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風の精の産まれ方
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下界の月光族の港町が慌しい。
港町にあるほぼ全ての荷馬車に箱や樽が大量に積み込まれている。
箱や樽の中身は日持ちするよう加工された肉や魚などの食料品。
積み込みの作業の横では普段森で生計を立てている冒険者や労働者が商館の職員らしき人物から入念な説明を受けている。
出発の準備が整ったところで最後に女主人と行商人の兄妹、身軽に動ける商人達が馬車に乗り込む。
月光族の村に寄り、若干量の取引を行った後に南下して北の領へ。
まるで行軍のような人と物資の移動だ。
北の領の関所では待ち時間なしの優遇処置で通過。
あっという間に北の領の街に入り、領主の館に物資を次々と入れていく。
「なんか凄いことになってるな」
「えぇ、どうやら港町の商会がここの領主と契約し、定期的に食料などの物資を提供する代わりに領内での自由採掘権を得たようです」
「自由採掘権?」
「領内には多くの鉱物が眠っているので、それの採掘権と保有権ですね」
「それってこの領の特産物をほぼ得たようなものじゃないか」
「そういうことですね」
「領を商会が乗っ取ったようなもか」
「そうとは言い切れないようです。採取した鉱石などは基本的にそのまま領外への持ち出しを禁止し、加工を領内で行った上で加工品を領外へ持ち出す時に関税をかけるなどして領にも利のあるような契約になっているようです」
「なるほど、それなら大丈夫かな」
商会は自由採掘権という莫大な利を得たわけだが、短期的に収入を得て領を更に衰退化させるより、これによって領が活性化することを見越した長期的な収益を取ったようだ。
ふむ、これはかなり大きな流れの変化になるぞ。
まず視野範囲内だけでも新たに港町から北の領まで物流が出来たわけだ。
物流が加速すれば自然と通り道である村も活性化するし、食料の需要も上がる。
また、北の領で本格的な採掘が始まれば、この人数でも恐らく足りなくなる。
そうなれば自然と職を求めて人が集まり、更に活性化が進み好循環になるわけか。
問題があるとすればここには強めの生物が多い点だな。
知能があるようだし、草原の街の北のダンジョンのように上手く住み分けが出来ればいいんだけど、どうなることやら。
家に帰ると屋根の上に座ってた風の精が俺達に気付いて飛んできた。
何か慌ててるけどどうした?
ちょっと来て欲しい?
わかったわかったからそんな引っ張るなって。
「サチ、すまんが」
「わかっています。ちょっと急いだ方がいいみたいですね」
「頼む」
着いた先は風の精の母が住処にしている洞窟。
風の精は洞窟内に来て欲しいらしく、そのまま付いて行く。
以前は中から風が吹いてたが、今日は洞窟の外から風が入ってきている。
おかげで歩くのが楽だが、奥に行くにつれて次第に風が強くなってきた。
歩くのが若干つらくなって来たところでサチが機転を利かせて防護膜を張ってくれた。ありがたい。
中央の精霊石まで来ると明らかに前回と様子が違う。
精霊石が流れ込んできている風を吸い込みながらまるで呼吸するかのようにぼんやり光を強めたり弱めたりを繰り返している。
その周囲にはその様子を見守る風の精達。
俺達を連れてきた風の精も俺とサチの裾を掴んだままじっと精霊石を見ている。
どうやらこの様子をしばらく見ていて貰いたいらしい。
サチに視線を向けると少し動揺している。サチもこれを見るのは初めてのようだ。
様子を見続けていると次第に光の強弱の間隔が早まってきた。
それと同時に周囲の風の精達は応援しているような動きをする。
そして、吸い込んでた風が止まり、光が強い状態で止まったと思った瞬間、パンッと弾けるような音がして精霊石から大量の小粒の緑の光が勢い良く放射状に飛び出して来た。
花火のように飛び出た粒は周囲に居た風の精に受け止められ、洞窟の岩の隙間に持って行かれた。
俺たちを連れてきた子もいつの間にか粒を持っており、こっちに見せてくれた。
かなり小さいが風の精と同じ見た目をしている。
そうか、これは風の精の子供か。
「うん、見せてくれてありがとう」
礼を言うと風の精は満足そうに微笑み、他の風の精と同じように岩の間に入っていった。
精霊石が元の輝きに戻り、緩やかなそよ風が吹いてくると中から風の精の母が出てきた。
その表情は疲れが見えるがどこかやりきったような感じだ。
「お疲れ様です。これ、よろしければ」
サチが駆け寄り完全食を差し出すと嬉しそうにそれを口に放り込んでいる。
結構食べてるな。それだけ消耗していたってことか。
食べ終えるとサチに身振り手振りで何かを伝え、こっちに一礼すると精霊石の中に戻っていった。
「なんだって?」
「普段ならマナ補給に行くらしいのですが、その手間が省けたので休むそうです」
「そっか。それじゃ俺たちも帰ろうか」
「そうですね」
近くに居た風の精に見せてくれた礼を伝え、俺たちは洞窟を後にした。
「貴重なものを見せてもらいましたね」
「そうだな」
余韻に浸りながらサチに抱えられて家に帰る。
「他の精もあんな感じで増えるのかな?」
「水の精はもしかすると同じように増えるかもしれませんが、他の精は違うでしょうからそれぞれではないでしょうか」
「そういえばそうか」
水の精と風の精は見た目が亜人のようで生態も割と似ている感じがするが、光の精は虫みたいだし、地の精はモグラのような見た目をしているから違って当然か。
その辺りの研究をしている人とかいないのかな。
採掘師とか精霊石と関わりが深いだろうから何か知ってるかもしれないな。
いずれ会う機会もあるだろうし、是非話を聞いてみたいものだ。
余談。
今日のサチは感化されたのか妙に情熱的だった気がする。
神の体でよかったと本当に思う。
港町にあるほぼ全ての荷馬車に箱や樽が大量に積み込まれている。
箱や樽の中身は日持ちするよう加工された肉や魚などの食料品。
積み込みの作業の横では普段森で生計を立てている冒険者や労働者が商館の職員らしき人物から入念な説明を受けている。
出発の準備が整ったところで最後に女主人と行商人の兄妹、身軽に動ける商人達が馬車に乗り込む。
月光族の村に寄り、若干量の取引を行った後に南下して北の領へ。
まるで行軍のような人と物資の移動だ。
北の領の関所では待ち時間なしの優遇処置で通過。
あっという間に北の領の街に入り、領主の館に物資を次々と入れていく。
「なんか凄いことになってるな」
「えぇ、どうやら港町の商会がここの領主と契約し、定期的に食料などの物資を提供する代わりに領内での自由採掘権を得たようです」
「自由採掘権?」
「領内には多くの鉱物が眠っているので、それの採掘権と保有権ですね」
「それってこの領の特産物をほぼ得たようなものじゃないか」
「そういうことですね」
「領を商会が乗っ取ったようなもか」
「そうとは言い切れないようです。採取した鉱石などは基本的にそのまま領外への持ち出しを禁止し、加工を領内で行った上で加工品を領外へ持ち出す時に関税をかけるなどして領にも利のあるような契約になっているようです」
「なるほど、それなら大丈夫かな」
商会は自由採掘権という莫大な利を得たわけだが、短期的に収入を得て領を更に衰退化させるより、これによって領が活性化することを見越した長期的な収益を取ったようだ。
ふむ、これはかなり大きな流れの変化になるぞ。
まず視野範囲内だけでも新たに港町から北の領まで物流が出来たわけだ。
物流が加速すれば自然と通り道である村も活性化するし、食料の需要も上がる。
また、北の領で本格的な採掘が始まれば、この人数でも恐らく足りなくなる。
そうなれば自然と職を求めて人が集まり、更に活性化が進み好循環になるわけか。
問題があるとすればここには強めの生物が多い点だな。
知能があるようだし、草原の街の北のダンジョンのように上手く住み分けが出来ればいいんだけど、どうなることやら。
家に帰ると屋根の上に座ってた風の精が俺達に気付いて飛んできた。
何か慌ててるけどどうした?
ちょっと来て欲しい?
わかったわかったからそんな引っ張るなって。
「サチ、すまんが」
「わかっています。ちょっと急いだ方がいいみたいですね」
「頼む」
着いた先は風の精の母が住処にしている洞窟。
風の精は洞窟内に来て欲しいらしく、そのまま付いて行く。
以前は中から風が吹いてたが、今日は洞窟の外から風が入ってきている。
おかげで歩くのが楽だが、奥に行くにつれて次第に風が強くなってきた。
歩くのが若干つらくなって来たところでサチが機転を利かせて防護膜を張ってくれた。ありがたい。
中央の精霊石まで来ると明らかに前回と様子が違う。
精霊石が流れ込んできている風を吸い込みながらまるで呼吸するかのようにぼんやり光を強めたり弱めたりを繰り返している。
その周囲にはその様子を見守る風の精達。
俺達を連れてきた風の精も俺とサチの裾を掴んだままじっと精霊石を見ている。
どうやらこの様子をしばらく見ていて貰いたいらしい。
サチに視線を向けると少し動揺している。サチもこれを見るのは初めてのようだ。
様子を見続けていると次第に光の強弱の間隔が早まってきた。
それと同時に周囲の風の精達は応援しているような動きをする。
そして、吸い込んでた風が止まり、光が強い状態で止まったと思った瞬間、パンッと弾けるような音がして精霊石から大量の小粒の緑の光が勢い良く放射状に飛び出して来た。
花火のように飛び出た粒は周囲に居た風の精に受け止められ、洞窟の岩の隙間に持って行かれた。
俺たちを連れてきた子もいつの間にか粒を持っており、こっちに見せてくれた。
かなり小さいが風の精と同じ見た目をしている。
そうか、これは風の精の子供か。
「うん、見せてくれてありがとう」
礼を言うと風の精は満足そうに微笑み、他の風の精と同じように岩の間に入っていった。
精霊石が元の輝きに戻り、緩やかなそよ風が吹いてくると中から風の精の母が出てきた。
その表情は疲れが見えるがどこかやりきったような感じだ。
「お疲れ様です。これ、よろしければ」
サチが駆け寄り完全食を差し出すと嬉しそうにそれを口に放り込んでいる。
結構食べてるな。それだけ消耗していたってことか。
食べ終えるとサチに身振り手振りで何かを伝え、こっちに一礼すると精霊石の中に戻っていった。
「なんだって?」
「普段ならマナ補給に行くらしいのですが、その手間が省けたので休むそうです」
「そっか。それじゃ俺たちも帰ろうか」
「そうですね」
近くに居た風の精に見せてくれた礼を伝え、俺たちは洞窟を後にした。
「貴重なものを見せてもらいましたね」
「そうだな」
余韻に浸りながらサチに抱えられて家に帰る。
「他の精もあんな感じで増えるのかな?」
「水の精はもしかすると同じように増えるかもしれませんが、他の精は違うでしょうからそれぞれではないでしょうか」
「そういえばそうか」
水の精と風の精は見た目が亜人のようで生態も割と似ている感じがするが、光の精は虫みたいだし、地の精はモグラのような見た目をしているから違って当然か。
その辺りの研究をしている人とかいないのかな。
採掘師とか精霊石と関わりが深いだろうから何か知ってるかもしれないな。
いずれ会う機会もあるだろうし、是非話を聞いてみたいものだ。
余談。
今日のサチは感化されたのか妙に情熱的だった気がする。
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