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一章 邂逅編
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朝、起きたら横に一賀課長が寝ていた。
しかも半裸。
男兄弟がいる人はわかると思うけど男は半裸で家の中をうろつく(我が家調べ)。
冬はともかく夏は常時下着姿だったりする。主にうちの道雄くんの事です。
対してうちの篤くんの方は、半裸でうろつくような年齢の頃には別居していたのでわかりかねますが、たぶん彼は裸族の方でしょうか。風呂上がりは腰にバスタオルでテレビ見ながら炭酸系のアルコールが定番のスタイルで、道雄より若干露出度は高め。
そんなわけで半裸男に耐性のある私は、一賀課長の半裸に、恥ずかしいと頬を染めるわけでもなく遠慮なくガン見した。
まず首から鎖骨にかけてのラインがものすごい綺麗。肌が滑らかなのもいい。
ワイシャツで見えない部分だからかぐっとくるのかもしれないけど、普段見えないのが勿体無い。
寝てると目が閉じられているからか、少し幼く見えて意外に可愛く見える。……まさか芹沢さんちの七緒さんを可愛いと思う日が来るとは思わなかった。それに意外にも睫毛が長い。
そんな事を考えながら観察していると、閉じられていた瞼がゆっくり開いた。
「……なに」
魔王様がお目覚めのようです。
気だるげなかすれた声が背骨を伝ってビリビリくる。
「眠ってると可愛いなって……」
つい思っていた事を口にしてしまう。まだ私も寝起きなので頭が働いていないようだ。成人男性に可愛いはない。
「そう」
喉の奥で笑って、一賀課長は隣に寝ている私に腕を回した。
昨日は起きた時点で一賀課長はいなかったし、ベッドの中でこういう事をされるのは初めてで思わず硬直する。まるで恋人同士みたいな仕草だ。
契約の為に寝たのなら、こういった事は必要ないのに、それをする課長と甘受している私がいる。なんだろうこれ、妄想か私の。
「今日は昼すぎにお客さんが来るから」
「お客さん?」
「そう、君のお兄さんが来る」
なんて事ないように、一賀課長が言う。
………………それ今、決まったわけじゃないですよねええええ!???
すごい大事な事なんですけど!
決定した時点で教えて!
いや、それよりなにより私の本能が、この人とあの人は合わせたら危険だと警告している。
なんだろう、似た者同士?
違うな、ナワバリのあるオス同士?
目が合っただけでファイトが始まりそうな予感しかしない。
「来るって、な、なんで」
「昨日襲われた件についてもそうだけど、色々話さないといけない事があるからね」
「話さないといけない事?」
「一応、円乗寺家の守護を外れたという話を」
言われて、一賀課長の回された腕を掴んだ。
「ま、待って」
それはまずい。
一賀課長と寝たから守護から外れたと説明すのはまずい。なんなの羞恥プレイなの。変態だからって言っていいことと悪い事がありますよ!?
慌てている私を面白そうに眺めながら、一賀課長は言った。
「……君は守護対象者ではないのだから、そんなプライベートな事まであちらに話す義務はない。ただ、外れている状態である事は報告する」
「なんだ……」
ホッとして、掴んでいた腕から手を話す。
良かった。常識ある人で良かった。
変態だなんて心の中で言ってすみませんでした。
「でも言って欲しいなら正確に説明するけど。俺は別に構わない」
「だ、だめ」
再び腕を掴む私に、
「……言わないよ」
一賀課長が耳元で笑いながら言う。
……ところで、私耳まで変になったのかな。
なんだか一賀課長の声が、すごく甘い声に聞こえる気がした。
リビングに入るといわゆるアイランドキッチンのカウンターの上に洋風朝ごはんが用意されていた。
そしてソファの横にはダンボールが三箱置かれていた。
どうやらお手伝いさん的な誰かが来てたらしい。
時間は午前九時を回ったところで、起きたのはついさっき。という事はその前に運び入れられたという事だろうか。
私の後からリビングに入ってきた一賀課長は、私の視線の先をたどって言う。
「そのダンボール箱は君の着替え一式」
「着替え……」
ダンボールを見て反芻する。ダンボールには見覚えのある老舗百貨店のマークがプリントされていた。
「とりあえず急ぎで用意させたから、好みに合うかわからないけど」
「あの……でもこんなには」
ダンボール一箱でも多いのに三箱も。
ちょっと一泊程度でこれは不必要な量だ。
「君はこれからここで暮らすから、これじゃ足りないくらいだろう?」
「………………はい?」
ここで暮らす?
本人なのに初耳ですね。
「君は俺と契約した」
「それはわかってますけど」
「説明するよ」
コーヒーサーバーからカップにコーヒーを入れて私に渡す。とりあえず座れという事だろう。カウンターの椅子に座る。
一賀課長が自分の分のコーヒーを入れて席につくのを見て、私は質問した。
「あの、つまり?」
「一生守るのは本当だから安心して」
「は、はい……」
はい、のいの発音の力が抜けて、『は、はひ……』みたいな変な発音になる。
朝からそのセリフ、よく口に出来るなと思わず感心する。聞いただけの私が挙動不振になるというのに。
そんな私を見て、一賀課長は説明を始めた。
しかも半裸。
男兄弟がいる人はわかると思うけど男は半裸で家の中をうろつく(我が家調べ)。
冬はともかく夏は常時下着姿だったりする。主にうちの道雄くんの事です。
対してうちの篤くんの方は、半裸でうろつくような年齢の頃には別居していたのでわかりかねますが、たぶん彼は裸族の方でしょうか。風呂上がりは腰にバスタオルでテレビ見ながら炭酸系のアルコールが定番のスタイルで、道雄より若干露出度は高め。
そんなわけで半裸男に耐性のある私は、一賀課長の半裸に、恥ずかしいと頬を染めるわけでもなく遠慮なくガン見した。
まず首から鎖骨にかけてのラインがものすごい綺麗。肌が滑らかなのもいい。
ワイシャツで見えない部分だからかぐっとくるのかもしれないけど、普段見えないのが勿体無い。
寝てると目が閉じられているからか、少し幼く見えて意外に可愛く見える。……まさか芹沢さんちの七緒さんを可愛いと思う日が来るとは思わなかった。それに意外にも睫毛が長い。
そんな事を考えながら観察していると、閉じられていた瞼がゆっくり開いた。
「……なに」
魔王様がお目覚めのようです。
気だるげなかすれた声が背骨を伝ってビリビリくる。
「眠ってると可愛いなって……」
つい思っていた事を口にしてしまう。まだ私も寝起きなので頭が働いていないようだ。成人男性に可愛いはない。
「そう」
喉の奥で笑って、一賀課長は隣に寝ている私に腕を回した。
昨日は起きた時点で一賀課長はいなかったし、ベッドの中でこういう事をされるのは初めてで思わず硬直する。まるで恋人同士みたいな仕草だ。
契約の為に寝たのなら、こういった事は必要ないのに、それをする課長と甘受している私がいる。なんだろうこれ、妄想か私の。
「今日は昼すぎにお客さんが来るから」
「お客さん?」
「そう、君のお兄さんが来る」
なんて事ないように、一賀課長が言う。
………………それ今、決まったわけじゃないですよねええええ!???
すごい大事な事なんですけど!
決定した時点で教えて!
いや、それよりなにより私の本能が、この人とあの人は合わせたら危険だと警告している。
なんだろう、似た者同士?
違うな、ナワバリのあるオス同士?
目が合っただけでファイトが始まりそうな予感しかしない。
「来るって、な、なんで」
「昨日襲われた件についてもそうだけど、色々話さないといけない事があるからね」
「話さないといけない事?」
「一応、円乗寺家の守護を外れたという話を」
言われて、一賀課長の回された腕を掴んだ。
「ま、待って」
それはまずい。
一賀課長と寝たから守護から外れたと説明すのはまずい。なんなの羞恥プレイなの。変態だからって言っていいことと悪い事がありますよ!?
慌てている私を面白そうに眺めながら、一賀課長は言った。
「……君は守護対象者ではないのだから、そんなプライベートな事まであちらに話す義務はない。ただ、外れている状態である事は報告する」
「なんだ……」
ホッとして、掴んでいた腕から手を話す。
良かった。常識ある人で良かった。
変態だなんて心の中で言ってすみませんでした。
「でも言って欲しいなら正確に説明するけど。俺は別に構わない」
「だ、だめ」
再び腕を掴む私に、
「……言わないよ」
一賀課長が耳元で笑いながら言う。
……ところで、私耳まで変になったのかな。
なんだか一賀課長の声が、すごく甘い声に聞こえる気がした。
リビングに入るといわゆるアイランドキッチンのカウンターの上に洋風朝ごはんが用意されていた。
そしてソファの横にはダンボールが三箱置かれていた。
どうやらお手伝いさん的な誰かが来てたらしい。
時間は午前九時を回ったところで、起きたのはついさっき。という事はその前に運び入れられたという事だろうか。
私の後からリビングに入ってきた一賀課長は、私の視線の先をたどって言う。
「そのダンボール箱は君の着替え一式」
「着替え……」
ダンボールを見て反芻する。ダンボールには見覚えのある老舗百貨店のマークがプリントされていた。
「とりあえず急ぎで用意させたから、好みに合うかわからないけど」
「あの……でもこんなには」
ダンボール一箱でも多いのに三箱も。
ちょっと一泊程度でこれは不必要な量だ。
「君はこれからここで暮らすから、これじゃ足りないくらいだろう?」
「………………はい?」
ここで暮らす?
本人なのに初耳ですね。
「君は俺と契約した」
「それはわかってますけど」
「説明するよ」
コーヒーサーバーからカップにコーヒーを入れて私に渡す。とりあえず座れという事だろう。カウンターの椅子に座る。
一賀課長が自分の分のコーヒーを入れて席につくのを見て、私は質問した。
「あの、つまり?」
「一生守るのは本当だから安心して」
「は、はい……」
はい、のいの発音の力が抜けて、『は、はひ……』みたいな変な発音になる。
朝からそのセリフ、よく口に出来るなと思わず感心する。聞いただけの私が挙動不振になるというのに。
そんな私を見て、一賀課長は説明を始めた。
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