そして宛がわれると男は女に感謝をし、結果として女とも関係を持つようになる。
実に狡猾で有効な手段だとある意味感心してしまう方法だ。
ま、大概の場合は気に入った女に篭絡されてしまうようだが。
ともあれ青年、色々と大変だろうががんばれよ。
月光族の食事情はシンプルだ。
肉も魚も基本的に焼くだけ。
それに塩や香辛料をふんだんに使って食す。
とにかく亜人種は良く食べるので食材の消費が多く、そのせいもあってこの港町の漁獲量は多い。
女性達、特に力を持った上層階級になるともう少し優雅な食事をするようで、草原の街から取り寄せた穀物などを食べてる様子が見て取れる。
草原の街にはこっちでしか採れない香辛料を輸出してるのか。
しかしみんな美味そうに食うなぁ・・・腹減ってくる。今日は肉類を多めに使おう。丼とかいいな。
亜人種なので元の動物が草食系だと菜食主義になるのかと思ったがそうでもない。
人馬種も普通に魚を食べてる。
ただ、やっぱり野菜類の方が好きなようで港町から少し離れたところに畑を作って野菜を育ててるようだ。
カブやダイコン、ニンジンが多いな。
土壌の質によるものなのか亜人種だからなのか引き抜く収穫方法のものばかりだ。
そしてそれをパンやご飯を食べるかのように肉を食べる合間に生で齧ってる。
さすが亜人種。歯や顎の力も強靭に出来てるのか。
草原の街やオアシスの街にも亜人種はいるが、基本的に切ったり調理されたりして出されるのを食べる姿ばかり見ていたので、生でドンと置かれたのを手に取って齧るここの食文化の様子に割と衝撃を受ける。
サチがさっきからチラチラこっちの画面を気にしてるようだが、野菜の丸齧りとかやらせないからな。
美味しそうなのはわかるが、顎とか歯を痛めるのでダメ。
やるとしたらちゃんと野菜スティックとかにして出すから諦めなさい。
わかったわかった、じゃあ野菜スティックを後で作ってやるから、うん、今は情報集めして。
あ、時間なのね。了解。
あー、最後飯関連を見てしまったせいで頭の中が料理方向になってしまった。
帰ったら何か作るかなぁ。
何も用事の無い日は料理の日というのが最近の傾向だ。
今日は特に頭が飯に向いてしまってるのでやるしかない。
肉料理はもう少し夕方になってからやるとして、今はサチが貰ってきた異世界の情報から凝固剤が作れないか模索中。
凝固剤というのは寒天とかゼラチンとかそういうやつ。
それがあれば羊羹とかゼリーが作れるからな。
うちには甘いもの好きがいるのでどうしてもデザート優先になってしまう。
しかし現状かなり難航中。
いかんせん動物や海草の食材が無いので貰った情報があまり役に立たない。
試しに似たようなもので作ってみたが上手くいかなかった。
うーん、どうしたものか。
一応粘り気のある作物を煮出したり冷やしたりしてみてるがプルンとしたものにならない。
副産物としてどろっとするものは出来たのでジャムっぽいものなら作れそうだ。
だだジャムが作れてもそれを塗るパンがまだ作れないからなぁ。
下界じゃ作れてるのにこっちじゃ作れないというのがなんとも悔しく感じる。
・・・ん?まてよ?
「サチ、下界の料理のレシピとか集めてある?」
「えぇ、一応は。私が美味しそうに思えたものに限っていますが」
「じゃあパンの作り方とかあるか?」
「ありますよ」
「でかした!ちょっと見せてくれ!」
「はい。少々お待ちください」
恐らく服と同じく趣味で集めてたのだろうが、この際そんな事はどうでもいい。
「どうぞ」
「うん、ありがとう」
パンの製法の部分、特に膨らし粉の部分に注目して作り方を見ていく。
ふんふん、なるほど。
よし、これならこっちでもパンが作れそうだ。
「よし、あと透き通ったプリンみたいなデザートあるか?」
「探してみます、少し待ってください」
「うん、よろしく」
その間に俺は小麦粉でパン生地を作って用意した二つの果物の片方の果汁を搾って混ぜる。
馴染ませてからもう片方の果汁を搾って同じように混ぜ込む。
後は様子見だな。
この二つの果物はユキに刺激されて複合シャーベットを作ってたときに偶然見つけた炭酸が出る合わせ方だ。
下界のパンのレシピを見るとこれと似た果物の果汁を入れる製法が書かれてた。
「ソウ、ありました」
「おう、助かる。じゃあこれをクッキーを焼くみたいにじっくり加熱してくれる?」
「はい。わかりました」
サチがくれた情報にはゼリーの製法が書かれてあった。
うん。やはりこっちの作物で代用できるな。
凝固剤は種を砕いて煮出すのか、誰だよこんな製法思いついたの。
とりあえずその通りやってみる。
・・・できた。
そしてそれを使ってゼリーも作ってみると綺麗な柔らかなゼリーが作れた。
下界の人達凄いな。改めて感心する。
「ソウ、ソウ!ちょっとこれ膨らんできたのですが!」
慌てたサチの声が俺が感動気分を台無しにしてくれる。
「あぁうん、そのまま続けて」
パン生地は最初の時より二倍ぐらいに膨らんでいる。いいぞ。
「いえ、しかし」
「いいからいいから。ちゃんと見てるから」
「わ、わかりました。続けます」
サチと一緒に膨らんでいく様子を見る。
いいね、膨らむ様子が見ていて楽しい。
ただ、周りに何も仕切るものを入れなかったせいで半円型に膨らんでいってしまってるな。
元の生地の三倍ほど大きくなったところで表面が狐色に焦げてきた。
「うん、もういいよ。おつかれさま」
「はい。いつ爆発するのかとひやひやしました」
しないしない。そんな事思ってたのか。
「どれどれ、おぉ・・・」
軽く包丁を入れるとサクリと切れて焼けたばかりのパンのいい香りがする。
「出来たな、パン」
「これがパンですか」
ちぎって口に運ぶとふんわり柔らかな食感が良い。
前の世界のパンよりちょっと果実の甘い香りがするが、これはこれでいいな。
サチも俺のをみて同じようにちぎって口に運んでる。
「ソウ、味がほとんどしません」
うん、米の時も同じ事言ったよね、君。
「ご飯と一緒でそういうもんだ」
「なるほど。つまり色々と合わせると真価を発揮するものなのですね?」
「うん、その通りだ」
サチもわかってきたじゃないか。
さて、それじゃ今日はパンに合う料理を作りますかね。
テーブルの上に夕飯が並ぶ。
パンに合う物を作ったらまるで朝食のような内容になってしまった。
サラダ、スクランブルエッグ、薄く切った肉の実を塩胡椒で焼いたものなど。
そういえば今日は丼物でも作ろうと思ってたのにパンが作れた事でつい興奮してしまってパンに合う物ばかり作ってしまった。
まぁいいか。丼物は後日改めて作ろう。
「じゃあ頂くとしようか」
「はい。いただきます」
うん、上手く出来たが完全に気分が朝食だ。
「ソウ、これはなんですか?」
サチが瓶に入れたものを指差して聞いて来る。
「これはジャムだ。パンに塗って食べると甘くてうまいぞ」
「ほうほう。甘いのですか、それは楽しみです」
作ったジャムはイチゴ、オレンジ、リンゴ、レモンの定番なものと試験的に作った混合ジャムを数種。
定番のものはサチに使ってもらい、俺はこの混合ジャムをつけて食べてみる。
うん、このベリー系を色々混ぜたのはいけるな。
クッキーにも使えそうだ。これは量産して大丈夫と。
次。
「うっ・・・」
「どうしました?」
「い、いや、なんでもない」
こ、これはとてつもなく苦いな。
柑橘系を混ぜたのがいけなかったのだろうか。
一応白い部分は取り除いて作ったはずなんだが。
これはダメだな。
そんな感じで混合ジャムを一通り試した結果、二種類が成功、四種類が失敗だった。
むぅ、やっぱり混ぜて作るのは難しいのか。
ユキみたいに合わせるセンスがあればもう少し種類が作れるかもしれないな。いずれ教えよう。
「ソウ、もう少しパンを頂いてもいいですか?」
「ん?うん。パンはうまいか?」
「えぇ。下界の人達が好んで食べるのがよくわかりました」
新しく手に取ったパンにジャムをベッタベタに塗って食べている。
口の周りがジャムまみれになっててみっともない。後でちゃんと拭くんだぞ。
俺は俺で平たく切ったパンにサラダとスクランブルエッグを乗せて、更に塩味と辛味を追加するために唐辛子ふりかけを掛け半分に折ってかぶりつく。
サチ、そんな食べ方が、みたいな顔してももうダメだぞ、さすがに食べすぎだ。
また今度パンを焼いてもらうからその時にしなさい、うん。
「はー・・・いいですねぇゼリー・・・」
食後のデザートに出したゼリーをサチが至福の笑みを浮かべならが食べている。
次に食べるのをすくったスプーンの上でプルプル揺らして楽しんでる辺り相当気に入ったようだ。
プリンとアイスとゼリーどれが一番好きか聞こうと思ったが、半日以上悩みそうなのでやめた。
俺も同じ事聞かれたら困るしな。
ちなみに俺は餡子で作った水羊羹を食べている。
出来ははっきり言って失敗作。
甘さがかなり控えめになっている上に食感もザラザラしてる。
不味くはないが食べてて楽しくもなれないので失敗扱いでいいと思う。
大人しくサチと同じ果実のゼリーを食べようと思ったが既にもうサチに食われてた。
しょうがない、後でお茶でも淹れて口直ししよう。
城下町は信者がいるが、月光族の街にはいないのでいずれ見れなくなってしまう。それなら先に見ておくべきはこちらだと判断。
それに城下町を長く見てるとまた変な気持ちになってしまいそうなので心構えを作る時間も兼ねている。
月光族の建築物は基本的に木造のようで、港町や村のほとんどが木造建築だ。
いや、石材建築も可能なのだが、かれらの生活様式を見ていると木造の方が理に適っていると言った方が正しい。
月光族の多くは亜人種なのだが、人間種と比べると力をはじめ、身体能力が高いのが特徴だ。
そうするとちょっとした喧嘩やいざこざですぐに物を破壊してしまうのだ。
あー、今も酒場の壁を突き破って人が外に飛び出てきてる。
こういう事があちこちで起こるので石材建築だと倒壊した場合の被害も大きいし、補修も大変になる。
そうなってくると木造建築の方が向いており、自然と街の建築様式が出来上がっていったのがわかる。
血気盛んな月光族だが、街の治安が悪いかと言えばそうでもない。
そりゃ暴力沙汰はそこかしこで起きてるが、それは彼らの上下関係の付ける方法なので仕方が無い。
それに必ず一対一の勝負で決着をつけているので必要以上に拡大する事は滅多にないようだ。
治安の悪さというのは他人を不幸に陥れる行為が横行している状態と思っているので、この街のこれは当てはまらないと思っている。
ただ、文化とはいえ頻繁に殴り合いだのしている映像ばかり見ていると気が滅入ってくるので別の場所を見ることにしよう。
ふむ、複数の厳つい男達が一人の女に詰め寄ってるな。
これもここでは良く見られる光景だ。
亜人種の女性は大きく分けて可愛い状態を維持した女性と色っぽさを全面に出した女性の二系統に分けられる。
老いた女性でもそれは同じであり、年相応の魅力というのが出ている。
そして月光族の文化では基本的に女性の方が上位であり、今回のように複数の男性が一人の女性に交際を申し出て、女性側が後はどうするかを決めるというのが一連の流れだ。
取り囲んだ男達が一斉にうなだれているところを見ると全滅か。既に決まった相手がいるようだ。
少し離れたところで今の状況を恐る恐る伺っている青年がいる。
見た感じ腕っ節も強く無さそうだし、体つきも亜人種の中では細身だ。
女性は振った男達をかき分けてその青年の元に行くと腕を取って半ば強引に連れていった。
なるほど、彼が決まった相手で、しかもこれは女性の方から気に入られたんだな。
一応男にも選ぶ権利はあるが、女に気に入られた男はまずその女から抜け出せなくなる。
というのも仮に男の好みが気に入った女では無い場合、女は男の好みの女性を探して宛がうのである。
そして宛がわれると男は女に感謝をし、結果として女とも関係を持つようになる。
実に狡猾で有効な手段だとある意味感心してしまう方法だ。
ま、大概の場合は気に入った女に篭絡されてしまうようだが。
ともあれ青年、色々と大変だろうががんばれよ。
月光族の食事情はシンプルだ。
肉も魚も基本的に焼くだけ。
それに塩や香辛料をふんだんに使って食す。
とにかく亜人種は良く食べるので食材の消費が多く、そのせいもあってこの港町の漁獲量は多い。
女性達、特に力を持った上層階級になるともう少し優雅な食事をするようで、草原の街から取り寄せた穀物などを食べてる様子が見て取れる。
草原の街にはこっちでしか採れない香辛料を輸出してるのか。
しかしみんな美味そうに食うなぁ・・・腹減ってくる。今日は肉類を多めに使おう。丼とかいいな。
亜人種なので元の動物が草食系だと菜食主義になるのかと思ったがそうでもない。
人馬種も普通に魚を食べてる。
ただ、やっぱり野菜類の方が好きなようで港町から少し離れたところに畑を作って野菜を育ててるようだ。
カブやダイコン、ニンジンが多いな。
土壌の質によるものなのか亜人種だからなのか引き抜く収穫方法のものばかりだ。
そしてそれをパンやご飯を食べるかのように肉を食べる合間に生で齧ってる。
さすが亜人種。歯や顎の力も強靭に出来てるのか。
草原の街やオアシスの街にも亜人種はいるが、基本的に切ったり調理されたりして出されるのを食べる姿ばかり見ていたので、生でドンと置かれたのを手に取って齧るここの食文化の様子に割と衝撃を受ける。
サチがさっきからチラチラこっちの画面を気にしてるようだが、野菜の丸齧りとかやらせないからな。
美味しそうなのはわかるが、顎とか歯を痛めるのでダメ。
やるとしたらちゃんと野菜スティックとかにして出すから諦めなさい。
わかったわかった、じゃあ野菜スティックを後で作ってやるから、うん、今は情報集めして。
あ、時間なのね。了解。
あー、最後飯関連を見てしまったせいで頭の中が料理方向になってしまった。
帰ったら何か作るかなぁ。
何も用事の無い日は料理の日というのが最近の傾向だ。
今日は特に頭が飯に向いてしまってるのでやるしかない。
肉料理はもう少し夕方になってからやるとして、今はサチが貰ってきた異世界の情報から凝固剤が作れないか模索中。
凝固剤というのは寒天とかゼラチンとかそういうやつ。
それがあれば羊羹とかゼリーが作れるからな。
うちには甘いもの好きがいるのでどうしてもデザート優先になってしまう。
しかし現状かなり難航中。
いかんせん動物や海草の食材が無いので貰った情報があまり役に立たない。
試しに似たようなもので作ってみたが上手くいかなかった。
うーん、どうしたものか。
一応粘り気のある作物を煮出したり冷やしたりしてみてるがプルンとしたものにならない。
副産物としてどろっとするものは出来たのでジャムっぽいものなら作れそうだ。
だだジャムが作れてもそれを塗るパンがまだ作れないからなぁ。
下界じゃ作れてるのにこっちじゃ作れないというのがなんとも悔しく感じる。
・・・ん?まてよ?
「サチ、下界の料理のレシピとか集めてある?」
「えぇ、一応は。私が美味しそうに思えたものに限っていますが」
「じゃあパンの作り方とかあるか?」
「ありますよ」
「でかした!ちょっと見せてくれ!」
「はい。少々お待ちください」
恐らく服と同じく趣味で集めてたのだろうが、この際そんな事はどうでもいい。
「どうぞ」
「うん、ありがとう」
パンの製法の部分、特に膨らし粉の部分に注目して作り方を見ていく。
ふんふん、なるほど。
よし、これならこっちでもパンが作れそうだ。
「よし、あと透き通ったプリンみたいなデザートあるか?」
「探してみます、少し待ってください」
「うん、よろしく」
その間に俺は小麦粉でパン生地を作って用意した二つの果物の片方の果汁を搾って混ぜる。
馴染ませてからもう片方の果汁を搾って同じように混ぜ込む。
後は様子見だな。
この二つの果物はユキに刺激されて複合シャーベットを作ってたときに偶然見つけた炭酸が出る合わせ方だ。
下界のパンのレシピを見るとこれと似た果物の果汁を入れる製法が書かれてた。
「ソウ、ありました」
「おう、助かる。じゃあこれをクッキーを焼くみたいにじっくり加熱してくれる?」
「はい。わかりました」
サチがくれた情報にはゼリーの製法が書かれてあった。
うん。やはりこっちの作物で代用できるな。
凝固剤は種を砕いて煮出すのか、誰だよこんな製法思いついたの。
とりあえずその通りやってみる。
・・・できた。
そしてそれを使ってゼリーも作ってみると綺麗な柔らかなゼリーが作れた。
下界の人達凄いな。改めて感心する。
「ソウ、ソウ!ちょっとこれ膨らんできたのですが!」
慌てたサチの声が俺が感動気分を台無しにしてくれる。
「あぁうん、そのまま続けて」
パン生地は最初の時より二倍ぐらいに膨らんでいる。いいぞ。
「いえ、しかし」
「いいからいいから。ちゃんと見てるから」
「わ、わかりました。続けます」
サチと一緒に膨らんでいく様子を見る。
いいね、膨らむ様子が見ていて楽しい。
ただ、周りに何も仕切るものを入れなかったせいで半円型に膨らんでいってしまってるな。
元の生地の三倍ほど大きくなったところで表面が狐色に焦げてきた。
「うん、もういいよ。おつかれさま」
「はい。いつ爆発するのかとひやひやしました」
しないしない。そんな事思ってたのか。
「どれどれ、おぉ・・・」
軽く包丁を入れるとサクリと切れて焼けたばかりのパンのいい香りがする。
「出来たな、パン」
「これがパンですか」
ちぎって口に運ぶとふんわり柔らかな食感が良い。
前の世界のパンよりちょっと果実の甘い香りがするが、これはこれでいいな。
サチも俺のをみて同じようにちぎって口に運んでる。
「ソウ、味がほとんどしません」
うん、米の時も同じ事言ったよね、君。
「ご飯と一緒でそういうもんだ」
「なるほど。つまり色々と合わせると真価を発揮するものなのですね?」
「うん、その通りだ」
サチもわかってきたじゃないか。
さて、それじゃ今日はパンに合う料理を作りますかね。
テーブルの上に夕飯が並ぶ。
パンに合う物を作ったらまるで朝食のような内容になってしまった。
サラダ、スクランブルエッグ、薄く切った肉の実を塩胡椒で焼いたものなど。
そういえば今日は丼物でも作ろうと思ってたのにパンが作れた事でつい興奮してしまってパンに合う物ばかり作ってしまった。
まぁいいか。丼物は後日改めて作ろう。
「じゃあ頂くとしようか」
「はい。いただきます」
うん、上手く出来たが完全に気分が朝食だ。
「ソウ、これはなんですか?」
サチが瓶に入れたものを指差して聞いて来る。
「これはジャムだ。パンに塗って食べると甘くてうまいぞ」
「ほうほう。甘いのですか、それは楽しみです」
作ったジャムはイチゴ、オレンジ、リンゴ、レモンの定番なものと試験的に作った混合ジャムを数種。
定番のものはサチに使ってもらい、俺はこの混合ジャムをつけて食べてみる。
うん、このベリー系を色々混ぜたのはいけるな。
クッキーにも使えそうだ。これは量産して大丈夫と。
次。
「うっ・・・」
「どうしました?」
「い、いや、なんでもない」
こ、これはとてつもなく苦いな。
柑橘系を混ぜたのがいけなかったのだろうか。
一応白い部分は取り除いて作ったはずなんだが。
これはダメだな。
そんな感じで混合ジャムを一通り試した結果、二種類が成功、四種類が失敗だった。
むぅ、やっぱり混ぜて作るのは難しいのか。
ユキみたいに合わせるセンスがあればもう少し種類が作れるかもしれないな。いずれ教えよう。
「ソウ、もう少しパンを頂いてもいいですか?」
「ん?うん。パンはうまいか?」
「えぇ。下界の人達が好んで食べるのがよくわかりました」
新しく手に取ったパンにジャムをベッタベタに塗って食べている。
口の周りがジャムまみれになっててみっともない。後でちゃんと拭くんだぞ。
俺は俺で平たく切ったパンにサラダとスクランブルエッグを乗せて、更に塩味と辛味を追加するために唐辛子ふりかけを掛け半分に折ってかぶりつく。
サチ、そんな食べ方が、みたいな顔してももうダメだぞ、さすがに食べすぎだ。
また今度パンを焼いてもらうからその時にしなさい、うん。
「はー・・・いいですねぇゼリー・・・」
食後のデザートに出したゼリーをサチが至福の笑みを浮かべならが食べている。
次に食べるのをすくったスプーンの上でプルプル揺らして楽しんでる辺り相当気に入ったようだ。
プリンとアイスとゼリーどれが一番好きか聞こうと思ったが、半日以上悩みそうなのでやめた。
俺も同じ事聞かれたら困るしな。
ちなみに俺は餡子で作った水羊羹を食べている。
出来ははっきり言って失敗作。
甘さがかなり控えめになっている上に食感もザラザラしてる。
不味くはないが食べてて楽しくもなれないので失敗扱いでいいと思う。
大人しくサチと同じ果実のゼリーを食べようと思ったが既にもうサチに食われてた。
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やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~
於田縫紀
ファンタジー
図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。
その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。
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