新人神様のまったり天界生活

源 玄輝

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技師同士の言い合い

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「やあ」

「こんにちは、ミリクリエさん」

「あらソウ様、サチナリアちゃん。いらっしゃい」

着地と同時に外に居たクリエに挨拶する。

頼んだ調理器具も大分送られてきたし、その礼も兼ねて今日はアストのところに来ている。

「・・・どうかしたのか?」

クリエは外に椅子を出してお茶を飲んでいる。

どうしたのかと思ったら家の中で言い合いのような怒号が飛び交っている。

「あぁ、いつもの事です。ホント成長しない人達でねー」

これがいつもの事なのか。

中では二人の男の声が飛び交ってるようで、片方はアストの声だな。

聞こえる声はいつものダミ声じゃ無いので職人として言い合いをしているようだ。

うーん、喧嘩じゃなくて意見のぶつけ合いか。

「お前ソウ様に逆らうつもりか!」

「そうじゃない!改善点があるって言ってるだけだ!」

む・・・俺の名前が出てきた。

改善点というのも気になるな。

「クリエ、中入っても大丈夫か?」

「大丈夫ですが、落ち着いてからでも」

隣でサチが既に座ってお茶を取り出してて、え?入るの?みたいな顔してるのは見なかった事にする。

「んー・・・なんか俺の名前出てるし、内容が気になってきて」

「そう言う事でしたら止めませんけど、しばらくして止まりそうになければ言ってくださいな」

「うん。わかった」

一緒に来る素振りを一切見せないサチを置いて俺は戸を開けた。



言い合いをしている二人の机の上には二つの鍋が置いてある。

アストの方には俺が注文した鍋と同じもの。

そしてもう一人俺の知らない男、アストに比べると小柄だが要所要所の体はしっかりしているアストより少し若くみえる男の前にも鍋が置いてある。

「ん?誰だ?」

俺に気付いた知らない方の男がこっちに視線を向けると、アストもそれに気付く。

「おぉ!ごればソウ様!」

あー、職人状態切れちゃった。

「やあ、アスト。調理器具ありがとな、どれも良い出来で助かってるよ」

さすがに三度目となるとアストの歓迎の仕方も慣れてくる。

バシバシ叩かれる二の腕が少し痛い。もうちょっと手加減して欲しい。

「どんでもない!まだ納品でぎでないのもあるが!もう少じ待っでぐだぜ!」

「うん。無理しないでいいから」

「わがっどりまず」

さっきまで強い言葉で言い合いしてた男とは思えないにこやかな表情で話してくれてる。いつもの事か、なるほど。

「それで・・・あれ?」

アストから視線を外してもう一人の方を見たらいなくなってた。

「おい!イリウス!机の下ば入っどらんど出でごんが!」

アストが机の下から男を引きずり出す。

「ずんまぜんの、ソウ様。ごいづば愚弟のイリウスですが」

首根っこを掴んで俺の前に突き出すアスト。容赦ないな。

一方でイリウスといわれた男はさっきアストと言い合いしてたとは思えない弱々しい印象になってる。

「は、はじめまして、ソウ様。い、イリウストレル、です」

「はじめまして。イリウスと呼んでも?」

「あ、は、はい。なんとででも呼んでください」

「お、おう、じゃあイリウスで」

アストとは別方向で人格が変わったので調子が狂う。

「だー!イリウス!お前ばソウ様の前で卑屈になんど!」

「だ、だって兄者。突然だったから僕どうすればいいのか」

「じゃんどじどげばええが!まっだぐ情げない!」

聞けばイリウスはクリエの弟で、アストからすると義弟になる。

技師としての腕は確かなのだが、普段がこの弱々しい感じなのでアストとしてはやきもきするらしい。

「まあまあ、そう責めるなって。それより何か言い争ってたように聞こえたんだが」

そう俺が言った瞬間二人の表情と空気がピリッとする。

「あぁ、それなんですがね。丁度いいのでソウ様の意見を聞いたらどうだ?」

「兄者がそういうなら」

二人とも変わりすぎじゃないか?

アストはダミ声から良い声に変わるし、イリウスは弱気からしっかりするし。

精錬技師ってみんなこんなんじゃないだろうな?不安になってくる。

「うん、とりあえず聞こうか」

「感謝します。兄者がソウ様の依頼で作ったのがこの鍋。そしてこれが僕が改良を加えた鍋です」

机の上にある鍋は俺が頼んだ両手持ちの鍋とイリウスが改良を加えたという鍋の二つ。

「フライパンの持ち手が一つなら鍋も一つでいいと思いまして、このような形にしました」

イリウスが作った鍋は所謂片手鍋と言われるやつだな。

「さっきも言ってたんですがね、これじゃ重過ぎるって話をしてるんですよ」

「そこは軽量鉱石を使えばいいじゃないか」

「それじゃ熱の伝わりが落ちるだろう」

「薄く作ればいいじゃないか」

「それじゃ強度が落ちるだろ!」

「僕なら何とかできる!」

おおう、また言い合いに発展してきた。

「ちょ、ちょっと二人とも落ち着けって」

「お、おう。すまねぇソウ様」

「申し訳ない」

なるほど、クリエが止めるのを諦めたのが少しわかった。

「俺の感想を言ってもいいか?」

「どうぞ」

「うん。イリウスの片手鍋はなかなかいいと思う」

そういうとイリウスの表情が明るくなる。

「ただ、確かにこの大きさじゃ重いな。水を入れたら持つのが辛くなる」

今の大きさは両手鍋と同じ大きさで作られているからな。

うん、アストはどうだ見たかって顔しなくていいから。

「そこでこの片手形で小さい鍋にしたらどうだ?」

「小さく?」

「うん。それなら色々解決すると思うんだが」

「そうですが、それでは作れる量が減りませんかね」

「減るけど何も常に鍋一杯に何か作るわけじゃないから」

俺の出した案に二人は腕を組んで考え込んでる。

小さくするという発想が無いのか、思考から外してたのか分からないが、新しい方向性を示せたようだ。

小型化というのはそれはそれで難しくなる部分あるからなぁ。

「うん、出来そうです」

「そうか。じゃあ頼む。出来たら改めて出来栄えをアストと相談してくれ」

「はい」

「ふーむ、片手鍋かぁ・・・」

アストはまだ納得してない様子だな。

「アストは今まで通りのもの、もしくは両手持ちで今のより更に大きいのを作ってもらいたい」

「お?それはどういうことですかい?」

「今ルミナテースの農園で料理を出す建物を建ててるところなんだ。そうなるといずれ大きい鍋も必要になるから、作っておいてもらいたい」

先日の大収穫際で料理をした際に大鍋の必要性を感じたからな。

「ほう、そんな事になってんですか」

「うん。気が向いたら行ってみるといいよ。何か食わせてもらえると思うから」

「ほほう!そりゃ気になります!」

そういえば先日仙桃食った時大喜びしてたっけ。

出来れば農園に行って必要な物とか農園の人達から直接聞いて提供してもらいたい。

「じゃあ鍋問題はとりあえずこれで解決でいいかな?」

「はい、ありがとうございます」

「じゃあ折角二人居るんだし頼みたいものがあるんだが」

これでやっと本題に入れるな。



「終わりましたか?」

「あぁ。お、あんがと」

外に出るとサチが冷たい茶を出してくれる。

「ソウ様、あの二人は何してます?」

「新たに頼む物があったからそれの担当相談してるよ」

「そうですか。最近作るものがあってあの人生き生きとしてるんですよ」

そう言ってクリエは微笑む。

「そうなのか?結構厄介な内容を注文してるかもと少し気になってたんだが」

「いえいえ、そんな事は全く。ありがたいことです」

余り道具を必要としないから仕事が少なかったのかもしれないな。

そう言う事なら今後も気兼ねなく頼ませてもらおう。うん。

「だからここは俺がやるって言ってんだろ!」

「いや、僕がやる!兄者より上手くやれる!」

「なんだと!」

「なにさ!」

おおう、また言い合いになってる。

「まったく、あの人達は・・・」

あー・・・ついにクリエが腰を上げた。

さっき微笑んでた女性とは思えない雰囲気。正直ちょっと怖い。

「ちょっと止めてきます」

「あ、あぁ。じゃあ俺達は帰らせてもらうよ」

「すみませんね、たいしたおもてなしも出来ず。また来て下さい」

「うん」

「それでは失礼します」

こっちに会釈をすると家に入っていく。

「あんた達!いい加減にしな!」

今日一番の怒号が家を揺らしてる。すげぇな。

「あ、あはは、す、凄いですね」

サチの笑いも少し引きつってる。

「そうだな、怖いから退散しよう」

誰を敵に回してはいけないかよくわかったところで俺達は精錬技師の家を後にした。
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