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71話 フルパワー

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 セシルと共にステージを後にする、入場口の通路に入って少し歩くと、セシルが足を止めた。

「なぁ、コウガ」
「ん?なんだ?」

 前を歩いていた俺は、振り返ってセシルを見る。

「初めて話した時に、刀について色々言っていたな?それについて話す時間を貰えると有難いんだが……可能か?」

 セシルは腰に差している刀を左手で揺らす。

「カエデの試合を見たいから、その後なら構わないぞ。カエデの試合が終われば後の出場者とは決勝までは当たらない反対ブロックだからな、その間に話そう。仲間みんなで聞いてもいいか?」
「構わない、それならコウガ達の応援席について行っていいか?そこなら皆集まるだろう?」
「それは構わないが、待ってる仲間とかはいないのか?」

 少しだけ顔を暗くしたセシルだったが、すぐに元の顔に戻った。

「あぁ、ここに1人で来て武闘会に参加しているからな、私を待つ人はいない」
「……そうか」

 やはり、何かあったんだと察した。
 控え室でも一瞬そんな顔をしていたし……ステージでは羨ましいと言っていたからな、そんな事に気付かない鈍感野郎ではない。

「あっ!ご主人様!2回戦進出おめでとう!」

 カエデが入場口の通路までやってきた、巨人族の男も遅れて後ろからやってきて俺達の横を通り過ぎて行く。

「ありがとうカエデ、勝ってこいよ!」
「うん!勝ってくる!」

 俺はカエデとグータッチ、最近よくするのだが、これをすると気が引き締まるんだよな。

「ふふ、カエデと言ったか?健闘を祈るよ」
「ありがとうございます!えっと、セシルさんだったかな?良い試合でした!」
「あぁ、ありがとう」

「じゃ!行ってきます!!」

 後ろを振り向いて手を振りながら駆け足でステージへ走っていき、入場口通路からステージへ抜ける瞬間に、カエデは例のアレに包まれた。

「……彼女が纏っているあれ、ただの魔力じゃないな」
「分かるのか?」
「あぁ、私は魔力感知に優れていてな、各個人の持つ魔力の違いとかもなんとなく分かるのだが……あれは彼女の魔力だけじゃないみたいだ」
「!」

 カエデはシェミィから魔力を借りて戦う事がある、俺もまだ詳しくは知らされていないが、恐らくあの魔力はシェミィの物だろう。
 それに気付くとは……さすがだな。

「さて、早く応援席に行こう、彼女の試合を見逃すぞ?」
「そうだな、急ごう」

 俺とセシルは応援席へ小走りで向かう。
 この時セシルはコウガとカエデの絡みを見て、懐かしい気持ちと寂しい気持ちで心が渦巻いていたのだった。



「カエデ!頑張りなさいよー!」
「やったれっす!」

 応援席に戻ると、メイランとソルトが席から立って声援を送っていた、丁度試合が始まる所みたいだ。

「ただいま!」

 一声かけるとミツキ達が気付いてくれた。

「お帰りなさいコウガさん!あっ、そちらは対戦相手の……」
「セシルだ、少しコウガに話があってな、お邪魔していいか?」
「もちろんです!どうぞこちらに」
「すまないな、ありがとう」

 さすがミツキ、初対面でもにこやか対応だ。
 ミツキがセシルの分のスペースを空けてくれたのでセシルは席に座る。
 その隣に俺が座ると俺達の前にソルトとメイランがやってくる。

「初めましてっす!ソルトっす」
「私はメイランよ、コウガ様に話したい事があるってさっき聞こえたけど、何かあるのかしら?」

 メイランは少し真剣な顔をしてセシルを問い詰める。

「あぁ、大した事じゃないさ。コウガからこの刀について聞きたいと言われてな、これからカエデの試合が始まるからその後に話そうって事になっただけだ」
「そうなの?コウガ様」
「あぁ、その通りだ……っと、試合が始まるぞ」

 俺がそう言うと、全員ステージの方へ顔を向ける。

「それでは第4試合始めます!構えてください!」

 巨人はアックスを構える、カエデもファイティングポーズを取った。
 今回はちゃんと構えを取ったな、バトルロイヤルみたいに戦わずにって訳にはいかないからな、当たり前か。

「カエデさんも頑張って欲しいですね」
「だな、カエデがどんな戦いをしてくれるか楽しみだ」



 ーーーカエデ視点ーーー

「それでは第4試合始めます!構えてください!」

 試合開始の合図が下されようとしていた。
 1回戦を見事勝利に収めたご主人様、だから私はこれに勝てば……ご主人様と戦える。
 だから、この巨人さんには勝たないと。
 この人はバトルロイヤル中、短時間で多数撃破をした実力者で、かなりパワーのある人……これは気を抜けない。

「いきますよ!レディーーーーッ、GO!!」

 司会の掛け声により、トーナメント第4試合が始まった。

「身体強化……アクセルブースト!」

 私はいつものルーティンで巨人さんに迫る。
 しかし、それはいつもの身体強化+アクセルブーストで出す素早さではなく、新しく身に付けた技……装纏により、更なる素早さを手に入れて速くなった。
 装纏は今私を纏っている魔力の事で、これにはまだご主人様には話していない秘密がある。
 これの習得にはクロエちゃんとシェミィの協力がないとダメだっただろうな……2のおかげだね。

「はぁぁぁ!」

 素早く巨人さんの元に辿り着くと、右ストレートをみぞおちに叩き込もうとするが、アックスの大きい刃の部分でガードされる。

「い、意外と速い!」

 あの巨人さんはパワーだけじゃない、そう感じさせられる。
 そしてアックスで私のパンチを押し返し、空へと弾き返えされた。

「真正面から勝負は不味そう……かな」

 私は空中でバランスを取り、着地した瞬間に再度アクセルブーストで再加速をする。
 正面からがダメなら、スピードで翻弄する!
 巨人さんの周りをフェイントを入れつつ素早く移動する。

「チッ、ちょこまかと……!」

 巨人さんが初めて声を発した、私のスピードが鬱陶しがっているのがよく分かる。

「そこかっ!おらぁぁ!」

 私の進路方向から、アックスによる薙ぎ払いが繰り出される。
 まだ完全には私のスピードを捉えれていないが、ギリギリ目は追えているようだ。
 私は進路方向を巨人さんに切り替え、正面から来るアックスをジャンプで躱した。

「はぁっ!」

 そのまま顔面に1撃パンチを入れた、巨人さんはその衝撃で仰け反り、鼻から血が流れ出す。
 着地後に2撃目、3撃目と更なるパンチの連打を叩き込み……

「掌底打!」

 手首を直角に曲げ、掌の付け根の部分を押し出すような形で巨人さんの顎に叩き付けた。
 巨人さんとは身長差があるので下から突き上げるような形になり、巨人さんは打ち上げられてそのままバタンとステージに倒れ込み動かなくなる。
 しかし、巨人さんは場外へ弾き出されない。

「ふぅ……まだダメージが足りないみたい、場外にさせようかな」

 私は巨人さんを場外にするべく、詰め寄って外に向けて投げ飛ばそうと手を伸ばした。



 私は知らなかった。
 気絶すればダメージ関係なく、場外へ弾き出される仕様なのだと……

 私は気付かなかった。
 倒れて動かなくなってもなお、巨人はしっかりと武器を握ったままだった事を……

 私は後悔した。
 気は抜けないと自分で言っていたのに、気を抜いてしまった事を。



 巨人さんは急に目を見開き、私に向けてアックスを振りかざした。

「!?」

 私は咄嗟の事に反応が出来ず、そのままアックスの一撃をダイレクトに受けてしまった。
 私の身体は空高く打ち上げられ、血を流しながらステージに落下した。


 ーーーコウガ視点ーーー


「巨人が倒れた!」
「カエデさん優勢ですね!押し切れそうです」
「彼女、あんなに速かったのだな、素晴らしい運動能力だ」

 俺とミツキ、セシルは、カエデの勝利が近付いてきたと思っていた。

「……!ダメ!罠っ!」

 クロエは小さく口から罠だと強く呟いた。
 小さく呟いたのは、選手への援護になる行為は禁止されているからだ。
 近場に居た俺とミツキがそれを聞いて「えっ!?」と声を漏らす。
 その瞬間、カエデが宙を舞い……血を流しながらステージに倒れ込んだ。

「カ、カエデ!!」

 俺はきっと、顔を真っ青にして叫んでいただろう。
 場外へ弾き出されるか、試合が終われば元通りになる、命には支障がないのは分かっていたが……それでも俺は胸が苦しくなった。


 ーーーカエデ視点ーーー

「ゔっ……ガハッ……」

 私は倒れたまま血を吐いた、腹部にかなり大きい一撃を貰ってしまった。
 幸いだったのは、常に展開していた装纏のおかげで真っ二つにならなかった事かな……
 腹部を斬られたが、装纏が威力を減衰させてくれたおかげでダメージ上限には至らなかった。
 それでも、斬られた腹部と口から血が出てくる……速く仕留めないと出血によるダメージで試合が終わってしまう……


 私は……ご主人様と戦いたい……

 だから負けられないの……!

 動いて……動いて!!私の身体!!

 動いて!!


 私の身体が、私の心の叫びに応えるかのように動き出し、立ち上がろうとする。
 そして、私の中にあるシェミィの力が……私の身体を包んでいた魔力を大きくさせて猫を形取る。

 まだ戦える……そして巨人を倒す!
 ご主人様と……戦うんだ!!!

 私は、立ち上がる事に成功した。
 巨人は驚いた顔をしていたが、仕留める為にこちらへ走ってくる。

「ハァ……ハァ……」

 私の息が切れ、ほぼほぼ満身創痍状態。
 だけど、シェミィが力を貸してくれている。
 そして……

「カエデェェェ!」

 ご主人様の声が聴こえる……その声が私の力になる。

「私……は、負けない……負けない!!!!!」

 私は猫を形取った魔力に従い、猫のように四つん這いに近い構えを取る。
 そして巨人に向かって駆け出す。
 私の……全力を!この一撃にかける!
 私を包む魔力がどんどん膨らみ、そして凝縮される。
 どんどんシェミィの力と一体になる感覚……
 本当は、ご主人様に初披露したかったんだけど……私の不注意が招いた事だから仕方ない。

「シェミィ装纏!フルパワー!!」

 私を包む魔力が最大まで膨らみ凝縮された。
 元は大雑把に、まるでオーラのように纏っていた魔力は、今はピシッと私の身体にベストフィットするかのように包まれている。
 4つ足で猫が走るように動いている私は、その魔力のおかげでシェミィが走っているように見えてるはず。

「これで仕留める!」

 巨人が私に向かってアックスを振り地面に叩き付けると、ステージの地面が盛り上がって突き上がる、ご主人様が使ったグレイヴのように。
 私はするりと回避して、更に駆け出す。
 私の身体に風がどんどん纏っていき、風の砲弾のように空気を切り裂きながら走る。

「っ!!」
「これで終わり!!装纏猫!疾風弾!!!!」

 私とシェミィが一体になって作り出した風の砲弾による突進は、巨人に命中し爆風のように炸裂した。
 そして巨人はそのまま場外に吹き飛ばされた。

「し、勝者!!カエデ選手!!!」

 ウオァァァァァァァァァァ!!!
 大歓声に包まれた武闘会会場。
 歓声と司会者の言葉により私は勝てたのだと分かった、私とシェミィ……2人の勝利だ。
 途端に傷が癒えているのに気付いた、武闘会用の大型魔法のおかげだ。
 これで、ご主人様と真剣勝負が出来る……!
 私はゆっくりと目を閉じて、勝利を噛み締めながら余韻に浸るのだった。 
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