星の名で呼ばれる

綿入しずる

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(長編『ご主人様の枕ちゃん』既読の方向け小話)

 王宮の中、連れられて歩いているときに主人が立ち止まり深く礼をしたので、僕もその後ろでより低い位置へと頭を下げた。ちらと視界に入っていた眩しさは、ここ一年で遠巻きには見慣れてきた加護つきの眼光。でもいつもとは色が違った。
 王族じゃなくて、あの人だ。大臣様。
「ご機嫌麗しゅうございます、リーシャット様」
 一年前に、僕を――買わなかった人。向こうも立ち止まったので主人が挨拶をする。奴隷たちに向けるのとは全然違う恭しい声。
「……それは何を食わせて肉をつけているのだ? 氷精ヒエムと火精では違うものか」
 振られる話が僕のことだったのでどきっとした。目も多分、こっちを見ている。動いていいと言われても動けない独特の緊張感。
 僕ら妖精憑きは、普通の人間より体が育ちにくいという。食事を妖精にとられてしまう。他より美味しいものを多く貰っているせいか、僕にはあまり関係がなかったけど、周りを見たら大体そうだった。
「妖精での差はございませんがやはり体質がございます。これは産地がコステアですので、恐らくはその色が強く出ているのでしょう。あの地は男も女も幾分ふくよかです」
 主人は驚いた様子もなくすらすらと答えた。そうらしい。前にも他の人に話しているのを聞いた気がする。この主人じゃなくて前の主人だったかも知れない。
「食事には穀類より乳や肉を多く摂らせるのがよろしいかと。――これも、ご希望とあればいつでも提供いたしますよ。勿論他の物でも。お好みを見繕いましょう」
 添えられる、奴隷の貸し出しを窺う言葉に、もしかしたらと一瞬期待をしてしまった。でも返答は早かった。
「要らん。あれにあのような顔をさせるのは一度で十分だ」
 ……やっぱりこの人はお気に入りしか興味がないみたいだ。まだお気に入りなんだ。……奴隷の顔色を気にしてくれるなんて、本当に優しいご主人様。とっても羨ましい。
 お気に入りの奴隷のほうも、半年前に暑期ハアルの宴の化粧室で見かけていた。一瞬だったけど、顔の虫食い痕を白粉で隠したあの子は顔だけじゃなく雰囲気が前とは違って、なんだかぴかぴかしていた。あのときは不慣れっぽくて不安そうだったのに。きっと可愛がられてるんだろう。
「左様でございますか。何かお困りでしたらまたご相談ください。奴隷のことでも術具のことでも何なりと、私めにお任せくださいませ」
 立ち話はあまり長くは続かず、よく聞くご挨拶のやりとりが少しあって、大臣様は去っていった。緊張感から解放されて、見送る間を置いてから歩き出すご主人様に合わせて静かに足を前に出す。縮こまった首を伸ばす気分で背中を眺めていたら、珍しい独り言が聞こえた。
「妖精の等級ばかりはともかく。他はお前のほうが上等で具合もよいのに、人の趣味とは分かりませんねえ」
 僕は外では許可がないと喋れない、答えられないので、こっちを向かないそれは独り言だろうけど。褒められた。それも珍しい。うれしい。
 ご主人様は思った以上に僕のことを気に入ってるのかも。そんな声の調子だったから、少し得意になった。……だったらもっと調教を甘く優しくしてくれれば嬉しいのにな、とは、怖いから独り言でも絶対言えない。調教がなってるからこそ、なんだろうし。
 長くお気に入りでいられるように精々気をつけてお仕えしよう。そうしたらもしかすると、力尽きて燃え尽きてしまう前に、僕もぴかぴかの星になれるかも。
 そんな浮ついた考えができるだけ、やはり前より余裕があった。まだ冷える毎日で、どうも他より寒がりなご主人様の添い寝のお求めが多いのも、また一因かも知れなかった。
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